トラフトンボ 生態写真集(2012~22) 編集2025.3
トラフトンボの一番の魅力は卵塊造りであるが、多産地でも条件が揃わないと簡単に目撃、撮影とはいかない
以前の安定した生息地で個体数が減少、新たな撮影地の探索も難渋しており 一旦過去の記録を振り返ってみる
房総のかつての有名生息地
残された海跡湖が点在する房総の沼 かつて関東有数のトラフトンボ生息地として知られ、行けば必ず見られた
しかし、2010年代半ばからの太陽光パネル設置工事の進行に伴って、沼周辺の環境が年々変化していった
17年を最後に行っていないが、水質悪化、植生への影響も著しく、すでに絶滅していると考えられる
唯一撮影の静止の交尾態
トラフトンボの静止の交尾態を撮るために何年も通ったが、撮影できたのは14年5月の当地の一度のみである
交尾態は、林や草原での交尾後、産卵のため池に飛来した時に見るのが通常であり、静止の目撃は滅多にない
池端の草間に潜んでいたと思われる♀を探雌の♂が捕え、上空に飛ばずに近くの地上2m位の笹藪に着地した
静止した交尾態 14時40分頃から約20分静止して林に向かった
2014.5.2 千葉県
2013年5月 卵塊形成の当たり日
5月上旬、当地において初めて卵塊形成に遭遇 この日は当たり日で約2時間で4♀を目撃し3♀を撮影した
朝の気温が低く生殖活動が後倒しになったが、20℃に到達した10時半頃から交尾態が続々と飛来した
林から飛来して産卵場所を探し池を飛び回る交尾態 これを見ないことには始まらない
11時26分、4対目の交尾態が岸辺に接近して交尾、連結を解いて池中の枯れ茎に静止 卵塊形成を始めた
静止して50秒後 翅の前縁の条が薄い個体
2分20秒後 腹端を反らせ始める
3分20秒後
4分後 飛立ち 打水は草陰に入って撮影ならず
11時40分頃 続いて2番目の♀が池端の草叢に着地して卵塊形成
20秒で池側に移動 風に煽られる
卵塊の大きさは限界 目掻きして飛立ち直前
12時30分頃 3頭目は翅前縁の黒帯が目立つ個体 打水して池中の草に止まった直後で水滴が付着している
約1分後に不安定な草から池端の枯れ茎に移動
40秒後、さらに樹木に移動 遠くに飛ぶことはまずない 最初の静止からは2分30秒後
最初の静止から3分40秒後 飛立ち直前
2013.5.4 千葉県
14年5月 減少気味でもそれなりに
5月上旬、前年より気温が高く22℃の好天であったが、縄張りの♂は半減 それでも交尾態6対が飛来した
卵塊形成は午前3♀、午後1♀を目撃 3、4頭目は場所が悪過ぎた その後、冒頭の交尾態を撮影している
9時50分頃 最初の♀の卵塊形成
10時頃 2番目は交尾解除後、即時に連結を解かず、珍しく連結態で10秒程池を飛び回った
産卵場所がすんなり決まらなかったようで、見上げる梢に止まって卵塊を形成した
2014.5.2 千葉県
15年から17年まで
15年はそこそこ交尾態は飛来したが、無斑♀狙いの採集者が増えて沼を占拠する状態で、撮影がままならず
15年の沼の植生の様子 交尾態の飛来と卵塊形成後に産卵場所を探して飛ぶ♀
2015.5.6 千葉県
16年になると個体数が激減 ソーラーパネル基地が拡大して、従来の待機水面にもいよいよ影響が及んできた
交尾態は飛来するものの、産卵せずに素通りしてしまう繰り返し 水草がかなり減っていた
17年は♂の飛来もなくなりノーシャッター これ以上行っても無駄と判断、当地での撮影を断念するに至った
以下は当地の♂の縄張り飛翔 ホバリング狙いで行き始めたが、岸近くはあまり飛ばず、撮りやすくはなかった
行き始めた頃は、メインの待機水面だけでなく周辺の沼でも普通に縄張り行動が見られた
2012.5.19 千葉県
2014.5.2 千葉県
曇天の日 当地で最後の撮影
2016.5.6 千葉県
岡山県央の自然公園
17年5月 岡山遠征初回
房総での撮影を諦めて急遽西へ トラフトンボの羽化観察会を開催していた岡山県央の自然公園に行ってみた
5月中旬、朝方の雨が止んで10時半頃に園内の随所で交尾態を目撃、想定どおり多産していることを確信した
しかし、ポイントが絞れず♂が多い池を選択して待機 午後に交尾態2対が飛来、辛うじて卵塊形成も撮影した
14時30分頃 連結解除の直後 打水して草に静止した♀と回りを飛ぶ♂
卵塊形成を開始して20秒後に樹上に飛んでしまう
15時30分頃 おそらく産卵時に藻に絡んで水没した♀
♂のホバリング ここでは岸近くを飛ぶので撮りやすい
方向転換
2017.5.13 岡山県
18年4月 岡山遠征2年目
4月下旬、前年と同じ池に行き、撮りやすそうな岸辺を探して待機 GWを避けたので、時期は2週間以上早い
