月のカケラと君の声

大好きな役者さん吉岡秀隆さんのこと、
日々の出来事などを綴っています。

縦男くんの夏休み

2007年04月23日 | 黒澤映画

まず一言。
縦男という名前は、かっちょいい。

ということでですね、今日は縦男くんについて書きますだ。

黒澤映画でありまする。
英題は「Rhapsody in August」。なんとも潔い直訳(すぎるぞ)。

この作品に吉岡くんが出演するということを聞いたときは、
「やったぜパパ! 明日はホームランだ!」みたいな浮かれっぷりでですね、
当時のあたくし、早速、映画好きな友達にこう報告したとですよ。

私「友よ、聞きたまえ。ヒデタカくんが黒澤映画に出るのだ!(ふふ、すごいじゃろう?)」
友「ヒデタカって誰?」
私「え? あ、満男くんだよ~、寅さんの。」
友「だから誰よ?」
私「・・・・ほら、北の国からの。」
友「あ、純君ね。早くそれを先に言ってよ。」
私「だけど、彼はほんとは、ヨシオカヒデタカって言うんだよぉ。」
友「で、純がどうしたの?」
私「あのね、あのね、黒澤映画に出るんだよ!(どだ、まいったろう、君。)」
友「で?」
私「え? 黒澤映画だよ、世界の黒沢だよっ。(降参したのではないのか~、友よ?)」
友「ふ~ん。」
私「(ふ、ふ~んとは、なんなのだっ?)すごいでしょ?」
友「ねぇ、そのヨシオカヒデタカって名前さぁ」
私「うん、なになに?」
友「選挙ポスターみたいな名前だよね。」

まったく実のない話に終始してしまった悲しい記憶。
私はその時忘れていたのだ。
彼女は、黒澤だろうが、黒飴だろうが、黒豆だろうが、
まったく邦画には目もくれない、
メルモちゃんみたいな可愛い顔した頑固一徹野郎だったことを。

彼女みたいな人って、結構いますよね~。
邦画ははなからだめ~、みたいな。
もったいないなぁ~、って思うとです。

さてさて、この映画ですが、静かに始まるトップロールの後、
壊れた古いオルガンを弾く白魚のような手をもつ少年・縦男くんのシーンから始まります。
おわっ、いきなり登場の縦男く~ん。
まさか一番最初のシーンから出てくるなんて思っていなかったから油断していて、
飲んでいたアイスティーを鼻から逆流させちゃったよ~。痛いじゃないか~。
しかしびっくらしたですばい。
ここから続くその後のシーンで、「壊れたオルガンを直したい縦男くん」
という面がなにやら強調されていたので、これはてっきり、
壊れたオルガン=おばあちゃんの心←おばあちゃんの心を救おうとする縦男君大活躍の巻なのかっ!? 
ヨ~ロレイヒ~!
と一人でエヘエヘしながらウキウキ予測を立てたのだけれども、
しかし取り立ててそんなこともなく、物語は静かに淡々と進んでいきやした。

これを当時最初に見た時の私の感想はですね、
「う~む、これは難解すぎるぞ。どこかに解説書はないのだろうか?」
という、デジタルカメラを目の前にして困っちゃったおばあちゃん、
みたいな感じのものだった。
世界の黒澤映画=難しいのではないか? 
いや、難しいに決まっている! 
乱を観たとき、難しすぎて寝てしまったほどだっ! 
という、まるでETみたいな頭でっかちさんになってしまっていたんですな~。

しかし、今これをDVDで改めて見返してみるとですね、
話はとてもシンプルで分かりやすく、そこには上から下へ流し込む
インテリ臭みたいなものは、いささかもないのがよくわかりまする。
それは、縦男くんを含めた、まるで南アルプス天然水みたいな
純度100%の従兄妹たちに表現されているように、
とてもまっすぐで、驕りがない。
個人に合わせてその作品も色を変え成長していくんですな~。
それは決して心の中で古びていかない。
そういう作品を名作というのでしょうね~。
う~ん、マ~ベラス。

この縦男くん(しかしほんとにかっちょええ名前や~)、
「君は一体、なにを食べて育ってきたのですかな?」
って彼の体内栄養成分表を見てみたいと思ってしまうような、
そりゃ~純粋培養されたような男の子ですと。
それは言葉を変えて更にいってみればですね、
「十年後に結婚してくださいっ! しかし今は結構です。」
みたいな、しばらく額に入れて飾っておきたいような純粋さを
持っているっていうのかな~、なんかうまくいえないけれど、
そんな穢れのなさを携えた男の子って感じなのでごじゃります。

それからなんていうんですかね~、こう、ほどよいのびのび加減が
非常にグッドって感じなのですよん。
のびの~び、でもないし、の~びのび、でもないし、のび~のび~、でもない、
生粋の「のびのび」。

それは、彼本来が持っている「純粋」くん「のびのび」くんを、
黒澤監督がその手法で、うにょにょ~んとスクリーンに引き出したのでは
ないのだろうか? と思えるほど、それは自然で、嫌味がないでがんす。
観ていてほんとに気持ちがいい。

そしてこの作品の中でも、彼は立派に自分の役の役目を理解して、
スクリーンの中に存在しているでありまする~。
小学校の校庭を訪ねるシーンがありますけど、黒澤監督は、
この場面で縦男くんが言う、
「それはね、この世で一番怖いものを見た人たちだからだよ。」
というその言葉によって、このシーンを成立させているのだと思うのでありますが、
しかしそれは、我らがヒデタカくんの演技なくしては語れな~い。
彼は、その絶妙なバランスで抑えた感情演技によって、この大事なシーンに、
きちっと旗を立てているんですな~。
それはまるで、寂寥とした土地にそっと静かに木の苗を一つ植える、
といったような感覚の言葉の響きだったよ。
当時彼は20歳になるかならないかの男の子。
あ~~~っ、なんてトレビア~ンなのだ、君は!
そんなに惚れさせんでくれ~、ヒデタカく~ん。

女の子たちの台詞が、少し児童文学書みたいな響きに聞こえちゃう以外を除けば、
この従兄妹達は、ほ~んとに自然。
おばあちゃんの家でひと夏を過ごしている生活が、
とてもリアルに、そこから伝わってくるでありますよ。
そしてその従姉弟たちが、黒澤監督によって、とてもとて~も
大切に撮られているっていうのが、スクリーンを通して
よ~く伝わってくるですだ。
その暖かさが、この作品の一つのメッセージでもあるのかな~、
なんてこの作品を見直してみて、そう思いましたですばい。

この素晴らしい作品を作りあげた人達の一人としてクレジットされている
彼の名前をエンドロールで見たとき、
なんかものすごく感動したとです。
コメント (5)
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