月のカケラと君の声

大好きな役者さん吉岡秀隆さんのこと、
日々の出来事などを綴っています。

吉岡刑事物語・その8.5

2008年12月18日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語


やわらかな午後の光が、
部屋の白さの中に溶け込んでいた。
こまやかな光の粒子が、
病室の窓際に揺れるカーテンをくぐり抜け、
清潔に整えられたベッドのシーツの上に
静かに舞い降りている。
俗世に支配された空気の濁りは日差しの中で浄化され、
ここでは全てが穢れのない光に包まれている。
そんな光の波に溶け込みながら、
吉岡は静かにベットの上で眠っていた。
微かに繰り返される呼吸がシーツを動かす以外は、
ひっそりと物静かに横たわったまま、彼は光の中で透き通っている。
誰も、何も、触れてはいけないと感じさせる
森の奥深くにひっそりと佇む湖のような清澄さが、
その寝顔には宿っていた。
窓のすぐ外にある欅の木の枝葉が、穏やかな木漏れ日を部屋へと運んで、
微かに蒼く透明がかった吉岡の白い皮膚の上に葉影を落としている。
それはゆらゆらと揺らめきながら、光の孤独をそこに映し出していた。

静かな午後の日だった。

流れを止めたような時の中に埋もれながら、
吉岡はただ静かに深い眠りに落ちていた。
僅かに開いた窓から忍び込んできた初秋の風が、
いたずらに吉岡の髪をそっと揺らしていく。
風が頬を撫でていくのを感じて、
ふっと吉岡は目を覚ました。
微熱をまとったその瞳は、少しだけ物憂げに、
風に揺れるカーテンをとらえた後、
ゆっくりと窓の外へと視線を移していった。 
9月の冴えきった青空が、枝葉の隙間の中に
ちりじりに散らばっている。
吉岡は暫くその切り取られた空の破片を見つめていた。

なんて窮屈そうな空なんだろう・・・。

遮るもののない空が見たい、と吉岡は思った。
屋上に出よう。
午後の回診の時間までにはまだ間がある。
今なら病室を抜け出しても差し支えないだろう。
そう思って上半身をベットの上に起こそうとした途端、
右肩に激痛が走って、吉岡は思わず眉をしかめた。

情けないな・・・。

軽くため息をもらしながら、
吉岡は自嘲気味に再びベッドに体を横たえた。
集中治療室からこの個室病棟に移って一週間が過ぎたというのに、
療養しているという状況に未だに気持ちが付いていかない。
吉岡は白い天井をじっと見据えた。

焦っているのか?
落ち着けよ。

そう自分を戒めながら、吉岡はそっと瞳を閉じた。
傷に響かないように、深く息を吸ってみる。
そうすることで靄がかった焦燥感が、
少しだけだが晴れていくような気がした。
その晴れ間から、はるか昔に見た風景が心に浮かんできた。
それは子供の頃の吉岡が当時よく遊びに行った原っぱだ。
その風景の中で、小学生の自分がその当時仲の良かった
近所の友達たちとかくれんぼをして遊んでいる。
吉岡はうち捨てられたトタン板を盾にして、その裏に隠れていた。

もういいかーい?

と、鬼の役の子の声が遠くで聞こえる。

もういいよー!

それぞれの場所に隠れた友達の声がそこかしこから
聞こえてくる。

もういいよ!

吉岡も大きな声で言い返す。

みーっけ! 

みーつけた!

一人、二人、三人と、
隠れた子らが次々に見つけ出されていく。
吉岡はまだみつからない。

みーっけ!

みーつけた!

最初は得意気に隠れていた吉岡だが、四人、五人、と
さらに他の友達が見つけだされていくうちに
だんだんと心細くなっていった。
夕焼け空は次第に暗さを帯び、最後に残ったひと塗りの赤色を、
かろうじてその一隅に残しているだけだ。

僕はここにいるよ!

寂しさに耐え切れなくなった吉岡がトタン板から身を出すと、
原っぱには誰もいない。
枯れた雑草だけが物寂く風に揺れているだけだった。
突然笑い声が遠くで聞こえてその方向へ目線を移すと、
原っぱから出た道を、今まで一緒に遊んでいた友達たちが
家路についている姿が見える。

みんな待って!

吉岡は皆に追いつこうと走り出すが、足がもつれて
うまく走れない。

みんな待って!

すると遠くの方から友達たちの会話が耳に入ってきた。

「ヒデちゃん、帰っちゃったね。」
「いつも遊んでいる途中でいなくなっちゃうね。」
「ヒデちゃんね、また遠くにいっちゃうんだって。」
「この間帰ってきたばっかりなのにね。」

そう言いながら友達の姿はどんどん吉岡から離れて
小さくなっていく。

違うよ、僕はここにいるよ!

ここにいるんだよ!

そこではっと目が開いた。
息が詰まるように苦しくて、
額にうっすらと汗が滲んでいる。
気だるかった。
あんなことを心に思い浮かべるなんて、
病み上がりのせいだ。
吉岡はまた軽く目を閉じた。
心を空にしようと、それだけに意識を集中させようとしたが、
しかし体が熱く、息苦しくて、
上手く意識を集中させることができない。
呼吸を繰り返す空気は心なしか重く、
蒸し暑いくらいだった。
人いきれするような暑さだ。
また熱が上がったのかもしれない。
だるさと体の熱に押しやられるように、
吉岡は横に寝返りを打った。

吉: うわっ?!

ゴ: ここは何処? 私はゴリ。

吉: なんで僕の真横に寝ているんですか、ゴリさん?!

ゴ: 徹夜続きの張り込みでな、ついウトウトしちまっただよ。

吉: 僕のベッドでついウトウトなんてしないで下さい。
いつの間に潜り込んだんですか?

ゴ: そんなのいつだっていいじゃんか。それよりな、
他にもっと気付くべきことがあるだろう? 周りを見ろよ。

吉: え?

 
一同:吉岡くんっ!!!


吉: っ?!

ゴ: とまぁ、大文字で省略しちゃったけどね、とにかく
こ~んなにたくさんの人がお前の見舞いに詰めかけて、
ここは一大事ってわけ。満員電車の中みたいじゃないですか。
息苦しいったらありゃしねぇ。

吉: あの・・

一同:きゃぁ~~っ!!

吉: ・・僕はもうだいじょ・・

一同:喋ったよっ!!!

吉: ・・・・・、

一同:・・・、らしいっ!

「いいかげんにしたまえ、君たち!」

とその時突然窓際の方から声がした。
みな驚いてその声の方向に振り向くと、そこには、

吉: マチャトンくん?!

白衣に身を纏ったマチャトンの姿が。

マ: いや僕はマチャトンではない。彼の兄だ。

吉: え、双子だったんですか、マチャトンくんは?

マ: いや、10つ子だ。

吉: は?

マ: 僕は八男のマチャハチです。君の同僚のマチャトンは
末っ子の十男でね、一番末ということで両親は彼の名の下に
「ん」をつけたんだが、それだとどうもコパトーンと間違われやすい
ということで、一般生活では略してマチャトンと呼ばれている次第なんだよ。
戸籍上での彼の正式名は「マチャトオ、ン」なんだ。

吉: ・・・そうだったんですか・・。

マ: と、こんなことを窓の外から言っていてもしょうがないな。
病室がギュウギュウ詰めで入れないから棟の壁に梯子を立てかけて
ここまで登ってきたんだが、こんな登場の仕方ですまないね。
ちょっと失敬してここから病室の中に入らせてもらうよ。
はぁ~よいしょと。それで吉岡君、傷の痛みはどうだい? 
ちょっと見せてもらうよ。

マチャハチが吉岡の肩の包帯に手をかけた時、

「ちょっと待った。」

と今度は廊下の方から何者かの声が低く響いてきた。
病室のドアの方に一斉に振り返った人垣の向こうから、
その声は更に続く。

「見舞い解禁日ということで、せっかく足を運んでくれたのに
申し訳ないのですが、今日のところはお帰りいただきたい。
吉岡はまだ疲れています。廊下で見舞い日整理券を配っておりますので、
お帰りの際はお忘れなく受け取ってください。次回はその日付に従って
ここにお越し下さるように。それではみなさん、ごきげんよう。」

一同:えぇぇぇ~~?!

「お黙りなさい、駄々っ子たちよ。吉岡のことを思うなら、
ここは速やかに帰るべしなのです。わかりましたね?」

一同: しゅん。。。

となりながら肩を落とした見舞い客たちが、
ぞろぞろと病室から出て行くのと引き換えに、
ブランドものの細身のスリーピースをきっちりと着こなした
いかにもエリート風の紳士がドアの入り口に姿を現した。
カツカツカツ、と快活な靴音を響かせながら、彼はまっすぐに
吉岡のベッドまで歩いてきた。

吉: ボス・・。

ボ: 体調はどうだい、吉岡君?

ベッドの横に立ったその姿は、武道でもやっていたのだろうか、
姿勢の良さがきりっと際立っている。

吉: はい、もう大丈夫です。

ボ: そうか、良かった。顔色も幾分よくなったみたいだね。
安心したよ。

吉: ありがとうございます。

ボ: ゴリさんも徹夜明けのところごくろうさま。あ、これは失礼、
白衣を着てらっしゃるところから察すると、それではあなたが
くるまやの三平ちゃんですね?

マ: 違います。僕は吉岡君の担当医の堺マチャハチです。

ボ: そうでしたか。私は吉岡君の上司で警視庁捜査一課長、
花山院ビビンバと申します。

マ: ・・

ボ: いや、私の名前に驚かれるのも無理はない。
大丈夫ですよ、気になさらなくても。驚きのリアクションには
慣れていますからね。実は私の母親はスイス生まれのチロリアンでしてね、
父は東京と島根のハーフです。

マ: ・・・。

ボ: ちなみに妹の名は花山院ラバンバ。

マ: ・・・。

ボ: 祖母はヤマンバで、母はケロンパ、父はメルヘンです。
ま、とにかく、刑事として駆け出しの頃には、相棒だった石焼デカと一緒に、
「石焼っ!」「ビビンバっ!」「ビビンバはっ?」「石焼だっ!」
と呼び合ったお陰で、数多くのホシの心を和ませ自白に至らせました。
それで今日の私がここにいるというわけです。親には感謝しています。
ところでゴリさん、そこで何をしているのですか?

ゴ: カジキマグロをおろしているんです、三枚に。
志木那島漁連という所から今朝ここに届いたもので、
新鮮なうちにおろしておこうと思いましてね。

ボ: それは緊急なことなんですか?

ゴ: 緊急というよりなんといいますか、
早起きは三文の徳といった心境ですね。

ボ: それでは致し方ないでしょう。

マ: 何者なんですか、あなたたち?

ボ&ゴ: え?

マ: ここをどこだと思っているんです? 病院ですよ。
病室で魚をおろすなんてもってのほか、というかどうしてここに
カンガルーがいるんですか?

ゴ: ああ、こいつはラッセルーといって、吉岡が挙げた
ホシの部下だったんだが、その時吉岡が命を張って
相棒を助けた姿に心を打たれ更正してな、今では築地で
ういろう職人として立派に働いているんだ。いつか日本一の
オージーういろうを作るんだと、毎日一生懸命頑張っているんだよな、
そうだよな、ラッセルー? 俺はその話を聞いて・・くっ。。

ボ: ゴリさん、これを・・・。

ゴ: すまない、ボス。最近はすっかり涙もろくなってしまって・・。
ブビーッ!(←ハンカチで鼻をかんでいるらしい。)

マ: ・・・

ゴ: ブビーッ!

マ: ・・・・

ゴ: ブビーッ!

ボ: あ、吉岡君の顔色が。 

マ: えっ?! ちょっとどいてくださいっ、ドロンパさんっ!

ボ: 失礼な。私の名前はビビンバですよ、マチャゴー先生。

マ: ふざけないでいただきたい。僕は八男のマチャハチです。
五男のマチャゴーではありませんよ。

ゴ: オレはマンゴーは好きじゃないな。

マ: 誰がマンゴーなんですっ? そういうあなたは誰なんですか?

ボ: 君たち!

マ&ボ: ?

ボ: パパイヤ、マンゴーだね?

マ: ・・・。 ハッ、吉岡君っ、大丈夫かっ?!

ゴ: キウイがどうしたって?!

マ: そんなこと誰も言ってませんよっ! 
ふざけたことを言っているから、吉岡君が
貧血をおこしてしまったじゃないですかっ。
吉岡君っ、大丈夫か?! しっかりして!!

吉: 大丈夫です・・。ちょっと急に軽い目眩が。。。

マ: 外的ストレスのせいだよ。
こんなふざけた人たちに囲まれていたのでは・・・。可哀想に。
(キッ!)(←とボスとゴリさんを睨んだらしい。)
お二人とも、もう帰ってください。
せっかく順調に快復してきている吉岡君に、
マイナスな刺激を与えるのはやめていただきたい。

ボ: ・・・・・。

マ: なんですか?

ボ: ・・・・・。

マ: 何か僕に仰りたいことでも?

ボ: ゴリさん、ちょっと。。。

ゴ: はい? 

ボ: ちょっとこちらへ。

ゴ: はい。

ボ: ヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソ

マ: 部屋の隅でなに内緒話しているんです?

ボ: え?

マ: 言いたいことがあるなら、ヒソヒソ言ってないで
きちんと他の言葉で言ったらどうですか?

ボ: こそこそこそこそこそこそこそこそこそ

マ: コソコソだって同じことですっ!
ちゃんと面と向かって意見してください!

ボ: そんなに聞きたいと仰る?

マ: ええ。正々堂々と言ってください。

ボ: “マグロはたたきにしてください、ゴリさん。”
と言っていたんです。

マ: 出ていってください。

ボ: わかりました。そこまで言うなら、吉岡君、
出て行ってくれ。

吉: はい。

マ: 吉岡君が出て行ってどうするんですかっ?!
吉岡君、ちょっと、ちゃんとベッドに寝てて、ね? 
傷口が開いちゃったらどうするの? 
いいですかババンバさんたち、ここから出て行くのは
あなた達の方なんですよ!

ボ: そんなことは初耳ですね。

マ: 常識です。とにかく今すぐ退室してください。

ボ: そうは問屋が歳末セールとでも申しますかな。とにかく、
捜査の邪魔はしないで頂きたい。

マ: 捜査?

ボ: ・・・

マ: ちょっと待ってください。捜査とは何のことですか?

ボ: ・・・・。

マ: まさかこんな状態の吉岡君に任務命令をするとでも?

ボ: ・・・。

マ: そんな無謀なことをしようと思っているのではないでしょうね?

ボ: ・・・・。

吉: ボス?

ボ: (プイ。)

マ: 知らんぷりしても無駄ですよ。いいですか、
吉岡君はまだ回復していないんですよ。まだ十分な休養が必要なんだ。
そんな彼に新しい任務を下したらどんなことになるか・・・。
捜査への復帰は主治医の僕が許さない。帰ってください。
当分彼への面会は控えさせていただく。

ゴ: ちょっと待てよ。吉岡の意見はどうなんだい?

マ: え?

ゴ: 吉岡の気持ちも聞かずにてめぇ独りで決めることじゃねぇだろうが。
おい、吉岡、お前の気持ちはどうなんだ? 捜査に出たいのか、
ここで大人しく寝ていたいのか、どっちなんだい?

吉: ・・僕は、

マ: 吉岡君?

吉: 僕は・・

ボ: 吉岡君?

