山形市、いとう柚子(いとう ゆうこ)氏の第4詩集『冬青草をふんで』が届いた。
読み終わってみると、私の心がすごく落ち着いている。何がそうさせるのだろうかと振り返ってしま
う、不思議な余韻のある作品が多い。
目で詩行を追い頭の中で情景を描きながら作者の”心”を覗いてゆくと、見えてくる作者の姿勢そのも
のが”静”であるということに気づいた。決して起伏のある感情でも冷たい感情でもなく、しっとりした
ようなもの。静かに流れる時間が、作者との距離感をよく表している。沈思する作者の眼が見えてくる
詩集だ。
序詩 冬青草をふんで
秋野の果てをふみこして/足裏にはいま/冬草の原/片時雨がやんで/みじかい草々に/いつくしむ
ように陽差しがそそいでいる
いっしゅん青緑の広がりに/なつかしい匂いがみちわたる/記憶の底ふかくから掬いあげられる/春
のさざめきを/夏のまぶしさを/もうしばらく抱きしめて歩いてみよう
すぐそこであるような/まだすこしむこうであるような/ほんとうの果てで/一人称の物語が閉じら
れる/その日も きっと/この草の原から遠くはなれた/見知らぬ明るい地で/見知らぬだれかの胎
内に/あたらしい命が育ち始めている
発 行 2019年6月21日(まだ発行日前だが奥付をそのまま記載する)
著 者 いとう柚子
編集発行者 鈴木比佐雄
発行所 ㈱コールサック社
定 価 1,500円+税