森田 薫 氏(鳥取県北栄町)の第3詩集『冬の涯底(そこひ)から』をご恵投いただいた。
言葉の美しさというのは表現を豊かにする。
いや、言葉の美しさを引き出せる、使い切れるというのは表現を豊かにする、と言った方が正しい
のかも知れない。
作者が意図するとしないとにかかわらず、さりげなく詩句として置かれているとしたなら、
それはもう、作者の資性としか言いようがない・・・。そんな感じが氏の作品に多く見受けられる。
”詩”を読むことの懐かしさのような、”詩”集を手に取るよろこびのような充足感。
冬の道
・・ふしぎなことに
もう何処へも行こうと思わなくなった
そこに道があればおのずから
ひらけゆくものがある
道の傍らに一本の樹が立ち上がり
夕べ、ぼくは梢のまわりを満天の星がめぐるのを
カーテンの隙間から見ていた
水天の華が風に舞う冬の道
生と死と、あらゆるものに光と影を宿す
この世の謎と
幾世紀をめぐるはるかな旅程
ぼくらの眼差した世界の踏破が未遂のままであれ
ただ生きてあることのふしぎを想う
道があり
樹はそこに立っている
吹きぬける風
鳥たちの飛来も
散華も
花も鳥もわが家の犬の遠吠えさえも
いま在ることのすべてが訪(おとな)う季節(とき)の約束なのだと
*第3連 水天の華・・風花のこと(造語)
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注記記号が付された第3連”水天の華”は上記表記とした。(前田)
発 行 2022年8月30日
著 者 森田 薫
発行所 土曜美術社出版販売
頒 価 2,000円+税