ゴ: (スパー。)

マ: 禁煙ですよ、ここは。

吉: 僕は・・・・捜査には一日も早く戻りたいです。でも、
今のこの体の状態では、それは到底出来ない事だとわかっています。
もし今仮に捜査に出ても体がついていかず、チームに迷惑を
かけてしまうことは必至です。ボスやゴリさんの期待はとても嬉しいです。
しかし、期待に応えたいという自分の欲だけを追い求めたら、
いい仕事は出来ないと思うんです。僕は・・僕は欲には負けたくない。
弱気な奴だと思われるかもしれませんが、それが今の僕の正直な
気持ちなんです。すみません、僕は今捜査には戻れません。

マ: ・・・。

ボ: わかりました。吉岡君、君の言うことはもっともだ。
優秀な君に頼って無理を押し通そうとした私が悪かった。
傷が完治するまで、ゆっくり休んでくれたまえ。
秘密捜査のほうは、君の相棒のマチャトオ、んくんに
代わりに出てもらうことにしよう。君は心配しないでいい。
ゴリさん、行きましょう。君もだよ、ラッセルー君。

二人と一匹は病室のドアへと向かっていった。
彼らの背後でドアが閉まり、
そして病室は再び元の静けさに包まれた。

マ: すまなかったね、吉岡君。無理な答えを言わせてしまって。

吉: いや、あれが正直な気持ちだったんです、本当に。

そう言って吉岡は少しだけ困ったように微笑んだ。
そんな吉岡の顔を驚いたような表情で見つめた後、
マチャハチはベッドの横にある椅子にそっと腰を掛けた。
聴診器を首から外して、それをサイドテーブルの上に置いた。
白く統一された部屋の中で、その聴診器の存在は、
マチャハチにはひどく不釣合いのように見えた。
そこから目線を吉岡に移すと、まっすぐに澄んでいる彼の瞳と目があった。

マ: そっか・・・。

吉: ?

マ: 弟のマチャトンが、君をかけがえのない大切な友人だと
言っている意味がよくわかる気がするよ。

吉: え?

マ: 弟はいい友人をもっているんだな。

吉: ・・・。

マ: 無事に退院したら、快気祝いに一杯飲みにいこうか?

今度は吉岡が驚いてマチャハチの顔を眺めた。
少し照れくさそうな表情を浮かべながらマチャハチは
窓の外に目線を移した。その彼の背後で、
僅かに色づき始めた木々の葉が光と影の中で揺れている。
その光彩に、すっと吉岡の気持ちは吸い寄せられていく。

午後の木漏れ日の中でキラキラと風に揺れながら
命の美しさを謳っている葉たち。
やがていつかは、季節と共に枯れ落ちていくという
葉たちの宿命も、いま目の前にしている
その生命の美しさを前にすれば、
それはあまり悲しいことではないことのように思えた。

大切なのは、今この瞬間を生きることなんだ。
この一瞬を感じることなく、
どうして未来へと気持ちが繋がっていく?

日差しにきらめく葉を見つめながら、
ふとそんな思いが吉岡の頭によぎっていった。
視線を病室に戻すと、同じく視線を元に戻した
マチャハチと目が合った。

吉: そうだね。全快したら一緒に飲みにいこう。

そう言った吉岡の顔は、一層澄んだ輝きを放っていた。


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吉岡刑事物語 その11

2008年11月27日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語


息苦しさで意識が戻った。
気付くと周りは一面の暗闇で、
不気味なほどに静まり返っていた。
自分の置かれた状況が、
吉岡にはすぐに理解できなかった。

何が起こったんだろう?
自分は今どこにいるんだ?

記憶は壊れたビデオテープのように、
切れ切れな映像を再生するだけで
全く要領を得ない。
それより呼吸が苦しかった。
体全体が四方から圧迫されて息が上手く吸えない。
しかしその惨めな状況が、
吉岡の意識を無慈悲に現実へと引き戻した。

そうだ、
雪崩にやられたんだ。

マチャトンくんは?!

咄嗟にマチャトンの安否のことが脳裏をよぎった。

彼は無事なのか?

吉岡はマチャトンの名前を呼ぼうとしたが、
しかし思うように声が出せない。
体を動かそうにも、そこに寝袋がピッタリと
糊をつけたように張り付いていて、
僅かな隙間の空間に位置した右腕すら
全く動かすことが出来なかった。 
懸命にもがけばもがこうとする分、雪の重みは
じわりじわりと吉岡を圧し潰しにかかってくる。
恐怖が吉岡を襲ってきた。

ここから出なければ。

雪崩に埋もれたら、最初の20分で
その生死の行方は決まってしまう。

早くここから出なくちゃ・・・ 
出ないと・・・
でもどうやって? 
それより、
息が、
息が出来ない。
誰か・・
誰か、
助けて・・・

意識まで暗闇の中に引き込まれそうになったその時、
一気に酸素が吉岡の肺に入ってきた。

マ: 吉岡君っ!!!

頭上に雪の切れ目が開いていた。
マチャトンの顔がその先に見える。

マ: 今助ける! もう少しの辛抱だ!!

マチャトンが必死になって雪を掻き分けてくれたお陰で
吉岡の体に感じていた雪の圧迫感は次第に軽くなっていった。
やがて雪穴を大きくこじ開けたマチャトンは、
中に埋もれていた吉岡を両手で掴んで外に引き出した。
吉岡はその場で何度も大きく息を吸い込み、
乾いた空気が喉につかえてゴホゴホと咳こんだ。

マ: 大丈夫か、吉岡君?!

吉: うん・・。 大丈夫・・。

マ: 危機一髪のところだったよ。ちょうど僕が紅茶を作ろうと
テントの外に雪を取りに行ったときに雪崩が起きたんだ。
僕は上手く流れに乗って泳げたから遭難を逃れたけど、
君はあっという間に埋まってしまって・・・。
ほんとにあっという間だった。。。
小規模の雪崩だったのが不幸中の幸いだったよ。

吉: ありがとう、マチャトンくん。

咳で乱れた呼吸を整えながら吉岡は礼を言った。

吉: 君のお陰で命拾いした。ありがとう。

マ: ・・・よ、よせやい、吉岡君。。。

吉: 本当だよ。もし君がいてくれなかったら、
僕は絶対助かってなかった・・・。

マ: ・・・・。

吉: 本当にありがとう、マチャトン君。

マ: ・・・・。

吉: (ニコ。)

マ: ・・・・。

吉: (ニッコリ。)

マ: ややややいゆえよ~~し~お~~か~くぅ~~~~んっ!!! 
あ、

バタ。

吉: あっ、いきなり倒れちゃってどうしたの、マチャトン君っ?!
一気に疲れが出ちゃったの? 

マ: 違うよ! 助かった喜びを分かち合おうと思って君に両手を広げて
駆け寄ったのに、君が急に立ち上がっちゃったから僕はここにバタって
なっちゃったんだ。こういうシチュエーションの時は普通、
「おぉ~!」とか言って互いの肩を叩き合って抱き合いながら
喜んだりするものなのじゃないのかい? ドラマとか映画だったら絶対そうするよ。
基本だと思うんだよね。だから僕はその基本にのっとってだね、ねぇ、吉岡くん、
聞いてる?

吉: え、何が?

マ: また芳一なのかっ?! 

吉: ごめん。モジモジしながら話をしてるからトイレに行きたいのかな~
と思って。。。 ところで芳一って誰?

マ: ・・・もういいよ・・。それよりそこで何をしてるんだい? 

吉: 埋まったザックを探してるんだ。一刻も早くテントを張らないと、
僕たちまた寒さでやられちゃうから。

マ: ・・・そうだった・・。 僕も手伝うよ。 

しかし彼らのテントは雪崩によって下方に流されてしまっていた。
仕方なく、僅かに二人が座れるような広さの岩棚を見つけ、
そこで一晩ビヴァークすることにした。
壁にピトンを打ち込んで固定し、そこにザイルを回して
自分たちの体を岩棚に固定する。簡単に言えば、
崖に僅かにせり出た平らの場所に座り、壁に張り付きながら、
二人並んで腰をかけている状態だ。
かなり窮屈できつい体勢だが、一晩我慢すればいい。
雪の中から唯一掘り出せたマチャトンのザックの中から
ツェルトを取り出し、それを二人で頭から被って風除けにする。
それが長い長い夜の始まりだった。


身を切るような寒さとともに吉岡は目を覚ました。
いつのまにかうとうとしていたらしい。

どのくらいの間眠っていたんだろう?
1時間か・・、いや、もしかしたら
たったの5分くらいだったかもしれない。

隣を見ると、窮屈そうな格好のまま
微かな寝息をたてているマチャトンがいる。

墨をこぼしたような暗黒の空には星一つなく、
あれほど荒れ狂っていた吹雪は、
いつの間にか姿を消していた。

霧のヴェールを纏った月だけが夜空に浮かび、
仄かにくすんだ青白い光をその周囲に滲ませていた。

静かだった。

とても静かで、
そして恐ろしく寒くて長い、
冷酷な夜だった。

マ: うわぁああっ!!!

突然、さっきまで横で寝ていたマチャトンが叫び声を上げた。

吉: どうしたの、マチャトンくん?!

マ: 今そこにっ、そこに変な生き物が・・

幻覚だ。

吉岡は咄嗟にそう思った。
こういった極限状況で幻覚を見てしまうのは、
山では決して珍しいことじゃない。

吉: 悪い夢を見ていたんだよ。もう大丈夫だから、安心して。

マ: いや、悪い夢なんかじゃない。確かにこの目で・・・、ほらっ、
すぐそこにいるじゃないか、わぁあっ!

まるで暗闇に怯えている子供のようにマチャトンは震えている。

吉: 大丈夫だよ。もう消えちゃったよ。

マチャトンを安心させようと、吉岡も彼と同じ方向に目線を移した。
そこには、

吉: 何してるんですか、ゴリさん?

ゴ: 見てわからんのか、ばかもん。木枯らしに吹かれているんだ。

吉: 人知の理解範囲を超えています。なんで
ミノムシの格好をしているんです? 

ゴ: それじゃ~お前は、俺が
チクワの格好をしてたら納得するというんだな?

吉: そういう問題じゃないんですよ。第一、
一体どこからぶらさがっているんですか? ここは標高
3000m上ですよ?

ゴ: 自分の理解しうることだけがこの世の全てではないだろう?
わかるか、雪見大福三号よ。隣にいるホームランアイスの様態はどうだ?

吉: まず最初の質問の答えですが、はい、それは僕もゴリさんと
同じ意見です。そして次に答える質問ですが、まとめて言いますと、
僕は雪見大福三号ではなく、マチャトンくんもホームランアイスでは
ありませんし、様態は疲労はしていますがさほど悪くはありません。

ゴ: おい、雪見大福一号二号は誰だか聞かなくていいのか?

吉: いいえ、結構です。

ゴ: そうか、なら教えてやるよ。一号は吉岡、二号は秀隆、三号がお前だ。

吉: 全部僕じゃないですか?!

ゴ: 四号はヒデちゃんとなるかもしれないがそれはどうかな。
それにしてもさすがの洞察力だな、吉岡。さてはお前、
さしずめインテリだな? 

吉: そんなんじゃありません。ただ真っ当な受け答えをしただけです。
それより一体ここで何をしているんですか? そんな格好でぶら下がっていたら、
普通の人間だったらとっくに瞬間冷凍されていますよ。

ゴ: そんなに褒めるなよ、照れるじゃないか。いいか、
氷点下で薔薇の花はバリバリに凍ってしまうが、
モービルオイルのゴリは凍らないんだ。金槌がなかったら
バナナで釘を打てよ。おい、寝るなよ、吉岡。

吉: 急に疲れが襲ってきたんです。

ゴ: いいか、吉岡、俺はな、大事な部下を助ける為に、
越冬つばめにも負けないくらいの我慢強さでもって、
ここで木枯らしに吹かれているんだぞ。涙ぐましいだろ?
哀愁の中間管理職なんだよ、俺は。ほら、これを受け取れ。

吉: ゴリさん、これは・・・・?

ゴ: ん? あ、それはバトンだった。
そっちじゃなくてこっちを受け取ってくれ。

吉: ・・・これは?

ゴ: ミトンだ。さっきの雪崩れで失くしちまったんだろう?
ミトンがなかったら凍傷になっちまうだろうが。とっとけ。

吉: ゴリさん・・・これを渡す為にわざわざ・・

ゴ: うむ。それは俺にとっては思い出の手袋なんだ。大事にしろよ。

マ: どんな思い出があるんですか?

ゴ: おわっ、なんだよマチャトン、急に出てくるなよ。
作者が急にお前のことを思い出したみたいな出方じゃないか。

マ: 作者ってなんのことですか?

ゴ: 細かいことは気にするな。とにかく、
これがお前達に渡せる最後の手袋だからな。失くすなよ。

吉: ありがとうございます。大切に預かります。

ゴ: あぁ、そうしてくれ。なんてたってこれはな、俺の母さんが・・・

マ: え、ゴリさんのお母さんが?

ゴ: 母さんが夜なべして。。。。

吉: そんな大事な手袋を・・・

ゴ: 鍋を焦がしちゃったんだ。 寝不足でお肌も荒れちゃったらしい。

マ:: 退場してください、ゴリさん。

ゴ: なんだよ~、俺だけ仲間外れにして~。先生に言いつけるぞー! 
いいかお前ら、これだけははっきりと言っておくがな、
俺の血液型はA型だ。

吉&マ: だからなんだっていうんですかっ?!

ゴ: いちいちハモるなと言っておるだろうが。
由紀さおり&安田祥子 男性バージョンなのかい、お前達?
それよりいいかお前ら、山をなめるなよ。
お腹が痛くなっちゃうからね~。なんせ土はバイキンだらけだしぃ。

吉: そういう意味で山をなめる人なんて誰もいませんよ。
 
ゴ: どうしてそうはっきりと言い切れるんだ、え? いいだろう、
一つ話をしてやる。俺はな、その昔、ラという相棒とコンビを組んでいたんだ。
いい刑事だったよ、ラは。その頃の俺たちは文字通り二人で一人前だった。
出前は二人分とったがな。悪どいホシたちを捕まえる為に、二人で毎日、
昼夜かまわず都内を走り回ってたんだ。そしてある時ラはな・・・ラは・・・
あ、帰る時間だ。さよなら~。

マ: 話の途中で帰らないでください! 気になるじゃないですかっ!!

ゴ: 気になるなら続きは山を降りてから聞きに来い。じゃ~な!

吉: あっ、ちょっと待ってください、ゴリさんっ!
ミノムシのままどこへっ?!

ゴ: 家に帰って炬燵に入るんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~

マ: ・・・降りていってしまったよ。スルスル~っと。。。

吉: ・・・幻覚だったのかな、今のは?

マ: いや、ゴリさんだったよ、確かに。

吉: でも、

マ: 深く考えちゃダメだ、吉岡君。特にゴリさんのことに関しては。
今は無事に下へ降りることだけ考えよう。

吉: ・・そうだね。体調の方はどう?

マ: 良いとはいえないけど、最悪ってほどでもないよ。大丈夫だ。

吉: そう、それならよかった。それじゃ、日が昇る前に降り始めようか?

マ: ああ、そうだな。雪質が悪くなる前に出発したほうがいい。行こう。


夜明け前、二人は再び下降し始めた。
吉岡が先頭に立ち、マチャトンをリードしていく。
二人の体は互いにザイルで繋がっていた。
風はなく、朝焼けの紫が東の空を染め始めている。

よかった。
今日は晴れる。

天候に恵まれさえすれば、このまま一気に
ベースキャンプまで戻れるだろう。

吉岡は兆しの良い空を一瞥した後、
再び全神経を自分の両足に集中させた。
二人の履くアイゼンの爪が、
硬く締まった雪面に食い込んでいく。
ガシッガシッと雪を蹴る音が、
やがて一定のリズムになっていく。
と、ふいにそのリズムの片方が、
ふっつりと途切れた。
不思議に思った吉岡が後方を振り返る間もなく、
マチャトンが真横をまっさかままに落下していった。
吉岡は急いでザイルを掴んで滑落を止めようとしたが、
マチャトンの落下のスピードに足元を取られて、
自分もバランスを崩してしまった。

一瞬の後に二人は斜面を滑落していた。

それはほんの一瞬の出来事だった。

スピードはどんどん加速していき、二人の体は上下左右、
コマのように回転しながら滑り落ちていく。
ただ重力に身を任せて落ちていくこと以外
他にどうするすべもなかった。
体が雪面の所々から飛び出ている岩にぶつかっていく。
二人の体はまだザイルで繋がっていた。
どちらかが止まれれば、滑落はストップできるはずだ。

吉: 何か掴むんだ!!!

