「考えてみると、僕たちは再会してから互いが持っていたものを何一つ捨てなかったようだね。」<o:p></o:p>
彼女の顔が素早く左右に揺れた。<o:p></o:p>
「ううん、私は捨てようと言ったわ。」<o:p></o:p>
彼女の否定に彼は寝そべったまま、困って窓に向かってうなずいた。<o:p></o:p>
「でもこうして時折会うのもいいわね。」<o:p></o:p>
彼女の妙な同意に彼はその場から起き上がりうなずいた。脱いだズボンのポケットで彼の携帯電話が激しく振動した。携帯電話は振動を止めないまま、再び彼のポケットへ入って行った。<o:p></o:p>
「電話に出て。」<o:p></o:p>
「出なくてもいい電話だ。」<o:p></o:p>
「出てよ! 私に気を遣うふりして電話に出ないのは嫌よ。」<o:p></o:p>
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「今度の大統領は誰がなるのかな?」<o:p></o:p>
「誰がなっても関係ないじゃない!」<o:p></o:p>
彼女が付け加えた。<o:p></o:p>
「そうじゃない?」<o:p></o:p>
また始まった大統領選挙が終盤に突入していた。本格的に冬になって彼と彼女は栗の木の村のバンガローと行きつけのモーテルを整理して、新しいモーテルを捜して遊牧民のように転々としていた。二人の心の底で何回か激しい波が過ぎた後から、逢引もかえって穏やかになり回数も増えた。モーテルが互いに違う名前を持っているように、詳しく見ると窓の外の違う風景、違うベッド、違う鏡と違う愛の道具があるということが分かったのだ。<o:p></o:p>
「気持ちがもう大統領選挙から遠くなったのだろう。」<o:p></o:p>
「皮肉るの?」<o:p></o:p>
ウォーターベッドに横たわった彼女が抗議するように、足指を蟹の鋏にして彼の股間をつまんでひねった。<o:p></o:p>
「いや、僕も政治には興味ないよ。彼らが本当は僕たちの生活に関心がないように。」<o:p></o:p>
彼は彼女の足指に挟まれて全く動かせないモノを救出すると、彼女の体に飛びついた。全国の大都市を巡回しながら遊説をする大統領候補と支持者が張り上げる歓声が後ろの大型ワイドビジョンを通して流れ出た。彼と彼女はその歓声を背景にもつれ合った。彼女はリモコンを手に持ったまま愛を交わした。保守と中道、進歩の歓声が交互に流れ出て、いつの間にか画面はエロ映画に戻って二人の裸を赤く染めた。そのあえぎ声が過ぎ去る前にプリミアリーグの中継放送が部屋を一杯にした。<o:p></o:p>
「幸せ!」<o:p></o:p>
彼女の共感覚的視聴感想だった。彼は10年前の大統領選挙の時の彼女が吐き捨てた言葉をはっきりと覚えていた。その時から今まで世の中も変わり、彼と彼女も大きく変わった。<o:p></o:p>
「不安」から奇妙な「幸福」に移ってくる間のことだった。彼は彼女が浴室でシャワーを浴びる間「幸福」の周辺を注意深く見まわした。ホテルではないけれど、ウォーターベッドは広く快適だった。枕と布団には以前のように他人の髪の毛も陰毛も付いていなかった。窓の外には別の建物の暗く汚い裏側が見えず、美しい秋の山がひときわ高くそびえていた。彼は煙草をくわえてしばらく詳しく調べた。彼女と彼が脱いだ服はそれなりに無難で品が良かった。そしてとうとうシャワーを終えた彼女が白いタオルで肝心な所を覆ったまま現れた。彼女は躊躇せず彼の胸に抱かれた。<o:p></o:p>
「幸福。」<o:p></o:p>
「僕も。」<o:p></o:p>
彼は耳打ちをした彼女に腕枕をしてやりテレビの大統領選挙関連番組を視聴した。<o:p></o:p>