午前は不活性でも午後は一変して交尾態が多数飛来 産卵集中日になり、過去最多の5♀の卵塊形成を目撃した
うち1♀は翅前縁の条が消失した無斑の個体である 午後の気温は前年と同じ22℃
無斑♀の産卵 <交尾態で飛来した無斑♀が卵塊形成して産卵するまでの記録>
12時2分 交尾態が飛来して10秒程飛び回る
産卵場所が決まって連結を解き、一度打水して静止した♀ 連結解除から10秒後
静止して1分10秒後
2分40秒後 翅前縁の条が完全に消失している
12時6分 3分50秒の卵塊形成後に飛立つ 改めて産卵場所を決めるまで55秒間飛び回った
打水して放卵した直後 ガマの繁みに入って5秒後に出てきた時は卵塊がなかった
1時間以上待って、13時15分頃にやっと次の交尾態が飛来したが、縄張りの♂に絡まれて池から出て行った
さらに20分経過、3対目の交尾態が池に入り、今度はあまり飛び回ることなく、目の前で交尾、連結を解いた
13時35分頃 連結を解いたシーン 後方が♀
静止1分後 卵を出し始めるまで時間を要し、♂がしばらく回りを飛んで警護していた
静止3分後 近くにいたのか♂が様子見に戻ってきて数秒間飛び回った
静止4分後 やはり卵塊形成の進行が遅い
これまで見たなかで最長の5分20秒の卵塊形成になった
産卵は14時からの30分間に集中 交尾態が飛び回り、交尾飛翔を撮っていると次が入ってくる状態になった
ただし、池を抜ける個体が多く、待機場所付近で連結を解いたのは4対、見える所で卵塊形成したのは2♀
14時頃 産卵に飛来した交尾態 産卵場所が気に入らないようで交尾を解かず池から出て行った
ホバリングする交尾態
14時30分頃 飛来時は見逃していた♀ 卵塊が限界になって飛立つ直前
15時を過ぎると交尾態の飛来が減少 15時10分頃 ふと見るとまだ若い♀が止まっていた
30秒後
2分30秒後 この♀は草の隙間から撮れたが、草が被ることも多い 撮影は静止場所次第である
4分後 卵塊が最大になり飛立ち10秒前 大概の♀の卵塊形成は4分前後
真下の水面に降りて1秒で放卵してから10秒程池を飛んで上空に消えた これも打水シーンが撮れず
15時40分頃 最後に目撃した交尾態の連結解除の瞬間 ♀は樹上に飛んで卵塊形成した
♂のホバリング
方向転換
2018.4.26 岡山県
19年と21年の様子
19年5月中旬に行くと、個体数が著しく減少 交尾態が飛来しても通過ばかりで卵塊形成どころではなかった
行く時期がやや遅れたが、植生に変化はなく、以前から気になっていた放たれた鯉が影響していると思われる
21年4月下旬は、広大な園内では見かけても、同ポイントでの目撃はゼロ 18年の盛況は幻となった
群馬県南東部の溜池
19年5月 偶然の遭遇
群馬県南東部の溜池で前年に多数羽化したという情報を得て、5月上旬に様子を見に行って卵塊造りに遭遇した
夏日で風が強く、♂のホバリングも殆ど見ることがなかったので、相当運に恵まれとしか言い様がない
12時25分頃 土手を歩いていて数m先の池端に止まった♀を確認 10秒程で移動してから1分後
最初の着地から2分50秒後
強風に煽られて向きを変えて20秒程で飛立った 翅がほぼ無斑の個体である
10時半からの1時間に時々姿を見せた♂ 岸辺から離れてホバリング 以後は現われず
2019.5.8 群馬県
21年に改めて羽化探しに何度か行ったが、羽化殻1個の目撃に終わり、生殖行動も見るこことはなかった
もともと生息数が少ないようで、以後、当地での探索は断念した 近隣に似たような池があるが未確認である
宮城県北東部の沼
21年5月 産卵ポイントが絞れず
21年は岡山も群馬も成果がなく、5月中旬を待って宮城県北東部に遠征した 従来は夏に行っていた沼である
驚くほど多くの♂が飛んでいてピークの様相であったが、交尾態が飛来すると♂に追い回されて逃げてしまう
まるでウチワヤンマの交尾飛翔を見ているようで、産卵ポイントが絞れず、卵塊形成を目撃しないまま終わった
14時頃 産卵場所を探してホバリングする交尾態 植生は良好
縄張り♂に絡まれて墜落、水没した交尾態 手前が♂
♂のホバリング
2021.5.20 宮城県
22年5月 前年同様の結末
5月下旬、前年と同じ沼を見に行くと、岸辺の形状が変化していて縄張りの♂が分散 待機場所が定まらない
交尾態は20対以上を目撃したものの、大半は高速で飛んで沼の外れの水性植物の群落に向かって消えてしまう
当地は、多産地であっても撮影の適地ではない典型的な場所といえる 遠方でもあり、再び行くか悩ましい
♂のホバリング
2022.5.24 宮城県