前方を滑り落ちていくマチャトンに向かってそう叫びながら、
吉岡はピッケルで懸命に雪面を叩いた。

引っかかれ!
引っかかってくれ!

と吉岡は声に出して叫んだが、
しかし凍りきった雪面は無常に沈黙したままだ。
その時、背中に衝撃を感じてザイルがピンと張った。
滑落が突然止まったのだ。

気付くと、吉岡の体は雪面上に出た大きな岩に引っかかっていた。
背中に背負ったザックがクッションとなって、
激突時の衝撃を和らげてくれたのだろう、
多くの岩に当たりながら滑落したのに、
奇跡的に何の怪我もしていなかった。

吉: マチャトン君・・・?

搾り出すような声で吉岡はマチャトンに呼びかけた。

吉: マチャトン君、大丈夫か?

しん、と静まり返った斜面に、
風が雪煙を巻き上げながら吹き降りていく。

吉: マチャトン君?

吉岡は、引き伸ばされたザイルに
再び体を取られて二次滑落しないよう、
岩から突き出たこぶをしっかりと掴みながら、
慎重にゆっくりと岩の上に起き上がった。

その瞬間背筋が凍りついた。

マチャトンと互いに繋がっているはずのザイルの片端は、
まっすぐ二メートル程下方へと伸びていき、
そしてそのまま崖の下へと消えていた。

落下したんだ!

吉: マチャトン君っ!!!

吉岡は急いで伸びたザイルを両手で引っ張った。
生きていればそのサインとして、
マチャトンはザイルを引き返してくるはずだ。
しかし下からは何の反応も伝わってこなかった。

まさか・・・
まさかそんな・・・

最悪の事態が脳裏をよぎる。
パニックに陥りそうな気持ちを抑えながら、
吉岡はありったけの力を振り絞ってザイルを引き上げた。
ザイルに掛かった重みが苦痛と疲労を呼んで
腕全体の感覚を麻痺させたが、吉岡はかまわず
全神経を集中させてザイルを懸命に引き上げ続けた。

生きていてくれ、
マチャトン君。

やっとの思いで50㎝程手元にザイルを引き上げた吉岡は、
その緩んだ部分を素早く岩のこぶに括りつけてしっかりと固定した。
そして自分の腰からザイルを外す。 
慎重に這うようにして崖の縁へと進んでいき下を見下ろすと、
50メートル下の空中にマチャトンがだらりとぶら下がっていた。
その光景に一瞬呼吸が止まりかけたが、しかしよく見ると
マチャトンはザイルを両手でしっかりと掴んでいた。

生きている!

吉: マチャトン君っ、大丈夫か?!

マ: ・・・・ああ・・。

力はないが、マチャトンはゆっくりと反応を返してきた。
安堵感が一気に吉岡の心に湧き上がってくる。
しかしそれは瞬時のことだった。
問題はここからだ。
マチャトンを救出しなければ。
絶壁にたった一本のザイルで繋がっている
マチャトンの命を。

マ: 切ってくれ。

その時マチャトンの声が崖下から聞こえてきた。

マ: ザイルを切ってくれ、吉岡君。

凍てついた突風がふいに吉岡の体を突き抜けていき、
吉岡は言葉を失くした。

マ: 僕のことはいい。ザイルを切ってくれ。

その声は谷間に冷静に響いた。

吉: ・・・・何を言って・・

喉元からやっと出てきた言葉をすかさずマチャトンが遮る。

マ: まさか僕を助けようなんて、そんなバカげたことを
考えているんじゃないだろうな、吉岡君?

吉: ・・・・

マ: このままここにいたら、自分自身だって
やがて疲労凍死してしまうことくらい
君ならわかりきっていることだろう?
こんな状況じゃ僕が助かることは不可能だ。
助けようなんてしたら、君まで一緒に3,000m真下に
落ちて行ってしまうんだぜ。二重遭難は免れない。
そうだろ? 切ってくれよ。今すぐザイルを切ってくれ。

吉: マチャトンく・・

マ: 切れよ。

吉: ・・・

マ: 切るんだ。

吉: 僕は、

マ: 切れって言っているんだ!!!

叫び声が澄みきった空気を揺り動かしていった。
碧空はどこまでも高く、そして凍てついている。
二人は完璧に下界から隔絶されていた。
人の息吹や温もりは、ここには一切届いてこない。
ただあるのは、
永遠の空間に入り込んだような、
静寂。
それだけだ。

吉: そんなこと出来るわけないだろう?

やがて吉岡の声が静かに響いた。

吉: そんなこと出来るわけないじゃないか。

吉岡の静かな言葉が辺りに響き渡っていく。

吉: 僕はこれからも生きていきたい。やりたいことが沢山あるんだ。
行ってみたい場所や、読みたい本や、これから出会うだろう人たちを、
僕は諦めたくはないんだよ。みっともなくても、格好悪くてもいいんだ。
生きていくことが大切なんだと思う。僕はここでは死にたくない。
山を降りるんだ。でもそれは僕一人でじゃない。君と一緒に降りるんだ。
だから僕は君を助ける。

崖下はひっそりと静まり返っている。
しかし引っ張られたザイルは小刻みに揺れていた。
マチャトンが、泣いているのかもしれなかった。

吉岡は、用心深く立ち上がると、
ザイルの端を括りつけてある小岩まで戻った。
ザックの中からハーケンを取り出し、
それをハンマーでしっかりと岩に打ち込んだ。
そうしてから打ち込まれたハーケンの穴にカラビナをかけ、
そこに予備のザイルを結んで自分の体を固定する。

絶壁へと降りていく。

そのことに恐怖心がないとは言い切れなかった。
些細なミスを起こせば、それで自分の体は一瞬にして
3000mまっさかさまに落下していき、たぶん、
誰にも見つけられることなく、その亡骸は、
氷河の中を永遠に孤独に彷徨うのだろう。しかし、

行かないわけにはいかない。

吉岡は両手でザイルを掴んで、
そのまま一気に崖を下降していった。

迅速に、しかし最大限の注意を払いながら
吉岡は崖を懸垂下降していった。
マチャトンは下降してくる吉岡を見上げることなく、
ただだらりとその場に力なくぶら下がっているだけだった。
一下降毎に、彼との距離が縮まっていく。

あと10メートルで辿り着けるだろう。
もうすぐだ。

近づいてみて初めて気付いたが、
マチャトンがぶら下がっている脇の壁に、
僅かながらだが岩棚が出っ張っているのが見えた。

足場がある!

あそこに立つことができれば、
マチャトンの疲労も少しは和らぐだろう。
救助処置も少しはしやすくなるはずだ。

吉: マチャトン君、横に岩棚がある! 
頑張ってそこに足を乗せるんだ!

そうマチャトンに向かって叫んだ時、
カラン、と頭上で乾いた音がした。

吉: 落石だ! マチャトン君、避けて!!!

間髪いれずにピンポン玉ほどの大きさに砕けた砕石が
霰のように吉岡の頭上に降り落ちてきた。

吉: 壁に寄るんだっ、マチャトンくん!!!

下方に向かって叫びながら、吉岡は自分の体も壁に押し付けた。
その瞬間、拳大ほどの岩石が額の上を掠めていった。
石は急速なスピードを伴いながら奈落の底に落ちていく。
あんな石が頭を直撃していたら、そのまま僕も・・・
そう思った瞬間、恐怖が津波のように押し寄せてきた。

落ち着いて。

落ち着くんだ。

吉岡は懸命に自分に言い聞かせた。
呼吸を整えながらその数を数えることに意識を集中させる。
しばらくそのままの姿勢で落石がおさまるのを待った。
下方を確かめると、幸いマチャトンも落石を逃れたようだった。
岩棚の上にかろうじて立っている姿が確認できた。

行くぞ。

完全に落石が終わったのを確かめてから、
吉岡は再び下降を開始した。

何ピッチか降りた後、マチャトンの立っている岩棚まで
なんとか無事に辿り着くことが出来た。 
二人とも無言のままだった。
吉岡は、素早く的確にマチャトンを固定ザイルに確保し、
そして彼を背中に背負った。

マ: 僕なんかの為に・・・ばかだな、吉岡君・・・

吉岡の背中で力なく呟くマチャトンの声が聞こえてきた。

吉: いいんだ、それでも。

そう言いながら、一瞬ふっと吉岡の顔に微笑みがもれた。
こんな状況下においても笑える自分に驚いた。

大丈夫だ、
行ける。

岩の切れ目にハーケンを力強く打ち込み、
吉岡は再び上へと登っていった。



再び登りきった崖の上に立った時、
柔らかな西日が二人を包んだ。

水をたくさん含んだ水彩絵の具の筆で、
さっと一塗りしたような橙色や緑色が、
暮れ行く一日の終わりの空を美しく彩っている。

マ: これだけのことをした僕達には、
一体これから何が必要だっていうんだろう?

マチャトンが、隣に立っている吉岡に
そう問いかけてきた。
吉岡は眼下の雪田に灯るベースキャンプの灯りを
ずっと静かに見つめていた。
それは、
人の温度だった。
人の温める、日々の生活の温かさだ。

吉: 毎日の生活なんじゃないかな。

マ: え?

吉: それが一番大切で、何より幸せなことだと思うんだ。

そう言うと、吉岡はそっと微笑んだ。


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吉岡刑事物語 その10

2008年11月21日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語



頂上に辿り着いた時、
不思議と何の感慨も湧かなかった。

この地球上で、
人間がその足で立つことのできる最頂点、
エベレストの頂き。

かつては聖域と呼ばれていた場所だ。

吉岡は、酸素不足で弱ってしまった体を
ピッケルでかろうじて支えながら、
ぼんやりとした思いでそこに立っていた。
かたわらには、ここに来ることを許された者達が
記念に残していった様々の色の国旗や祈祷旗、
そして空の酸素ボンベたちが、
雪の中に突き刺さっている。

よほど疲れきっていたのかもしれない。
吉岡は倒れこむようにして、
その場に座りこんだ。

何か、思うことが、あるのではないか?

霧のように霞んでしまった思考を、
吉岡は必死に手繰り寄せようとしたが、
しかしいくら懸命に考えようとしても、
頭の中にはただ空洞が、ぽっかりと
そこに深い穴を開けているだけだった。
頂上に登りつめた達成感や、満足感も、
何も心には浮かんでこない。
いや、もう、物を考えること自体、
どうでもよくなってしまっているようだった。

疲れているんだ、すごく。

そうぼんやりと心の中で呟きながら四方を見回した。
雪面の所々から砕けた岩が突き出ている。
眼下は厚い雲層に覆われていて何も見えない。
風はほどんど感じなかった。
顔を上げると、怖いくらいに澄み切った藍色の空が、
見渡す限りの視界一面に広がっていた。

そこは下界から完全に隔絶された世界だった。
静寂と、
孤独だけに支配されている、
真空の世界。

他には何もない。
何もなかった。
いや、

何かある。

何かがそこに・・・・
目の前に・・・
何かが・・・・、
何だろうこれは・・・?


マ: 吉岡く~ん・・・。

吉: あ、

マ: あ、って言ったのかい、今?

吉: いや・・・

マ: もしかしたら僕のことをまた忘れてたんじゃないだろうね?

吉: え?

マ: そんなことはないだろう? 

吉: ・・・。

マ: ないだろう?

吉: ・・・いや・・

マ: ないよねっ?!

吉: ・・・・あの・・

マ: ハッ! 
8848m上まできて君を疑ってしまった。。。
ごめん、君を疑ってしまうなんて・・どうして僕はいつもこうなんだ・・・。
自分で自分が嫌になるよ。いっそのこと僕なんてここでっ・・・

吉: あっ、ナイフを取り出してどうするんだ、マチャトンくんっ?!

マ: 髭を剃らないと。写真撮影の前に。ツーショットだしね♪

吉: ・・・。

マ: よし、これで身だしなみオッケーだ。それじゃ、吉岡君、
登頂記念写真を撮ろうか?

吉: ・・そうだね。

吉岡は疲労で重くなった体をやっと持ち上げて立ち上がり、
防寒ヤッケのポケットからインスタントカメラを取り出した。
共にレンズに収まるように距離を図って右腕を伸ばし、
二人の正面にカメラを構える。

吉: そうだ、せっかくだから肩を組もうか?

マ: え?

吉岡は左腕をマチャトンの肩の上に回した。

吉: いい? ハイ、チー・・

マ: クェ、

吉: ん?

マ: いや、何でもない。

吉: ハイ、チー・・

マ: クェッ、

吉: ?

マ: いや、大丈夫だ。

吉: あ、この角度じゃフレームに入りきらないかもしれないよね。
もっと君に寄って肩を組むね。ハイ、チー・・

マ: クェ~~~ッ

吉: ?!

マ: クェッ クゥェ~ チョコボ~~ル~ チョコボ~ル♪

吉: ?!?!

マ: あ、いや・・・。ツルだった頃の癖がつい・・・。
軽い高度障害のせいだよ、気にしないでくれ。しかし寸でのところで
エベレストの頂上から舞い上がってしまうところだった、はははは。
本当に僕という奴はいつもこうなんだ。咄嗟の時に緊張してしまって
失敗をしてしまうことが多いんだ、まいっちゃうよ。ところで、
森永チョコボールのおもちゃの缶詰ってもらったことある?
金と銀のエンゼルマークなんて僕はお目にかかったこともないよ。
僕の周りの友達も当たった奴なんていなかったしさ。あれはねきっと、
チョコボール都市伝説だったんだと僕は推理しているんだ。あれ、吉岡君、
何してるの?

吉: あ、ごめん。捜査のことを思い出して。。。

マ: そうだった・・。ここには任務で来たんだったよな。。。

吉: 今そこで見つけたんだけど、これがゴリさんが
僕たちに頂上で探せと言っていたアルミ缶だと思うんだ。
この酸素ボンベの横に埋まってたから掘り出してみた。

マ: 中に何かの極秘情報のメモが入っているんだったよな? 
どうする、開けてみるか?

吉: そうだね、開けてみたほうがいいと思う。
「開けてみろ」って書いた紙が蓋の上に貼ってあるし。 
いい、開けるよ?

マ: ああ。うわぁあああっ、伏せろっ、吉岡君っ!!

吉: まだ開けてないよ。

マ: は? ・・すまん、驚かせて。実は僕は
「蓋開けてビックリしちゃうかも浦島太郎症候群」なんだ。
やたらと長い病名なんだが、治療法はないらしい。

吉: 大丈夫? 僕一人で向こう側に行って開けてようか?

マ: いや、大丈夫だ。君がいてくれるならね。言っちゃったぁ!

吉: え、なに?

マ: 聞いてなかったのっ?! どうして君は時々僕に対して
耳なし芳一になっちゃうんだ? 吉岡くん、聞いてる?

吉: え、何が?

マ: もういいよーっ! 一旦捜査に入ると君はいつもこうなんだ・・・。
捜査のことしか頭にないんだよ・・。いいよ、どうせ僕のことなんて・・
だって吉岡君は・・・ 

カパ。

マ: あ、蓋開けちゃったの?

吉: うん。あ、

マ: ・・・これはっ?!

吉: ・・・・・。

マ: ・・・・・吉岡君、このメモは・・・?

