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シュンラン(春蘭)
ラン科
シュンラン属
母の置きみやげである
母は、「ジジババ」とこのシュンランのことを呼んでいた
どうしてかは、聞き漏らしたが、以前は何処でも普通に見られたランだ
足を折ってしばらく私の家に居ながらリハビリに通った折りに
水やりが大変だと、沢山の鉢を我が家に疎開?させた
花好きな母は、実家の家の周りに沢山の花を植えたり鉢物にして楽しんでいた
我が家にも、多くの花が移植され育っている
ツバキ、サザンカ、レンギョウ、千両、万両、紫陽花、沈丁花、金木犀、クチナシ、
ツツジ、サツキ、ピラカンサ、もみの木、松、イチョウ、水仙、プリムラ・・・
中には、イチョウのように、母がギンナンの実を取るために庭に埋けていたタネから
発芽したものまである
10cm足らずだった苗も、今は、2階の屋根を越すほどに育った
そして、このシュンランである
母には申し訳ないが、このシュンランも植え替えもせず、庭の樹の影に置きっぱなしになっている
でも、逞しく毎年花芽を上げて、地味ながらも、趣のある花を咲かせてくれている
シュンランの花芽を見るとき、今はもう、年齢的なものからくる緑内障で
ほとんど視野のなくなった母を思う
綺麗な花や樹たちが、我が家で息づいているのを見せてあげたいが、詮無いことだ
花に触れるほど近寄って、手で触れて、かろうじて見える母だから・・・
私に出来ることは、今はもう、兄の家にいる母に会いに行くことしか出来ない
母の横に座り、耳元で声を掛けると、細くなった手で私のほほを挟んで
嬉しそうに、「ああ、おまえか~、」と今度は肩から腕にと手を動かして
楽しそうに笑う
私といえば、そんな母の小さくなった手を握って、温もりを分かち合う
この年になっても、母が健在ということは、とても幸せなことだ
飲兵衛だった父の血を受け継ぎ兄弟の中でただ一人、今はない父と晩酌を付き合った
私は、他の兄弟より父と母のお気に入りなのだ
出来ることなら、私と一緒に住みたかった父と母・・・
「長男に恥じをかかせたくない」という父の言葉を重く受け止めた三男の私だった
この花を見るたび、無沙汰をしっぱなしの母を想う
置きみやげが、形見にならないことを祈りながら、
シュンランの咲くのを楽しみにしている、たけぞうである
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