陽だまりの中のなか

前田勉・秋田や詩のことなど思いつくまま、感じたまま・・・。

佐藤光江詩集『菜の花の海の』

2023-08-07 | 詩関係・その他

     

 静岡市住の詩人佐藤光江(さとう・みつえ)さんから第5詩集『菜の花の海の』を拝受。
 佐藤さんは日本詩人クラブ、日本現代詩人会各会員。詩誌「楷の木」同人。

 この詩集に収められている「戸口」と言う作品を読んでいるとき、不意に若い頃に私淑してい
た画家のことが思い出された。<自分らしさとは何だろうか。自分らしさという言葉を出すこと
はすでに自分らしさの「らしさ」を知っていることだよな>と語り、<自分のことを知ろうとし
ても、なぜかいつまでたってもその先へ到達できないのは不思議なんだよね。勿論、一般論だけ
ど>・・・とも言っていた。半世紀も前のことだが。
 それはさておき、佐藤さんの「戸口」は次。

 「戸口」
 
息をきって/たどり着いた/此処/戸口はピシャリと閉ざされ/気配ひとつない//何を追い
 かけてきたか/何に駆りたてられてきたか//
自分らしく/生きることを/願いながら/履き
 間違えたか/それとも/選んだか/
ようやく気づいた/誰かの靴を履くことの/心地悪さ//
 いつも/腰の辺りにぶら提げていた/不格好に膨れた堪忍袋/捉われの紐を解こうと/手をか
 ければ/思いがけず/たわいなく緩んだ//
待っていたのだろうか/戸口は軋みながら/ゆっ
 くりと開いた/其処に/朝の陽をまとう/
ひとがた

 佐藤さんの詩世界の底流にあるのは、ご自身の在り方を希求する姿勢であろうか。ずっと走り
続けてきて、ふと止まっては置き去りにしてきた自分を確認しようとする。さりげなく自身を見
つめながら振り返ってみるのだが、その後も前も霞だっている。そのような詩世界を描いている
ように
感じた。当然ながら、詩の世界であってそれらが作者個人のこととは限らない。
 <あとがき>から、印象的な佐藤さんの詩との繋がりを引用しておきたい。

 ~(略)詩と歩んだ長い時間を振り返れば、越し方のせいだろうか自己肯定感に乏しい性分は、
 今さら変えようもなく、私にとっての詩は一歩踏み出すために生まれるものだ。/
~(略)何よ
 りも自分に一番正直に向き合えるのが詩作り。/手放してはならない存在。/生き抜くための
 杖。/鉛筆を握ることは必然なのだ。

 

発 行  2023年5月10日
著 者  佐藤光江(静岡市)
発行所  土曜美術社出版販売
頒 価  2,000円

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宮本苑生詩集『あかね雲』

2023-08-07 | 詩関係・その他

     

 宮本苑生(みやもと・そのえ)さんから詩集『あかね雲』をご恵投いただいた。
 宮本さんは東京都住。日本現代詩人会、日本詩人クラブ、日本ペンクラブの
各会員。

 いつもは<あとがき>に触れてから読み出すのだが、たまたま、あとがきを目にしないまま読み
進めて
いたところ、なにか全体が”死者”との語り、あるいは関わり合いを描いていることに気付い
た。
あとがきを開いてみて、なるほどと頷く。
 
  『Ⅰの「ひかり」は、東日本大震災のその年のうちに編んだ個人詩誌「ひかり」に、
   作品「水底の骨」を加え、他は、ほとんどそのままの形で掲載しました。あとがきに
   「震災の犠牲となられた方々にこの小さな作品集「ひかり」を捧げます。」と記しまし
        た。』

 とある。大震災の時、詩を書く者には何ができるのかとか、詩を(あるいは詩らしきものを)
こぞって直截的な事象として書くだけ・・そんなものか?と問われていた。詩を書く人がそう思っ
てそのように問う姿が多かったということは、ある意味での限界とか無力さを感じていたからに違
いない。詩はどうあるべきか、などと私はとても言い得る素養を持ち合わせていないが、宮本さん
のこの詩集に収められている作品群を読み進
めて行くと、亡くなられた人の側とこの世の側の人と
の交感が実に
現実的な感じさえして、こういう表現の仕方に感動した。詩は何をすることが出来る
のかという問いへの、より近接した<コタエ>の一つかも知れない。 

 

    見つけたかしら

  この川は あの川と同じですか
  渦巻き 逆巻いた
  あの川と同じですか

  この私は あの時の私と同じですか
  こんなに儚くなったけど
  同じですか

  随分遠くまで探しにきました
  哀しみだけが点る
  ここは いったい どこですか

  わたしの胸は張り裂けて
  もはや記憶も曖昧です

  私はあなたを探しています
  水の匂いたよりに 探しています

  あなたは 私を見つけたかしら

  蛍になった あなた
  蛍になった 私を
  見つけたかしら

 

発 行  2023年5月10日
著 者  宮本苑生
発行所  土曜美術社出版販売
頒 価  2,000円

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