吉: 「家に帰るまでが遠足だ。」って書いてある・・・

マ: ・・・・何かの暗号だろうか? そう思いたいんだけど。

吉: いやただの伝言だと思う。。。

その瞬間、ドサッとマチャトンは地面に座り込んでしまった。

マ: もうだめだ・・・吉岡君、僕は力尽きてしまった・・。

その言葉が、吉岡の疲労しきった脳に光を射した。
思考の曇りが鮮やかに晴れていく。
そしてその速度に合わせるかのように、
マチャトンの肩越しに見えている日本の国旗に
吉岡の視線の焦点が合っていく。
それは、ひらひらと風に力なく揺れていた。

風が出てきたんだ。

吉岡は素早く下方に目を転ずると、
厚く煙った雲が渦巻きながら急速に上昇してくる様子が
目に入った。

山が荒れる前触れだ。

吉: 今すぐ下山しよう。嵐がくる。

しかしマチャトンは座り込んだまま動こうとしない。

吉: 降りよう、マチャトンくん。
 
マ: 駄目だ。もう歩けない。僕はあとからいくよ。
君は先に行ってくれ。

そう言うとマチャトンは、
だらりと深くうな垂れてしまった。
そうしてしまうマチャトンの気持ちは、
吉岡にはよくわかった。
自分自身だって限界に近いくらい疲労している。

高度が上がれば上がるほど、それにつれて、
空気は薄くなっていく。
薄まった酸素の中で行動するのは、
非情に困難なことだ。
たった15メートルの距離を登るのさえ、
時と場合によっては、2時間3時間も
かかってしまうことさえある。
一歩踏み出しては休み、
一歩踏み出しては休みして、
やがて休む時間の間隔が、足を運ぶ間隔より
どんどん長くなっていくからだ。

そして何も辛いのは体力的なことだけではない。
薄い酸素は、その脳細胞を、精神力を、
じわじわと蝕んでいく。
思考力が極端に衰えてしまうのだ。
だから通常では考えられないような
簡単なミスを起こして、それが原因となり、
いくつもの命が山では消えていってしまう。

ましてやここは、
世界最高峰のエベレストの頂上。
酸素の濃度は地表の三分の一。

しかも二人はアタックキャンプからここまでくるのに、
述べ8時間も休みなしで登り続けてきていた。
だからマチャトンがもう一歩も動けないという状態は、
いわば普通の人間が起こす、正常な高度障害といっても
過言ではない。
しかし、
今ここで彼を一人置いて自分だけ先に下りて行ったら、
間違いなくマチャトンは、もう下界には戻ってこられない。

吉岡は右手をマチャトンの目の前に差し出した。

吉: 行こう。

マチャトンは茫洋とした表情で力なくその手を眺めている。

吉: 二人で一緒に登ってきたんだから、
二人で一緒に降りるんだ。わかるよね?

吉岡は力なく座り込んでしまっているマチャトンの腕を掴み、
一気に地面から引き起こした。
そして万が一マチャトンが滑落した時にそれを食い止められるよう、
ザイルを素早くしっかりと互いの体に確保する。

吉: 帰ろう。

吉岡はマチャトンに笑顔で言った。


夕暮れの残り日が、
マッチの火をそっと吹き消したかように
山裾の向こう側へと消えていき、
そして夜が辺りを支配した。

キン、と凍てついた月が、
青白い光を放ちながら、
雪面を静かに見下ろしている。

吉岡はマチャトンの体を支えながら、
一歩一歩、慎重に下降していった。
疲労はピークに達していたが、
もし自分がここで倒れてしまえば、
おそらく二人ともそれで終わりだろう。
もう二度と立ち上がることは出来ずに、
ここで疲労凍死してしまう。

歩くんだ。

消え入りそうな気力を呼び起こして、
また一歩、吉岡は足を前に出す。

どれくらい歩いたのか、いつのまにか月は姿を消し、
代わりに厚い雲が夜空全体を覆い尽くしていた。
強風が雪煙を巻き上げ、
二人を斜面から振るい落とそうと直撃してくる。
寒さが、防寒具を着ている体の芯の奥まで
切り込んできた。

僕がしっかりしなければ。

吉岡は、一瞬でも気を抜くとうずくまりそうになる
自分の体を叱咤し、マチャトンを抱えながら、
全力を振り絞って前へと進み続けた。

マ: 吉岡君・・・・どうして・・・僕たちは・・・・
こんなことを・・しているんだろう・・?
一体・・何のために・・・

荒れ狂う吹雪が、マチャトンの言葉をも吹き飛ばしていく。
吉岡は崩れ落ちそうになるマチャトンを脇に抱えなおした。

吉: どうしてかは、わからない・・。でも、
行けと・・いわれて、それに・・応えたのは・・
僕ら自身なんだ・・。それに応えなくちゃと、
そう自分たちで決めたから・・だから、登ったんだ・・
だから・・登れたんだよ。

マ: 僕には・・無意味なことに・・思えるよ。
こんなことは、全て・・・全て・・・無意味だ・・。

そこでマチャトンは再び地面にへたりと座り込んでしまった。
凍りついた強風と荒れ狂う雪が、立ち止まった二人の体温を
瞬時にして奪い去っていく。

吉: 頑張るんだ。

吉岡はマチャトンを雪面から引き起こす。

吉: 帰るんだ・・帰れる場所に・・帰るんだよ。それは・・
決して無意味なことなんかじゃないよ・・

横殴りの風が、顔面を打ちのめすように当たってくる。
吉岡はよろめくマチャトンを抱え、引き上げ、励まし、
そしてひたすら歩いた。
そうすることだけが今は彼の全てだった。
そうすることで弱ってしまった自分自身をも支えていた。

あともう少しだ。
あと、ほんの、もう少し。

何度もそう自分に言い聞かせる。

雪原の中央に見えている岩場の横まで行けば、
そこでキャンプが張れるはずだ。
そこまで行けば、
とりあえず横になることができる。

あそこまで行けば、
あと100㍍さえ歩けば、
二人とも助かるんだ。

暴風が行く手を阻み、視界がきかなくなっていた。
砕け散った硝子の破片のような吹雪は、
顔に、体に、そして意志に、叩きのめすかのように吹き当たってくる。
巨大な迷路を永遠に彷徨っているような感覚だ。
吉岡は、自分たちがきちんと前へ進んでいるのか、
そんな感覚すらも今では全くわからなくなっていた。

崩れてしまえば楽だ。

ここで歩みを止めてしまえれば、
今抱えている苦しみはそこで終わる。
それはどんなにか楽なことだろう・・。
苦しみの替わりに、底のない無限の深淵へと、
命を落としていくだけだ。
後は無になるだけ。
それだけだ。
その思いは抗しがたい誘惑となって、
衰えきった吉岡の意志を支配し始める。

グラッ、
と傍らでマチャトンの足が大きくもつれるのを感じた。
猛吹雪の中で、体勢を立て直しながら、
懸命に立ち上がろうとしている彼の姿が目に入る。

そうだ、

歩くんだ。

歩かなくちゃ。


僅かに残された意志を奮い起こしてマチャトンを抱え直し、
吉岡は猛吹雪の中を推し進んでいった。


どのくらいの時間がかかったのだろう、
やっとの思いで目的地の岩場に辿り着いた時には、
辺りはすっかり闇に包まれていた。
吹雪が猛烈な唸りをあげている。
その時点で吉岡の疲労は既に極限状態まできており、
思考力は完全にストップしていた。

機械仕掛けの人形のように体を動かして
岩場の横に簡易テントを張り、
寝袋の中にマチャトンを寝かせ、
コッヘルに雪を溶かして水を作り、
頭痛を訴えるマチャトンにアスピリンを飲ませた後、
残った水を飲み干し、そして崩れるようにして
自分も寝袋の中に潜り込んだ。

ただ眠りたかった。
ただただ眠っていたかった。
そして、
すぐに深い眠りの淵に落ちていった。


正確にはその時、果たして自分が
眠っていたのかどうか吉岡にはわからなかった。
体だけが深い眠りに落ちていて、
しかし意識は浅い眠りと覚醒のはざまを、
行ったり来たりと漂っていたのかもしれない。

遠い意識のどこかで、
闇の底から湧き上がってくるような
地響きを聞いたのはそんな時だ。

雪崩だ!

と、気付いた時には、
全ては暗闇の中にのみ込まれていた。



つづく。
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吉岡刑事物語 その9

2008年09月20日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語


やわらいだ風がさっと吹いていき、それと同時に
空が少しだけ高くなったような気がした。
病院の屋上から見上げる空は、
どこまでも高く青く澄み、
わずかにキン、と引き締まった空気が
そこに薄く透明な幕を張り巡らせている。
昨夜ひとしきり降った雨が、沈殿していた夏の名残を
全ての領域から洗い流してしまったような、
そんなどこか寂寥とした午後の日差しの中に、
吉岡は一人佇んでいた。
"一雨ごとに秋になる。"
とよく母は言っていたっけ。
そんなことをぼんやりと考えながら、
空を見つめていた目をそっと閉じ、
ひっそりと漂う秋の気配を肌で呼吸する。
負傷した胸の傷跡が少し痛んだが、
それでもかまわず大きく呼吸を繰り返した。
ほんの少しだけ冷えた空気が
肺の奥に浸透していくのが心地良い。
町の騒音もここ8階の屋上に届くまでに空中に拡散し、
不完全な歌調となって空に高く吸い込まれていく。
「秋だ・・・。」
と吉岡はそう低く声に出して呟いた。

“バサリ”

と背後で物音がしたのはちょうどその時だった。
咄嗟の習慣で素早く後方を振り返ると、

吉: マチャトンくんっ?!

そこには相棒のマチャトンが立っていた。

マ: 吉岡く~~~~~~~~~~~~~んっ!!!
会いたかったよーーーーーーー!!!

バサバサッと音を立てながらマチャトンは吉岡の方に
駆け寄ってきた。

マ: 元気になってよかった、吉岡くん!!! 
心配だったんだ、すごく。

吉: ありがとう、マチャトンくん・・・でも・・・

マ: え?

吉: どうして丹頂鶴の姿になってるの?

マ: ああこれは・・・僕は今、丹頂鶴として
釧路湿原で囮捜査をしているんだ。 
君の快復の知らせを受けて今日は非番をもらって
飛んできた。途中で乱気流にのまれてしまったから
だいぶ羽並みが崩れてしまったよ。

吉: ・・・・そうだったんだね。。。

マ: それにしても元気な君の姿が見れて
ほんとによかった。僕は心配で心配で心配のあまり
シベリアと釧路の間をお百度参りしたくらいだ。

吉: ありがとう。もう大丈夫だから。担当医の
柏木先生の話では来週中にでも退院できるらしいよ。

マ: えっ、ほんと? よかったぁ! 
ほんとうに良かったぁ。吉岡くんの身に
もしものことがおこったら・・・・・僕は・・・
だって僕のせいで君がこんな目に・・・

吉: そんなことはないって前にも言ったはずだよ。
僕はただ当たり前のことをしただけなんだ。
友達じゃないか、僕たち。

バサッ~!!! 

吉: ?!

マ: きゃっ、

吉: マチャトンくんっ?!

マ: きゃっ、

吉: もう飛んで帰るの?

マ: キャンディ~ッ、ふ~♪

吉: ・・・・・・・。

マ: (バサ。 ←着地したらしい。)
ごめん、咄嗟に舞い上がってしまった。。。

“ドサリッ”

その時再び彼らの背後で不審な音がし、同時に振り返った
吉岡とマチャトンの二人の視線の先には、

吉&マ: ゴリさん・・・・・。

ゴ: 調子の方はどうだ、池中玄太54キロ?

吉: 大分いいですが、僕は吉岡です。池中玄太ではありません。
なんでいきなりそうなるんですか?

ゴ: え? 丹頂鶴といえば池中玄太じゃないのか、違うのか?
そりゃ~ねぇ~じゃねぇかぁ~ナンコウさんよーっ!!!

吉: 誰に怒っているんです? それよりゴリさん、

ゴ: なんだ?

吉: お見舞いに来てくださるのはとても嬉しいのですが、
パラシュート降下でやってくるのはちょっと・・・・

ゴ: よく気付いたな。ホシに気付かれないように
高度3万メートル上から投降してきたんだ。
こうみえても俺の特技はな、障害物競走なんだよ。

マ: 全然高度と関係ないじゃないですか?

ゴ: なんだよマチャトン。鶴の恩返しか?

マ: 茶化さないでください。これも捜査の一環です。

ゴ: わかってるよ。それより吉岡、見舞い品を持ってきた。
受け取ってくれ。

吉: ・・・・・・・ありがとうございます。でもこれは?

ゴ: 読書好きなお前にはもってこいだろ? ご本といえば?

吉: 龍角散。

マ: ゴホンですよ。ご本じゃないです。

ゴ: えぇぇぇ~~~~~? それじゃ間違って
龍角散を買ってきてしまった俺は、
「秋茄子は嫁に食わすな」ということなのか?

吉: どういうことなんですか?

ゴ: ナスすべもなし、ってな・・・・プッ、おもしろ~い♪ 
わしゃ上方漫才師かいな?

マ: 面白くないですよ。 病室に戻ろう、吉岡くん。
秋風に当たるのは君にはまだよくないよ。

ゴ: そんなツルな格好で病室に入る気なのか? 
場をわきまえろ、マチャトン。

マ: それはゴリさんに言う台詞です。 なんで
TOKIOのジュリーの衣装を着ているんです? 
どこで手に入れるんですか、そういったものを?

吉: あのそれより・・・

ゴ: なんだ?

吉: どうして二人ともわざわざ上空からやってきたんです?

ゴ: どうしても何も今日は「全日本・羽ばたきの日」じゃないか。

吉: え?

ゴ: 「え?」と言ったな?

吉: はぁ。

ゴ: 「え?」といえば鳳さん。

マ: 退場してください、ゴリさん。ん、どうした、吉岡くん? 
急に思いつめたような顔をして?

吉: ・・・・・僕は・・・・・

ゴ: わかってるよ・・・お前の言いたいことは。

吉: ・・・・・・ゴリさん、僕は・・・・

ゴ: 本当はハム太郎なんだろう?

吉: 違います。

ゴ: それじゃなんだ? 真面目に話せよ。

吉: 僕は自分が情けないんです。 
マチャトンくんを助けたことはもちろん正しかった事だと
今でも思っています。しかし自分の不注意で負傷をし、
こうして捜査に穴を開けてしまった自分のことが、
僕はそんな自分のことが許せないんです。
愚か者です、僕は。。。

ゴ: (スパー。 ←タバコをふかしているらしい)

吉: 僕は・・・・・自分のことが・・・・

ゴ: (スパー。)

吉: 時々無償に・・・・

ゴ: 過ちをおかすのは愚か者だからじゃない。
誰だって過ちはおかすものだぜ。愚か者って~のはな、
同じ過ちを何度も繰り返す奴のことを言うんだ。
過ちをおかしてしまうのは人間だからだ。
おかしてしまった過ちとどう付き合っていくかで
その人生が決まるんだ。いいか、
人間とは向上していくものなんだぜ。
そうじゃなかったらただの消耗品と同じことじゃないか?

吉: ゴリさん・・・・

ゴ: (スパー。) それにつけても、

吉: はい?

ゴ: おやつはカール。

マ: どうしてそうなるんです?!

ゴ: おらがの方にも秋がきたでよ、ということだよ。
いいかお前達、人は誰でも半人前な時があるんだぞ。
いきなり一人前にはなれないさ。このおれだって
昔は半人前だった。。。

吉: ・・・そうだったんですか?

ゴ: あぁ、そうだったとも。俺も一昔前まではな、
背ビレがついていたんだ。 

吉: それは半漁人じゃないですかっ?!

ゴ: 三人でべム・ベラ・ベロになってもいいと
最近では思っているんだよ。 あ、
待って~っ、吉岡く~~~~~~~~~んっ!!! 
はっ、パラシュートが足にからまちゃった~!

マ: 一生そうしていてください。

ゴ: 待ちなさいっ、そこのホワイト&ホワイト! 
次の捜査命令を聞かなくていいのですか?! 

非常階段に向かって歩いていた吉岡とマチャトンの足が
その言葉でピタ、と止まる。
そして二人はゴリさんの方に振り返った。

吉&マ: 新しい捜査ですか?

ゴ: そうだ。さすがのコンビ呼吸だね~。吉岡、
お前には来週退院次第すぐにこの新しい捜査に入ってもらう。
マチャトン、お前はそれまでに今の囮捜査から足を洗っておけ。
くちばしで物をくわえる癖は直しておけよ、いいな?

吉: それで捜査の内容は?

ゴ: 内容はまだ言えん。が、捜査場所はヒマラヤだ。

吉&マ: ヒマラヤですかっ?!

ゴ: なにもそんなに上手にハモって言うことはないだろう? 
ララバイコンビなのかい、君たち?
とにかくな、次回は世界最高峰のヒマラヤに登ってもらう。
寒いだろうけどガマンしてね~。それじゃ~な。
ごきげんよ~う!!! 

吉: あっ、ゴリさんっ、パラシュートもつけないままっ、

ゴ: コンドルは飛んでいく~! ヒマラヤに着いたら
ちゃんと連絡しろよー! おやつは300円まで~! 
経費節約のご時勢だ~!

そしてゴリさんの姿は上空に小さくなっていった。

マ: ・・・・・・・・吉岡くん?

吉: ん?

マ: 行くのか、ヒマラヤに?

吉: ・・・・・はい。

マ: 僕も行くーっ!

吉: ・・・。

マ: この言葉が言いたかったんだぁ~ずっと~。
そうと決まったら僕は今から釧路に帰って足場を洗ってくるよ。
そしたらすぐにここに戻ってくる。それじゃ、吉岡くん、
それまでに充分に休息を取って傷を癒しておいてくれ。

吉: うん、わかった。またつらい任務になるだろうけど、
一緒に頑張ろう。マチャトンくんとならきっと無事に
乗り越えていけると思う。

バサ~~~~~ッ!!!

吉: っ?!

マ: また舞い上がってしまったー!!! 
吉岡く~~んっ、僕が帰ってくるまでに
しっかり元気になっていてねー!!!

吉: マチャトンくんも気をつけて!

空を舞うマチャトンの姿も段々と小さくなり、
やがて北の方面へと消えていった。
いつのまにか暮れ始めた空は、
ところどころ薄桃色や薄緑に染まり、
そしてそれは徐々にゆっくりと
金色に深まっていく。
「美しいな。」
と呟き出た言葉に自分でも少し驚いた。
大きく一つ深呼吸をしてみる。
何か新しい息吹が胸の中に入り込むのを感じて、
吉岡はそっと静かに微笑んだ。
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吉岡刑事物語・その8

2008年08月28日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語


時計の針はきっかり午後三時を指していた。
警視庁捜査本部第一課長から現場急行への指示が
携帯に入ったのが午後2時5分過ぎ。
ということはここに到着するまで約55分の時間をロスしたことになる。
人質立て篭もり事件は一分一秒の差が事件解決の明暗を分ける。
いくら渋滞に巻き込まれたとはいえ、もうすこし早く現場に
駆けつけられたかもしれないのに・・・。
自分の腕時計を今一度確かめた後、吉岡は軽く息をついた。

ゴ: おう吉岡、着いたか。ごくろうさん。

吉: 遅くなってすみません。人質の状況は?

ゴ: 今のところ無事だ。

吉: 事件の概要はどういうことなんですか?

ゴ: 人質は一人、三十代の男。 犯人は36人で二人を除いては全て
カンガルーだ。

吉: はっ?

ゴ: 押しかけた犯人たちで場所がギュウギュウ詰めになってしまい
人質を全て外に出したらしい。一人残った人質はカンガルーの袋に足をとられて
外に出損なったんだと思う。

吉: ・・・・・。

ゴ: 硝子戸の向こうで手をこまねいているヤツが見えるか?
あれがサブリーダーのハエ。そしてリーダーの姿は未確認。どうやら
拳銃を持っているらしい。全員生粋のオージー野郎どもだ。それから
カンガルー28番はラッセル・クロウに似ているゆえ特別にラッセルーと
名付けた。とにかくやつらはボクシングで鍛えたパンチが武器らしいからな、
気をつけろよ。

吉: ・・・・・・・なんでカンガルーが銭湯を占拠したんですか?

ゴ: 番頭のおやじの話だとカンガルーたちはいきなり銭湯の中に入ってきて
代金も払わず洗い場に突進しそのまま体も洗わず湯船の中にジャンプして
湯に浸かったらしい。「いい湯だな。」と言ったかどうかは今確認中だ。

吉: ・・・・・・・・・それは・・・・・どういうことなんでしょう?

ゴ: どうもこうもないだろう。重大事件だよ。

吉: はぁ・・しかし・・・。

ゴ: しかしとはなんだぁ、吉岡っ!? 事件に大きいも小さいも右も左も
ニッチもサッチもモンチッチもぼ~くは泣いちっち~よ~こ向いて泣いちっち~
なんて調子こいて歌いながら湯桶を壊してしまうなんて俺は無償に悲しい・・・
悲しくて・・・・悲しくて・・・・・俺はっ・・・・・・

吉: ゴリさん、

ゴ: さ、おやつの時間にしよー♪ 

吉: は?

ゴ: 三時のおやつは文明堂~♪ と思っただろう~? 
カスティ~ラとはいかへんでぇ、柴又といったらくるまやじゃき~。 
定番だよ、君。

吉: でも見張りは?

ゴ: 後で戻ってくれば大丈夫~。休憩だよ、休憩~。さ、行くぞ。

吉: そんなわけにはいきませんよ、ゴリさん! 人質はどうなるんですっ?!

ゴ: うむ、そうじゃった。。。 さすがだ、吉岡。刑事の鑑だな。
それじゃくるまやに行くのはガマンして団子は配達してもらうことにしよう、
三平ちゃんに。

吉: それにしても詳しいんですね、ゴリさん、柴又に。
何かこの土地に縁があるんですか?

ゴ: 縁もなにもここは俺の・・・・・フッ。(遠い目をしている模様)
故郷は遠きにありて想うもの・・・ってな。

吉: 柴又生まれだったんですか、ゴリさん?

ゴ: え、なんで?違うよ~。柴又が故郷じゃないよ。俺は生まれも育ちも
オホーツク海だ。

吉: どんなところなんですかっ?

ゴ: お前の生まれ故郷の阿寒湖と近いよな。

吉: 誰が阿寒湖生まれなんです?

ゴ: 隠したって無駄だよ、まりもくん。君のことなら俺はなんでも
お見通しなんだよ、言っとくけどぉ。

吉: 何も見通してないじゃないですか? 僕は阿寒湖出身じゃありません。

ゴ: すまんすまん、悪かった。摩周湖の間違いだった。ということは君は
マッシュ~・マリモくんだったんだね。

吉: ダブルで間違いです。摩周湖にマリモは生息していませんよ。

ゴ: ほらぁ~やっぱり阿寒湖出身なんじゃないかぁ。

吉: 違います。

ゴ: やっぱり摩周湖だろ? とぼけても無駄だよ。
「透明度100%の湖からやってきた透明度100%の君はレモンスカッシュ」
なんていうキャッチフレーズだってもっているくせに~。憎いねぇ。

吉: 勝手にキャッチフレーズなんか作らないでください。いいですか、ゴリさん、
何度も言っていますが僕は吉岡です。摩周湖でも阿寒湖出身でもなく、
ましてやマリモなんとかだねっとは違うんですよ。

ゴ: マリ~モアントワネットだと? フランス製だったのか? 

吉: 張り込みに戻ります。

ゴ: つれないな~吉岡~。お前もしや、

吉: なんですか?

ゴ: 素人だな。

吉: 一体僕に何を期待しているんですか、ゴリさん? ただの刑事ですよ、僕は。
とにかく人質の様子を確かめないと。ゴリさんの望遠鏡をお借りします。あっ!?

ゴ: なにを驚いている、タメゴロー?

吉: 望遠鏡の真ん前に立たないでください、ゴリさん。どいてください!
あっ!?

ゴ: 人質をみて驚いたようだな。まぁ無理もない。
あのうちひしがれたゴボウのような姿をした人質は紛れもなくゴボウだ。

吉: こんな時にふざけないでください、ゴリさん。あれは
マチャトンくんじゃないですかっ?! どうしてこんなところで
マチャトンくんが人質に? 

ゴ: アンドロメダからやっとのことで帰還してひと風呂浴びようとした矢先に
巻き込まれてしまった事件らしい。携帯でそう言っていたよ。だから僕たちと
一緒に帰ってくればよかったのにね~。

吉: とにかく一刻も早くマチャトンくんを救い出さないと。
のぼせてしまいます。

ゴ: 焦るな、吉岡。一刻も早く相棒を救いたい気持ちはよくわかる。
しかしな、こういうときは救う方の焦りが相手の命取りになりかねないんだ。
肝心なのは落ち着くことだ。

吉: わかりました、ゴリさん。でも

ゴ: 俺の話を聞け。俺はな、若い頃、その焦りで苦い思いをしたんだ。

吉: え?

ゴ: あれはまだ俺が犬ぞりチームのリーダー犬だった頃の話だ。
俺はリーダーとしてチームの勝利ばかりに気をとられていてな、先頭きって
ゴールをしたのはいいが、まだ勝利への焦りが完全に俺の気持ちからは
抜けきれていなかったんだな・・喉の乾きを癒そうと飲んだアイス緑茶が
青汁だったんだ・・・・・・苦かった・・・・すごく。。。あれ、吉岡くん、
どこいくの?

吉: マチャトンくんを救出にいきます。

ゴ: 待てといっているだろう、吉岡っ?!

吉: もうこれ以上待てません、救出します!

ゴ: お前にも危険が伴うんだぞっ!

吉: それは当たり前なことじゃないですか、ゴリさん。

時計の針は午後6時3分。
だいぶ日も暮れかかっている。
夕暮れの生ぬるい光が入り口のガラス戸を橙に染めている。
吉岡は慎重に、一歩一歩その引き戸に近づいていった。
拳銃はジャケットの内側のホルスターにしっかりと納まっている。
しかし吉岡はそれを決して使わないだろうことはよくわかっていた。
犯人だって人間だ。いや、カンガルーもいる。
傷つける権利は誰ももってはしないんだ。
ましてやたった今やってきた第三者である自分の立場なら尚更の事だろう。
例えそれが法という加護の下にあったとしてもだ。
そう心の中で呟くと、吉岡は引き戸に手を置いた。
一気に引くべきか、それとも音を立てぬように少しずつ引いていくか、
一瞬選択に悩んだが、一気に引くことにした。戸の真横に番台が見える。
あそこにすばやく潜り込めば万が一犯人が発砲しても被弾は免れるだろう。
ガラッ!
引き戸を開けた瞬時に吉岡は真横の番台の中にすばやく身を潜めた。
洗い場を背にして屈み込む形になっている。
犯人からの動きは何もない。が、ギシ、と板の間を踏む音が聞こえた。
リーダーか?
イチ、ニ、サン、と数を数えながら吉岡は自分の呼吸を整えていく。
ここからどう出て行く?
リーダーの位置は?
マチャトン君はどこにいる?
ギシ、ギシ、と床を踏み出す音が再びこちらに近づいてくる。
屈み込んだ体をひねって、吉岡は番台の陰から後方を覗き見た。
磨きぬかれた床の上に黒いブーツの足先がこちらを向いている。
リーダーだ。
間違いない。
カンガルーはブーツを履かない。

吉: 人質を解放しろ。

リ: そうはいかない。人質はわたしのものだからね。

どこかで聞いた声だな、と吉岡は思った。

吉: 要求は何だ?

リ: それは君が一番よくわかっていることだろう?

吉: どういうことだ?

リ: 私の要求は君だよ。君と討ち合うためににわざわざ
オーストラリア経由でここにやってきたんだからな。

吉: 俺が目的なら人質はもういらないだろう。解放しろ。

リ: いやまだだ。

吉: それなら部下だけでも全部表へ出せ。

リ: フ、よかろう。私も民主主義の生まれだ。公平に行こうじゃないか。
おい、野郎ども、ズラかるのだ!

「へい!」という掛け声に続き、床が大きく揺れ、
ビョンビョンビョンビョンという音が場内に響く。
カンガルーが一匹ずつ表へ出ていくのだろう。
一匹、二匹、三匹・・・・・・・・・二十五、二十六、二十七、

リ: グゥ~~~~~

今だ。
身を屈めたまますばやく番台から出た体を斜めに滑らす。
床を滑っていった吉岡の右足がリーダーのブーツを蹴り、
ドサっという音と共にリーダーが床に倒れた。
瞬時に立ち上がった吉岡はリーダーを片手で腹ばいに伏せ、
もう片方の手ですばやく後ろ手に手錠をかける。
リーダーを床に組み伏せたまま、部屋の中を見回した。
マチャトンの姿はどこにも見えない。
一体彼は無事なのか? 
不安からくる胃を締め付けられるような胸の痛みに、
吉岡は一瞬眉をひそめた。

マ: 吉岡く~~~~~~~んっ!

そのとき部屋の隅からマチャトンが飛びでてきた。ジャジャジャジャ~ン。

吉: マチャトンくん! 

安堵のため息と共に吉岡は組み伏せていたリーダーから手を離し
床から立ち上がった。

吉: 無事だったんだね。怪我は?

マ: 三時間も湯船につかっていたから紀文のはんぺんみたいにふやけちゃったけど、
でも大丈夫だ。君ならきっと助けに来てくれると思っていたよ。すまないね。
君に余計な危険を負わせてしまった。

吉: そんなことないよ。友達のためじゃないか。
さぁ、表でゴリさんも待ってる。行こうか。

マ: ・・・・・・・。

吉: さぁ、行こう。

マ: ・・・・・・・。

吉: どしたの?

マ: きゃ、

吉: え?

マ: きゃ、

吉: ?

マ: キャ~ラメルコ~~~ン ほっほっほほっほぉ~♪

吉: ???

マ: いや、つい。。。。気にしないでくれ。ちょっと疲れているんだ。

リ: お楽しみはそこまでだ!

突然の声に驚いた吉岡とマチャトンが背後を振り返ると、
そこには捕らえたはずのリーダーが銃をこちらに向けて立っていた。
その姿は紛れもなく、

吉&マ: デスラーッ?!

リ: ハッハッハッハ。 忍法手錠抜けの術。こうみえても私は、
知恵の輪・デミラス星歴代チャンピオンなんだ。
お久しぶりだね、ヤマトの諸君。僕を残してさっさと地球に帰ってしまうなんて
つれないんじゃなくて?

吉: デスラー、僕らに何の用があるというんだ? 
決着はあの時あの場で済んだはずだぞ。

デ(に変更): あれはふいの番狂わせだったのだ、吉岡。わたしはあの時
うっかり八兵衛だった。でも今日は大丈夫だ、これを見よ。らっぱのマークの
正露丸。これがあればもう大丈夫だ。さぁ、真の決着の時が来た。その前に、
邪魔者は先に片付ける。マチャトンくん、さらばだ。

一瞬の光線がデスラーの持つ銃口からマチャトンに向かって放たれた。
咄嗟にマチャトンを床に伏せさせた吉岡は、すばやく
自身の体を半回転させながら起き上った勢いを使って
右手でデスラーの握っている銃を掴み取り宙に投げ出す。
その時微かな銃声をもう一度聞いたような気がしたが、
錯覚だったのだろう。気付くとデスラーは吉岡によって
再び床に組み伏せられていた。
一瞬だった。
全てが一瞬のうちに起こったことだった。
そして引き戸が開き、機動隊が突入してきた。
デスラーが機動隊員の手によって表に連行されていく。

デ: これが最後と思うなかれ、ヤマトの諸君。私は必ずやまた戻ってくる。
ふぅわっはっはっは~ わぁ~っはっはっはっは~ どぅわぁ~っはっはっは~
あ、顎が外れちゃった~。

ゴ: 懲りない奴だ、デスラーめ。 おい、二人とも大丈夫か?

吉: はい、大丈夫です。マチャトンくん、大丈夫?

マ: ああ。大丈夫だ。また君に助けてもらった。なんと礼を言った・・・

そこでマチャトンの言葉はふつりと途切れた。
凍りついたように吉岡を凝視している。

吉: ?

マ: 吉岡君・・・・・

吉: どうしたの?

マ: 吉岡くんっ?!

吉: ??

マ: 血がっ!!!!

吉: え?

放心したように自分を見つめているマチャトンの視線を辿ると、
自分の左肩が目に入った。
大量の血がそこから溢れ出ている。
撃たれたんだ。
とその時初めて吉岡は気付いた。

ゴ: きぃやぁああああ~~~~~~~~~~~~っ! (クラ~~~)

マ: ゴリさんが倒れてどうするんですかっ?!しっかりして下さい!
吉岡君っ、今僕が君を病院に運んでいく!

我に返ったマチャトンが吉岡の肩を取る。

吉: 大丈夫。自分で歩ける。

その声がどこか遥かに聞こえる雷鳴のように自分の鼓膜の中に響いている。
と急に全ての力が体から抜けた。
それは一瞬だったのだろうが、
吉岡は自分の体が真っ白い淵の中にゆっくりと落ちていく感覚に
ただ身を委ねるしかなかった。
落ちていく。
最後の意識の糸が切れる直前に、
吉岡は確かにそう呟いた自分の声を聞いた。
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吉岡刑事物語 その7

2008年08月14日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語
今日も朝から曇り空だった。
地上全ての呼吸を吸い込んだ空は
鈍色に淀んで膨らみ、
その鬱蒼とした重みに耐えている。
けれども、
ほら、
よく見てごらん、
“それ”はじんわりと、
気だるく緩慢な速度でもって、
全ての空間を蝕むかのように、
圧倒的な憂鬱さでもって、
僕らを鬱閉しながら
“ここ”に、
舞い戻らせているんだ。
そんな空だ。
そんな空なんだ、
この空は。
どこにも行き場はなく、
どこにも留まる場所もない。
ただ無造作に切り取られた感情の一辺が・・・


マ: 吉岡君?

吉: え? あぁ、マチャトン君、いつの間に戻ってきてたの?

マ: 6時間38分21秒前からずっと君の隣にいたよ。

吉: ごめん・・・・気付かなかった・・・。

マ: いいよ、そんなことには・・・もう慣れたから。それより大丈夫か?
また思いつめたような顔をしていたよ。

吉: ・・・・そ、そうだったかな?

マ: ああ。。。。 君は・・・・・時々ふっと透明になるんだ。
急にすっと全てが透き通ってしまう感じがして僕は・・・

吉: ?

マ: きゅい。

吉: え?

マ: いや・・・気にしないでくれ。 ま、こんな陰気な星で
半年も休む暇なき見張り捜査を電柱の影からしていれば、
誰でも気は滅入るってもんだよな。ほら、ランチを買ってきた。
もう夕食になっちゃったけどな。まぁ、いいかそんなことは。いつものことだし。
とにかく一緒に食べよう。

吉: マチャトンくん、

マ: なんだい?

吉: いつもありがとう。

マ: ・・・・・・・・。

吉: いただきます。

マ: ・・・・・・・。

吉: 食べないの、マチャトンくん?

マ: きっ

吉: え?

マ: きっ

吉: ?

マ: きぃ~ざくらぁ~~~~ドンッ! かっぱっぱ~るんぱっぱぁ~♪

吉: ???

マ: きっ気にするなよぉ~そんなことぉ~、吉岡君ったらぁ~!
(バシッ!←相棒の肩を叩いたらしい)あ、あんぱんが地面に落ちちゃったね。
いいよいいよ、僕のと半分コしよ~。え? え~~んりょなんてするなよぉ~、
相棒じゃないかぁ、僕たちぃ~。 あんぱんも分け合うあんぱん仲だよね~♪
水臭いなぁ~もぉ~。ハッ

お酒はぬるめの~燗がいい~♪

吉: もしもし?

マ: 気にしないでくれ、先ほどの僕の言動は。

ブチッ。ツーツーツーツー。

吉: ・・・・・・・・・・。

ゴ: おい。

吉&マ:え? わぁあああ~~~~~?!

ゴ: 何をそんなに驚いている、お前達? 

吉: 100㍍も後方から伸びてきた手でいきなり肩を叩かれれば
誰だって驚きます!

ゴ: シッ、大声を出すなっ! ホシに感づかれたらどうするんだ?

吉: そんな格好をしているゴリさんこそホシにバレバレですよ。なんで
ロボコンの格好をしているんですか?? 

ゴ: ロボコンじゃなくちゃこんな離れた所からお前の肩に手を乗せられないだろう? 
どうだ、こ~んなに伸びるんだよ~、ロボコンの腕~。便利だよね~。
これでロビンちゃんがいれば申し分ないんだけどな~。それに言っておくがな、
俺は98㍍後方から手を伸ばしているんだ。100㍍も伸びた腕だなんて
俺は化け物かっ?! おいっ、どこへ行くっ、お前達っ?!

マ: 帰るんですよ、署に。

ゴ: 帰っても無駄だぞ。

マ: なんでですか?

ゴ: 5時に門が閉まっちゃうんだよ、アンドロメダ署は。
(ニュィ~~~~ン ← 近寄ってきたらしい)
しかしな、俺たちはあくまでも七曲署のデカだ。
アンドロメダ署のルールに屈するわけにはいかん。
俺たちには俺たちのやり方で金メダルを獲る。いいな?

吉: そのロボコンの格好が七曲署のやり方なんですか?

ゴ: フッ、いいか、よく聞けよ、そこのニョロニョロ~ズ。何も俺は
すき好んでわざわざオークションで落札したこのロボコンスーツを着込んで
自慢している訳じゃないんだぞ。こんな格好をしているのもな、全ては
捜査のためだ。ホシの目を引かないための苦肉の策なんだ。一体どこの誰が
ロボコンが実は優秀なデカだと思う? 誰も思わないだろう?
これが正真正銘のロボコップなんだぜ。どうだ、羨ましいだろう? 
おいっ、どこへ行くっ?!

吉: 他の場所から張り込みを続けます。

ゴ: 待てよ、チッチとサリー。
その前に何か俺に言っておきたいことがあるだろう?

吉: 何もありません。

ゴ: とぼけたって無駄だぞぉ~。いいかお前ら、なんで二人して
お揃いちっくなスーツを着ているんだ? 狩人なのかい君たち? まさか
8時ちょうどのあずさ2号で駆け落ちするつもりじゃないだろうな?

マ: っそれは・・

吉: なんで二人で駆け落ちしなくちゃならないんですか? 

マ: えっ?!

吉: スーツが一緒なのは単なる偶然の一致です。

マ: ええっ?!

吉: それに僕はこの一着しか持っていないんですよ。

マ:(フラ~~~~~)

ゴ: それならこの特注ロボコンスーツを貸してやろう。きっと似合うと思う。

吉: もう捜査に戻ります。さ、行こう、マチャトンくん。あれ、どうしたの、
そんなにうちひしがれて? なにかあったの? 顔色が悪いよ。

ゴ: そんなことはどうでもいい。俺の話はまだ終わっておらんぞ。

吉: まだ何かおありなんですか?

ゴ: そうだ、大有りだ。お前たち半年もの間コンビを組んでいるというのに、
未だに本名で呼び合っているとは一体どういうことだ? ニックネームなしで
捜査をつづけているとは、恥を知れ、ヤン坊マー坊よ。明日の天気は晴れか?

吉: 既にそうやって僕らのニックネームを付けてるじゃないですか?

ゴ: いいか、吉岡、よく聞け。僕の名前はヤン坊、僕の名前はマー坊、
即ち二人揃ってヤンマーだ、とはいい度胸をしているな。

吉: ・・・・・・?

ゴ: ヤンマー!とはっきりそう言いたいのなら、ちまちまと坊などつけずに、
僕の名前はヤン! 僕の名前はマー! とか、
僕の名前はヤ! 僕の名前はンマー! とか、
僕の名前はヤンマ! 僕の名前は ー! のほうが
潔くていいと思うんだよ、僕としては~。 おいっ、待てと言っておるだろう!

吉: ゴリさんのたわ言に付き合っている暇は僕らにはありません。

ゴ: いいから待たれい、そこの若侍。この際ここですっきりはっきり
させようじゃないか。まずはマチャトンからニックネームをつけよう。
お前の名前は確かマチャトン堺だったな。それならマチャトン、
お前のニックネームはマチャだ。そして吉岡、お前のフルネームは何だった?

吉: ヨシオカヒデタカです。

ゴ: うむ。 それならお前はミッフィーだ。

吉: どうしてそうな・・、

マ: ちょっと待ってくださいっ、ゴリさん! 
吉岡君がミッフィーだなんて、どういうことですかっ?!
吉岡君はミッフィーなんかじゃありませんよっ、
オバQの弟のO次郎です!

吉: っ?

ゴ: それではお前はテキサス出身のドロンパだというのか? 
おのれ~いいところをとりやがったな~。くそ~、それなら仕方あるまい、
俺はQ太郎で手を打ってやろうじゃないか。でもな吉岡、俺は・・・・・

吉: ・・なんですか?

ゴ: 俺はな・・・・だけど・・・・

吉: だけどどうしたんです?

ゴ: 犬にはとっても弱いんだってさ。

吉: いい加減にしてくださいゴリさんっ、僕はっ

ゴ: バケラッタ。

マ: ふざけないでください、ゴリさん。吉岡君はしばわんこじゃないですよ、
白い手乗り文鳥です!

ゴ: えっ、そうだったのかいっ?! なんてらぶり~なんだ。

吉: いい加減にしてください、二人とも!

マ: ハッ

吉: 僕はミッフィーでもO次郎でもしばわんこでも白い手乗り文鳥でもありません。
吉岡です。

ゴ: え・・・・・ネス湖のネッシーの曾孫ヨッシーだったとは・・・。 
どうりであまり地上に姿を現さないと思ったんだ。。。ん、何を泣いている?

吉: 泣かずにはいられません。。。

や~るな~らい~まし~かねぇ~♪

マ: あっ、あそこで空中を飛びながら歌を口ずさんでいるのは?!

ゴ: 鳥か? 

マ: 飛行機か?

ゴ: いやよく見ろ、伝書鳩だぞ! しかもただの伝書ハトじゃない!!!

吉: 父さん!?

ゴ: おやっさん!!!

パタ。(←息子の肩の上に止まったらしい。)

鳩: 純くん、ガンビで火をつけられるようになったんですか?

吉: え?

鳩: 火がつけられないならもういい。さぁ、食え。

吉: え、でも・・・

ゴ: おやっさん、いくらなんでもそんなに沢山のかぼちゃを・・・

マ: 生のまま食べさせるのはちょと・・・

鳩: 子供がまだ食べてる途中でしょうがぁ!

吉: 父さん、僕はずっと言いたかったことが・・・

鳩: ルルルルル~。

吉: 父さん・・

鳩: 列車が来た。 帰りは一昼夜かけてこの夜行で富良野に戻る。
夜通しかぼちゃを抱えて飛んできたんだ。疲れました、父さんは。

吉: 父さん、

トゥルルルル~。
列車のドアが閉まりま~す。


鳩: 元気でな。

吉: 父さん、

鳩: 純、しっかりやれよ。

吉: 父さん、

列車が発車しま~す。


鳩: じゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!

吉: 父さん、僕は、

鳩: あ、伝言を渡すのを忘れちまった~!これがそのメモだ~! 
列車の窓から投げるから受け取れ~じゅ~~~~~ん! シュピッ!

吉: 無事に受け取りました! でも父さんっ、

鳩: じゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!

吉: 父さんっ!

鳩: いつでも富良野に戻ってこぉ~~いっ、じゅ~~~~~~ん!

吉: 僕は純ではありません!

鳩: えぇぇ~~~~~~~~~~~~~?

そして列車は夜空へと消えていった・・・・。
一人ホームに立ち尽くす吉岡刑事。

ゴ: 吉岡・・・。(ポン ← 肩に手を乗せたらしい)

吉: ・・・・・・・・・・・。

ゴ:(ニュィ~~~~~~~ン ←近づいたらしい。)

マ: 元気を出して、吉岡君。いつも傍に僕が、いや、
僕と不服だろうがゴリさんがいるじゃないか。

吉: ・・・・・・・。

ゴ: どうした吉岡?

マ: 吉岡君、この際だから携帯なしで言うが、僕は君と・・・・・
できることなら君とお友達になりた・・

吉: ゴリさん?

ゴ: どうした?

吉: 父さんから渡された伝言メモに・・・・

ゴ: ん?

吉: 「捜査の場所はアンドロメダではなく柴又だ、間違えるな、ボケ。」
と書いてあります。

マ: えっ?!

ゴ: そうか・・・。どうりで残業代が出ないはずだ・・・。 ま、
すんじゃったことだしね~、気にするなよぉ~二人とも。ささ、
そうときまったら地球に帰ろうね~。

吉: え、でも地球への最終列車はたった今・・・

マ: 出てしまいましたよ?

ゴ: 列車なんかに頼れるか、ばかもん。俺たちはな、燃える男の~ 
赤いトラクタ~♪

吉: 何を言っているんですか?

ゴ: それがお前~だぜ~♪

吉: は?

ゴ: これに乗って飛ばすんだ! 乗れよ、風に吹かれようぜ。

吉: 何で急に片岡義男口調になっているんですか?

ゴ: つべこべ言うと置いてっちゃうよ! 早く乗りなさい!
シートベルトはつけたね? さぁ出発~~~~~っ!!!

ぶぅぃいいいいいいいいい~~~~~~~ん。

ゴ: さらばだ、アンドロメダ星よ。宇宙から見るこの星は、
意外ときれいだったんだな・・・・。あ、しまった~。

吉: どうしたんです?

ゴ: マチャトンを乗せるのを忘れてしまった。

吉: えっ?!

ゴ: ま、いっか~。

マ: 吉岡くーーーーーーん!!!

ゴ: あんなに姿がちっちゃくなっても叫んでるぞ、マチャトンのやつ。

マ: 吉岡く~ん、帰るのか、島に?!

吉: ・・・・・・・・・・・・・はい。

マ: 君と友達になりたかったぁ~~~~~~~~~~~っ!!!!!

ゴ: 希望は捨てるなよーっ、マチャトン! また会う日まで~!!!


そして銀河へと旅立っていった赤いトラクター。
それがお前だぜ。
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吉岡刑事物語 その6

2008年07月31日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語


国境の長いトンネルを抜けると、


“ え~、ただ今この電車は日暮里を出まして~ 次は~ 
アンドロメダ~ アンドロメダに到着いたし~ます。
お出口は進行方向~ どんとこい~。 ”


そこは宇宙だった。顔の色が青くなった。


ゴ: さすがのナレーションだな。 五臓六腑にしみわたる声だ。
聞かせるね~。もしかしたら学生時代、語り部の部長だった? 
ほら、弁当とお茶だ。デザートに冷凍みかんも買ってきたぞ。 
さ、食べよう。ん? どうした、そんな豆鉄砲をくらったような顔をして?

吉: ゴリさん、僕は今どこにいるんですか?

ゴ: さっきのアナウンスを聞いただろう? アンドロメダの近所だよ。

吉: でも今さっきまで僕らは日暮里に。。。。

ゴ: 細かいことは気にするな。お前は任務のことだけ考えていればいい。
それがデカってやつだ。昔、お前の親父さんがオレによくそう言っていた。

吉: 父さんが?

ゴ: あぁ、そうだ。 やたらと影響力のある人だったよ、お前の親父さんは。
オレはな、いまだに靴屋で気に入ったものを見つけるとそれを手にとって、
「これが最高。」
って言ってしまうんだ。 インパクトのゴロー、と呼ばれてもいたっけな。
若い頃は青大将でもあったらしい。おいおい、どうしたっていうんだよ、
今度はそんな沈んだ顔をして?

吉: それに比べて僕はまだ何も・・・・・僕は父さんの・・・・・
本当の息子じゃないのかもしれない。。。

ゴ: どうしてそれを知っている?

吉: えっ?!

ゴ: 実はお前には出生の秘密があるんだ。いいか吉岡、驚くなよ?
わぁあああああっ????!!!!!!!

吉: どうしましたっ、ゴリさんっ?!

ゴ: 驚く前に驚いておいたんだ。プリ・ビックリしちゃった現象ってやつだよ。
いいか、吉岡、この赤いヘルメットを頭に被って、それからこの看板を手に持て。
これで大丈夫だ。

吉: ビックリカメラーって書いてありますよ、この看板。
これのどこが何に大丈夫なんです? 

ゴ: いいか吉岡、人生に無駄なことはないんだ。
人生に起こる出来事ってぇのはな、いわば全てにおいて
四捨五入切り捨て切り上げなんだぞ。わかったか?

吉: 全くわかりません。

ゴ: よく聞くんだ、吉岡。

吉: なんですか?

ゴ: 冷凍みかんがとけちゃうぞ。

吉: 話をそらなさいでください、ゴリさん! 僕の出生の秘密とは
一体何なんですか? 話してください!

ゴ: それはだな・・・・・・

吉: ・・・それは?

ゴ: ・・・・・・・・・・お前、

吉: ・・・・・・・?

ゴ: スパゲッチーバジリコって知ってるか? 

吉: 知っています。 話を逸らさないでくださいと先ほど言ったはずです。
僕の出生の秘密と、スパゲッティーバジリコと何の関連があるというんですか?

ゴ: スパゲッチーバジリコ・・・バジリコ・・・ミジンコじゃないぞ、
バジリコだ。 グリコカプリコとも違うんだぞ、混同するなよ~。どうだ、 
これですっかり俺の言いたいことはわかっただろう?

吉: いいえ。全く。

ゴ: おばかさんだな~。いいかい? 僕はね、空知川のこと言っているんだよ。

吉: ・・・・・・・わかりました。 それでその空知川がどうしたんです?

ゴ: お前が流れてきた場所だ。

吉: ・・・・・・・・・・・・・は?

ゴ: ある日、親父さんが川で洗濯をしていたら、どんぶらこどんぶらこって
アナウンスしながらお前が上流から流れてきたんだよ。桃に乗って。

吉: 桃に乗って?

ゴ: 白桃だったらしいわけで。

吉: ふざけるのもいい加減にしてください、ゴリさん。それじゃ、
僕は桃太郎だっていいたいんですか?

ゴ: 違う。お前は桃太郎じゃない。

吉: え?

ゴ: ピーチくんだ。

吉: ・・・・・・・・。

ゴ: 間違った。 ピーチホワイトくんだ。

吉: ・・・・・・・・。

ゴ: プハ~。(←食後の一服らしい。)

吉: ・・・・ゴリさん?

ゴ: 冷凍みかんがとけちゃうぞ。

吉: そうではなくて今の話は、

ゴ: なんだ?

吉: ほんとうなんですか?

ゴ: 嘘にきまっているだろう。でもな、
白桃に乗って川から流れてきたピーチくんという部分は本当だ。

吉: 全部本当じゃないですかっ?!

ゴ: そうとも言えるし、そうとも言えん。それを決めるのはお前次第だよ。

吉: 僕が決めていいんですか?

ゴ: いいんじゃないのか?

吉: 僕はピーチではありません。

ゴ: それはお前が決めることじゃない。

吉: いい加減にしてください! 僕は、僕は・・・・・
もうこんなことにはうんざりです。僕は刑事を辞めます!!!

ゴ: ぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~?

吉: なにを小声で驚いているんですか?

ゴ: 落ち着け、吉岡。お前がピーチくんでありたくないという気持ちは
よくわかった。だらからな、こうしよう。お前はピーチくんじゃない。

吉: ?

ゴ: ピーチ男爵なわけで。

吉: だからそういう問題じゃないんです!

ゴ: そんなに桃が嫌いなのぉ? 好き嫌いは体によくないよ。
それよりお前、刑事を辞めてこれから一体どうするつもりだ?

吉: それは・・・・・

ゴ: 何で食っていく?

吉: それは・・・・・

ゴ: きび団子か?

吉: 意味が違います。

ゴ: メガネドラッグのCMで小銭を稼ぐだって?

吉: どうしてそうなるんですかっ? 僕は桃太郎じゃないとさっき仰いましたよね?

ゴ: メンメンメ~ガネ~のよ~いメ~ガネ~♪ってそれでも男かっ?!

吉: だから僕はそんなことは一言も・・・

ゴ: 品質表示の良いメガネだとっ?!

吉: は?

ゴ: そんなのは当たり前だぁっ。いちいちCMで歌にするなっ!!!

吉: ・・・・そんなこと僕に言われても・・・

ゴ: オレは無性に悲しいぞっ!!!ゴリさんパ~~ンチッ!!!!!
立てぇ~! 立つんだ、ジョー! おやっさん、オレは燃え尽きたぜ。
なんだとっ?! 弱音を吐くな、タイガーマスク! いやお前は
タイガーマスクじゃなくて、タイガー・ゴマちゃんだ。きゅ~~~~~。
らぶり~~~~~~~~~~ それじゃ~また来週!

吉: 何を一人でやっているんです? 勝手に来週に持ち込まないでください。

ゴ: わかったよ、吉岡。そこまで言うなら、オレはもうお前に
ニックネームをつけるのは今後一切やめる。

吉: え? ほんとうですか、ゴリさん? 信じていいんですね?

ゴ: ああ、本当だ。俺を信じろ。

吉: ありがとうございます。これで任務に集中できます。

ゴ: そうだな、安心して任務に没頭しろ、マシュマロ刑事。

吉: ・・・・。

ゴ: マシュマロちゃんデカのほうがいい?

吉: 。。。。。。。。。。。。

ゴ: うれし泣きするほどのことじゃないだろう?

吉: 悲しくて泣いているんです。

ゴ: 悲しい時は思い切り泣け、マシュマロ~ン。男が汽車の中で泣く。。。
余程の訳有りなんだろう。。。汽車といえば、お前は銀河鉄道がよく似合うな。
お前を見ていると、どうも銀河鉄道の夜の話を思い出してしまってのぉ~。 
まるでお前は、ジョバンニとカムパネルラ、あの二人のどちらでもある、
みたいな男だな。ま、それはそうとして、目的地に着く前に、今度の任務先の
オレの連絡先を渡しておく。これだ。慣れない土地だからな、何かあったら
遠慮なくすぐに俺に電話しろよ。

吉: ・・・・・。

ゴ: どうした?

吉: 東京03-200-2222 って書いてありますよ。

ゴ: そうだ。

吉: 日本文化センターの番号じゃないですかっ?!

ゴ: え? あ、間違っちゃったぁ~。 それはこの前、
「スタイリースタイリー・孫の代までお得用セット」を注文した時のメモだったぁ。
お望みなら一台あげようか? オマケで更に35台ついてきたんだ。

吉: 結構です。僕が今現在必要なのはゴリさんの連絡先です。

ゴ: そうだったそうだった。それはねこっちのメモだったよ~。はい、どうぞ。

吉: ・・・・・・・なんですかこれ?

ゴ: 何がって?

吉: 電話はヨイフロって、何ですか? と聞いているんです。

ゴ: シッ! 大きな声で読むんじゃない! それはな、シークレットコードだ。

吉: は?

ゴ: いいか? 伊東に行くなら?

吉: ハトヤ?

ゴ: 電話は?

吉: 4126。

ゴ: よろしい。しかし聞け、電話は4126だが、その前の番号は
一体何番なんだ? 4126だけじゃ繋がらないだろう?!

吉: ・・・・・確かに・・・そうですが・・・。

ゴ: どうだ、立派なシークレットコードだろう? いいか、この番号に
電話してもオレに繋がらない時は、フロントに電話するんだ。万が一の時の為に、
4126体操の後で海底温泉につかっているかもしれん。これも任務の一つだ。
つらい任務だが仕方あるまい。  

吉: ゴリさん?

ゴ: なんだ?

吉: アンドロメダにハトヤ旅館があるんですか?

ゴ: ないとどうして言い切れる?

“ 次は~ アンドロメダ~ アンドロメダ~ お泊りはハトヤへどうぞ~
ちなみに映画の鉄郎は~ テレビの鉄郎とは似ても似つかないので
見間違えなく~ しかしどちらも鉄郎~ 
お降りの前には 宇宙服の装着をお忘れなく~ ”

ゴ: さ、行くぞ、吉岡!

吉: えっ? でもその前に宇宙服を着ないとですよね?

ゴ: そんなもんはいらんっ。気合だっ! うぉりゃぁ~~~っ!
待ってろよぉ~っ、メーーーーーーテルーーーーーーーーー!

吉: ゴリさ~~~~~~~~~~んっ!!!!!

ゴ: なんだい?

吉: いつの間に後方にっ?! たった今アンドロメダに飛び降りましたよね?

ゴ: 忘れ物しちゃったんだよ~。

吉: 何をですか?

ゴ: お前をだよ! 行くぞっ、とぅりゃぁ~!

吉: ぅわぁーーーーーっ?!


つづく。

まだ?
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吉岡刑事物語 その5

2008年07月23日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語


オクラホマ州での極秘任務をいつの間にか終え、新たなる任務として、
相棒の綿棒デカ、またの名を鳴海刑事、時に古代守、えぇい、面倒だ、
この際マチャトン・堺でいい。と共に宇宙戦艦ヤマトの乗組員として
イスカンダルへと旅立った吉岡刑事。

あれから半年。

マ: 不覚だったよ、吉岡くん。こうして任務についたがまさか、
携帯が圏外だったとは。。。 

吉: ここでは僕たちはあくまでも古代兄弟ですよ、兄さん。

マ: そうだったな。。。 だけど進、知ってるかい? 僕は・・・

吉: 兄さん、大切なのは任務を全うすることです。だからこうして、

マ: え?

吉: 糸電話で話をするのはやめましょう。 ホシに怪しまれます。

マ: それもそうだな。。。しかし進、お前に一つ話しておきたいことが・・・

ゴ: 外部より入電! 外部より入電!

吉: ゴリさんっ?!

マ: いつの間にっ?

吉: 外部より入室じゃないですか?!

マ: 自分で自分の登場アナウンスしてどうするんです?

ゴ: シッ! オレはゴリじゃない。ここでは真田だ。

吉: だから眉毛を剃ったんですか? 極道のようですよ。

ゴ: そんなことよりメインパネルに切り替える! メインパネル、オン!
くそ~、三問しか正解できなかったから画面がよく見えない。

吉: それはパネルクイズ・アタック25です。
宇宙まで来てふざけないでください。

「逢いたかったよ、ヤマトの諸君。」

吉: ガミラス帝国の総統!

マ: デスラー!

デ: 詳しい解説をありがとう。さすがのコンビ仲だな、チルチルとミチル。
今日こそ決着をつけようではないか? 後ろを見よ。

吉: えっ?

マ: 後ろ?

ゴ: の百太郎?

吉: デスラーッ!?

マ: いつの間にっ?!

デ: ハッハッハッハ。先ほどのビデオは昨日録画しておいたものだ。
5回も撮り直してしまった。緊張したよ。 ん? この眉毛なしは一体誰だ?

吉: 真田先輩です。

デ: さなぎだと? 幼虫なのか?

吉: さなだ、です。 人間です。

ゴ: 初めてお目にかかるな、からすみ帝国総統。

デ: ふざけるな。 ガミラスだ。

ゴ: デミグラスソース?

デ: ソースは好きじゃない。ハンバーグには大根おろしとぽん酢がいいと思う。

ゴ: 僕もー! やっぱりぽん酢だよね~。

吉: 何してるんです? 二人とも?

デ: ふざけさせて隙を狙うとは、卑怯な奴め。こうしてやるぞ、
デスラー砲発信!

三人: うわぁーーーーっ!!!

デ: あ、電池切れ~。

ゴ: 無駄にびっくりさせるなっ、ばかたれ!  

「待って、古代くんっ。 守の方!」

マ: スジャータッ!!!

ス: 古代くん、守の方。 戦いはやめて! ちなみに私はスターシャ。
スジャータにはコーヒー。コーヒーにスジャータよ。何度言ったらわかるの?

デ: スジャータ、お久しぶりだな。

ス: デスラー総統、もう戦いはやめて。戦いからは何も生まれないわ。
生まれるのは空虚な幻想だけ。祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす 驕れる人も久しからず 
ただ春の夜の夢のごとし。
って、古典の時間で習ったでしょ? 暗記させられたでしょ? 

吉: その通りだ、デスラー。もう虚しいだけの戦いはやめたほうがいい。
僕たちはもっと根源的なところから見直さなくちゃいけないのかもしれない。
世界平和だ、ラブ&ピースだ、イッツ・ア・スモール・ワールドだ、
あいうぉんちゅ~だべいべ~と唱えながら、一方では隣の家のおばちゃんの
悪口を言っているようじゃ、根本は何も変わっていかないと思うんだ。
小さなことからコツコツとぉ~、と西川きよしも言っていたじゃないか。

デ: 戯けたことを言うな、チルチル。いい根性してるじゃねぇ~か。
フッ、いいだろう。お前以外のやつはみんな解放してやる。皆を連れ出せ、
ミチル。

マ: なんだとっ、デスラーッ! 僕らはチルチルとミチルじゃないぞ。

デ: それじゃ~、いとしこいしだ、夢路兄弟。

マ: それも違うっ!

デ: おぼんこぼん。 とでも言いたいのか? それとも、今いくよくるよ、
とでも? 今日はレディース・デイなのかい?

吉: 何でそんなに日本漫才に詳しいんだ? いいだろう、デスラー。 
僕一人だけここに残る。

マ: 進っ?!

ゴ: チルチルッ?!

吉: だから僕はチルチルじゃありません、ゴリさん。さぁ、早く、
ここから逃げてください。 兄さんっ、皆を外へ誘導して!

マ: 進! 

吉: 僕のことは心配しないで。きっとまた会えるよ、兄さん。
その日まで、さよならだ。

マ: 進、その前に言っておきたいことが・・。 

吉: なんだい、兄さん?

マ: お前はな・・・・・お前は・・・・・・・

吉: 驚かないから言ってくれ、兄さん。

マ: 実は僕より年上なんだ。

吉: えっ?!

デ: 世間話はそこまだ。さぁ、立ち去れ、皆どもよ! 

ゴ: あとは任せたぞっ、コアラのマーチ! 健闘を祈る!

マ: 圏内に入ったらまた電話する!

そしてそこには吉岡刑事とデスラーの二人だけが残ったのだった。
静まり返る艦内。

デ: お前はコアラのマーチだったのか?

吉: 違う。吉岡だ。

デ: なんとなく似ているな。らぶり~♡って感じが。まぁ、そんなことは
どうでもいい。わたしが今望んでいるのはただ一つ、勝利だ。

吉: デスラー、僕が望んでいるのは、和解だ。戦いがもたらす勲章じゃない。

デ: それではわたしと一騎討ちはしないと、そう言いたいのか?

吉: そうだ。

デ: なんでだよーっ。この弱虫ぃ~! プイッ!(←スネてしまったらしい)

吉: ・・・・・・・・・・デスラー、

デ: お前の母さんデベソー!!!

吉: 僕はただ、

デ: どうだまいったかっ! まんまとひっかかったな。これを見よ。ハッ!

吉: 空手の構えをしてどうするつもりだ、デスラー?

デ: 当たり前じゃないか、決着の時だ。こう見えてもな、わたしは空手はちびっと
沖縄で習ったことがあるんだ。先生はミヤギだった。ワックスオン、ワックスオフ!
さぁ、掛かって来い!

吉: そんな真似はしたくない。 僕は根っからの平和主義なんだ。
和解しよう、デスラー。

デ: わ!蚊にはフマキラーだと? 笑わせてくれるな。フフ、フフフ、
あははははは~♪ 笑いが止まらなくなってしまったじゃないか。
おのれ~、それならお前にはこれだ、くらえ! ぬぅうぉおっ?!!!!! 

吉: え?

デ: なんてことだ・・・・・やられてしまった。。。。

吉: いや僕はまだ何も・・・・

デ: わたしとしたことが・・・・・・やられてしまった・・・・・・
今朝食べたヨーグルトに・・・・・・・・・・賞味期限切れだったんだ。。。

吉: ・・・・・・・・・。

デ: どうりで今日は顔が青いと思っていたんだ・・・・・。 ウッ、
さらばだっ、ヤマトの一員! また会う日まで!

吉: ・・・・・・・。

そして誰もいなくなった。。。
と思いきや、

ゴ: よくやった、見事だ。

吉: ゴリさん?! まだいたんですか?

ゴ: そこの缶ジュースの中に潜んでいた。 
しかしピンチの時にも己を見失わないとは、
さすがだな、吉岡不動明王。

吉: いやあれはデスラーが勝手に負けてしまったんです。

ゴ: そこだ。そこなんだよ、ヒントでピントくん。

吉: は?

ゴ: 勝つと思うな、思えば負けよ。と言うだろう? 深いのぉ~。

吉: はぁ・・・・。

ゴ: 無になる、ってことさぁ~。 
人の心って悲しいかな、歳をとるごとに色んな塵が心に積もってきて
くすんできちゃうじゃないですか。
だけど君にはそれがあまり感じられないね~。
いや、君にだって沢山の抱えきれない悩みやジレンマがあるだろう、
人間なんだから当たり前だ。しかしもっと大きなスタンス、
例えば君の持つ背景は、とても広大にゆったりと開いている、
っていう感じがするよ。背景にゆとりがあるっていうのかな。
そしてそれを見渡す視界は、どこまでも遥かに澄んでいる、っていう感じ。
我欲という塵が感じられないんだよ。まるでハイサッサだね。
しかしそれが、君の一番の強さだと思うんだ。真の勇気は無から生まれる。
君はその真理の極々近い場所にいるんだと、そう思えてしかたがないんだ。
ということだよ。以上。それでは失敬。

吉: ゴリさん、どこへ行くんですか? ここは宇宙ですよ!

ゴ: 心配するな~! じゃ~な!

かくして宇宙任務を無事に終え、
晴れて地球への帰路についた吉岡刑事。
前方を見つめる彼の瞳には、青く美しい地球が、
遥か彼方に輝いていた。。。

おつかれ、吉岡刑事!


もしかしてまだつづく?
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吉岡刑事物語 その4

2008年07月18日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語
拝啓 恵子ちゃん

国際捜査を任命されて、ここオクラホマに来て早半年が過ぎ、
電気も水道も通っていないこの場所に、最初の頃は戸惑ったけど、
でも最近はこの生活にも、少しずつだけど慣れてきたんだ。
昨日はクマさんに手伝ってもらって、川から水を引いたので、
少しは生活も楽になったと思われ。あ、それから、風力発電も作ったんだ。
父さんには内緒だよ。昨日は友達のひげモグラさんとー

吉: あれっ、ゴリさんっ? ゴリさんじゃないですか?!

ゴ: 来ちゃった。 それにしてもよく一目で俺だってわかったな、
プレーリードッグ121号。さすがの刑事眼ってやつだ。

吉: そんな格好をしていれば嫌でも目につきます。なんで
サンタクロースの格好をしているんですか?

ゴ: シッ! チビッ子に聞かれたらどうするんだっ?! 
チビッ子の夢を壊しちゃいかんじゃないか。 

吉: チビッ子なんていませんよ。ここにいるのはプレーリードッグだけです。

ゴ: そうなのよぉ~。 一体どれがお前なのか探すのに苦労したよ~。
見事なプレーリードッグぶりだ、121号。

吉: それが・・・・・・。

ゴ: ん、どうした?

吉: 実は大里さん一家が夜逃げをしてしまったので僕は・・・
118号になってしまいました・・・。不覚です。

ゴ: ん・・・まぁ・・・それもいたし方あるまい。目を瞑ろうじゃないか。

吉: ゴリさん・・・・。

ゴ: ・・・・・・・・・・・・

吉: 寝ないでください!

ゴ: お、すまんすまん。長旅の疲れが出たのかもしれん。 

吉: でもどうして全身ずぶ濡れなんですか?

ゴ: そりゃ~そうだよ、だって泳いできたんだもん。

吉: 泳いできたんですかっ?!

ゴ: 佐渡ヶ島経由で大洋を渡ってきた。

吉: 遠回りじゃないですかっ!?

ゴ: あぁ、二時間36分もかかってしまった。俺も歳をとったもんだ・・・。
でもな、ここにはどうしても一度来てみたかったんだ。 
それというのもオレの後輩のロッキー刑事が、ここロッキー山脈で・・・
ここで、リスを助けようとして。。。くっ。

吉: どうなったんですか?

ゴ: リスに・・・・・・リスに・・・・・・・

吉: リスに?

ゴ: 指を噛まれちゃったんだ。

吉: は?

ゴ: 三針縫ったらしい。痛かったってー。泣いちゃったらしいよ。

吉: ゴリさん、そんな冗談を言う為に、わざわざ太平洋を
泳ぎ渡ってきたのですか? そもそもオクラホマにロッキー山脈はないですよ。

ゴ: まぁ、そう固いことを言うなって。オレがここへやってきた理由は
沢山あるんだ。沢山ありすぎて泳いでいるうちに忘れてしまった。
で、覚えていることだけ言おう。差し入れだ。オレからはこれ、
「長命草入りやしがにあんぱん 青ラベル」新発売。
それから缶コーヒーのボス。それとこれはお前のおっかさんから、
英国調ティーセットと和歌山みかんだ。変わったみかんの食べ方をするね。
それからまだまだあるんですよ~。これは親父さんから、北海荒巻鮭。
いつでも富良野に戻って来いと言っていたぞ。あ、心配するな、
飲み込んだ梅干の種は無事に取れたそうだ。以上。それじゃ。

吉: ちょっと待ってください、ゴリさん! 
隣にいるのは誰ですか?

ゴ: え? あっ、そうだった。 忘れてたよー。あのね、
これは君の新しい相棒の綿棒デカだ。 綿棒デカ、
これが噂の優秀な・・・おいっ、どこに行くんだっ、綿棒デカ?!

お酒はぬるめの燗がいい~ 肴は炙ったイカでいい~♪

ゴ: お、電話だ。(↑着信音らしい。)もしもし? 
なんだ、お前か。あぁわかった。今かわる。おい、お前に電話だ。

吉: 僕にですか? もしもし? 

綿: 鳴海です。警察大学校で一緒だった。

吉: あぁ、鳴海くん・・・。お久しぶりです。
で、でもなんで、

綿: なんだい?

吉: 20メートル先からわざわざ電話をかけてるんです?

綿: 僕は捜査に私情はもちこまない主義だ。刑事として当然のことだろう?
それともオクラホマの新鮮な空気に影響されて、和気合い合い、
アイアイアイアイお猿さんだよ、とでも言いたいのかい?

吉: そんなつもりはっ・・・・そんなつもりはありません。

綿: 今日から僕は君の相棒になった。だが言っておくが、
僕たちの会話は、第10話のエンディングまで、
全て電話を通して行われる。異存はないね?

吉: ・・・・・・・・。

綿: どうなんだい?

吉: 鳴海くん、僕は・・・

綿: え? 

吉: あ、すみません、集会の時間が。。。

綿: そうか、タフだな、オクラホマの刑事は。

ブチッ。ツーツーツーツー。

吉: ・・・・・・・・。

ゴ: 気にするな、ラスカル。奴は電話の切り方は知らないが、
マメに電話はかけてくる。意外とさみしんぼうなんだ。

吉: ゴリさん?

ゴ: なんだ?

吉: 僕はいつからラスカルになったんですか? 

ゴ: なんだ、スタンリー少年の方がいいっていうのか? 
でもお前はスタンリーっていうより、フランダースの犬のネロだな。
とにかく、何でも川で洗う癖は直しておけ、ラスカル。

吉: そんな癖は持っていません! 

ゴ: いいか、ラスカル、この携帯はお前に渡す。新しい任務だ。
お前には綿棒デカと共にイスカンダルへ行ってもらうことになった。

吉: ・・・・・・・・・・・・・・は?

ゴ: イスカンダルだよ、イスカンダル~。椅子噛んだる~
とはちゃうで~。

吉: そんなことはわかっています。それでは僕に宇宙へ行けと、
そう仰ってるんですか? 

ゴ: そうだ。宇宙戦艦ヤマトの乗り組み員となっての、ユニバーサル任務だ。
いいか、これもまた極秘任務だぞ。船上ではあくまでも、綿棒は古代守、
お前は古代進およびにミーくんだ。二人揃ってジョン&パンチ。
わかったな?

吉: それは・・・鳴海くんも承知のことなんですか?

お酒はぬるめの~♪

吉: もしもし?

綿: 承知の上だ。

ブチッ。ツーツーツーツーツー。

吉: ・・・・・・・・。

ゴ: 健闘を祈る。旅立つ際には、お前に真っ赤なスカーフを振ってやるよ。 

吉: 待って下さい、ゴリさん! 任務の内容を教えてください!

ゴ: 誰の為でもいいじゃないか。みんなその気でいればいい。

吉: それでは答えに・・・

ゴ: 旅立つ男の胸には、浪漫のカケラが欲しいのさ。

吉: だからそれは・・・

ゴ: ララ~ララ~ラ~ラァ~~~~ ララ~ララ~ラ~ラァ~

吉: ゴリさ・・・

ゴ: ラ~ラ~ラ~真っ赤な~~~~ス~カ~~フ~。
(シュボッ)プハー。
男の極意だな。
お前にぴったりの歌だ。
いつだってお前はそうじゃねぇか。
核心に立ち向かえる男なんだ。
核心に真っ向から立ち向かうのは誰だって怖いだろ? 
自分の心を抉り出す勇気なんてないだろう?
身も心も他に捧げて一直線に走ることなんて誰が出来る?
でもお前はそれが出来るんだ。
律儀な疾走感ってやつを内に秘めている男だぜ、お前は。
そんやつはそんじょそこらにはいない。
くやしいけど、

吉: ・・・なんですか?

ゴ: かっこいいぞ、吉岡くん。
じゃ~な。


かくしてイスカンダルへと旅立った吉岡刑事。
旅立つ彼の瞳には、浪漫のカケラが宿っていた。。。


つづく・・・。
かもしれず。

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解決事件ファイル キティーちゃんQ

2008年07月17日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語
                                              
おばQだったのか、キティーちゃんっ?!
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吉岡刑事物語 その3

2008年07月16日 | もしものコーナー 吉岡刑事物語
移動願いを出して早半年。しかし刑事としての有能さを買われ、
中々願い書を受理してもらえない吉岡刑事であった。

吉: ゴリさんっ、ちょっとお話が!

ゴ: おぅ、元気そうだな、サンリオキャラクター・キキとララ。
ボスが喜んでたぞ、お前の徹底的な捜査のお陰で、迷宮入り確実だった
「サンリオピューロランド・キティーちゃんの口は存在するのか事件」が
晴れて解決したってな。よくやった、デカの2乗。・・・・・・プッ!
ね、わかる、今の? デカがデカしたからデカの2乗。きゃは~んッ♪
山田くん、まだ座布団もちなの? ま、いっか、一枚持ってきて!

吉: 本題に移っていいですか?

ゴ: なんだよ、お前~、ノリが悪いな~。 お前の父さんは、
刑事としても優秀な人だったが、それ以上に立派なツッコミ芸人だったぞ。

吉: 僕はツッコミ芸人ではありません! 捜査一課の刑事です!!!

ゴ: そんなに怒るなよぉ~。ま、それもオヤジさんの血かな。
今でこそお前の親父さんは富良野に戻って炭作りをしているが、昔はな、
とんがっているのは口だけじゃ~なかったぜ。心もギンギンにとんがってたんだ、
パピプペッ!!!!

吉: は?

ゴ: パピプペッ!

吉: ぽ?

ゴ: ぽ

吉: ・・・・・・ぽ?

ゴ: はとぽっぽのゴローって言われてたんだよ、お前の親父さんは・・・。

吉: ・・・・・・それと先程の会話の接点は何なんですか?

ゴ: フッ。接点なんてもんはな、海に浮かぶブイのようなもんなんだぜ。
必要なときには存在し、必要でない時にはただの邪魔なもんにすぎねぇんだ。
しかしな、オレは接点を信じる。接点あっての人生じゃねぇか。
そうじゃねぇ~か、え、はとぽっぽJrよ?

吉: ゴリさん・・・・・・・。

ゴ: 泣いてるのか?

吉: 僕は「はとぽっぽJr」ではありません。吉岡です。

ゴ: わかったよ~。そんなに新しいニックネームが欲しいと言うなら
いくらでもくれてやるぞぉ。 いいか今日からお前のニックネームは、
「ワニワニパニック大作戦」だ!

吉:なんでですかっ?!

ゴ: うぬら~、不服だってぇのかい? 欲張りな奴!それならこれだ、
「こぶとり爺さんのこぶのついてない方、もしくはポチでも可」!

吉: どうしてそうなるんですかっ? 一体それに何の意味があるんですっ? 
意味があるなら、あるとしたら言ってください!

ゴ: そんなもんはなか。思いつきだ、若侍。そうだ、
思いつきといえば、お前に新しい任務があったんだったぁ。
最近物忘れがひどくってねー。はっはっはー! よし、こっちにこい。
シッ、周囲に気をつけろよぉ、これはな、極秘の国際任務、いわばGメンだ。
流しそーめんじゃないぞぉ。プッ!お、失敬。 お前なら、いや、お前にしか
できない捜査だ。いいか、この写真を見てみろ。

吉: これは・・・・・・・どこかの草原ですね?

ゴ: そうだ。オクラホマ州のとある草原だ。しかし目を凝らしてよく見てみろ。 
そこかしこにある穴倉からヒョインと立ちあがって辺りを見回している
小動物たちが見えるだろう? 何匹くらい見える?

吉: そうですね・・・120匹くらいはいるんじゃないでしょうか?

ゴ: お前はその121匹目だ。

吉: は?

ゴ: お前の新しい任務だ。プレーリードッグ121号。 
護衛にロデムとポセイドンもつける。いいか、ぬかるなよっ! 
七曲署の名に懸けて、絶対にホシをしょっぴいてこい! 
土産のことは気にするな、ビーフジャーキでいい。
それじゃ~、健闘を祈るぞ、プレーリードッグ121号! 

吉: ・・・・ゴリさん、待ってください! 一体これは、
何の捜査なんですかっ?!

ゴ: シュボッ(←タバコに火を点けたらしい) プハー。
知りたいのか?

吉: 教えてください!

ゴ: それはな、

吉: それはっ?

ゴ: ヒミツです。 
アッコちゃんじゃないぞぉ~。はっはっはっはーっ。

ひゅるる~~~~っと北風、夏なのに。。。

吉: ・・・・・泣いていいですか?


あぁ吉岡刑事の至難はまだまだ続く。 
泣くな、吉岡。 頑張れ、吉岡! 
吉岡刑事は今日も行く!
つづく・・・。


しつこいってかい?
コメント (2)
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