自伝小説3<o:p></o:p>
―離別前後の事の再認識―<o:p></o:p>
出版:図書出版<o:p></o:p>
出版年:2010年11月11日<o:p></o:p>
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タイトル: ミズダコに尋ねてみて<o:p></o:p>
著者: ハム・チョンイム<o:p></o:p>
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経歴: <o:p></o:p>
1964年に全北の金堤に生まれる。1990年東亜日報新春文に短編「広場へ行く道」が当選し、文壇にデビュー。小説集「話、落ちた仮面」「バス、過ぎていく」「君の心の青い目」「同行」「幻影」、長編小説「幸福」「春夏秋冬」がある。」<o:p></o:p>
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作家を語る:<o:p></o:p>
彼女の小説を読んでいるとよく読んでいた場面から2,3ページ前に戻ったりする。私が読んできたものがレモンの新しい味なのか、カリンの香りなのか、柘榴の赤い中身なのか、しばらく混沌に陥るからだ。それでやはり1文か2文を見落として来たことはないか、再確認するのだ。しかし、もう一度戻ってみても飛ばした文はない。どうなっているのか。鬼神に押し流したのか。かくれんぼをしているのか。彼女の小説の行間にかくれんぼするたびに主人公の行為に対する私の読み方がどんなに安易に固まっているかを自覚する。<o:p></o:p>
(パク・サンスン 詩人)<o:p></o:p>
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私は1時間ミズダコをどうやって料理するか考えていた。屋根から戦車(タンク)が通過していく音がした。再び耳を傾けてみると今度は雹が落ちる音がした。私は3年5か月の間10階アパートの10階に住んでいる。10階アパートは建ててから10年は超えていた。タンクが通過する音が本当に屋根からするのかはっきりしなかった。しかし10階アパートの10階に住んでいる私としては屋根でする音としか外に考えられなかった。臭いもそうだし、風がふいてもタンクが通過する音も霙が落ちる音も下の階から上がってくるはずがないのだった。それで観察するとタンクが通過する音の中に霙が落ちる音が昨日もした。いや、私がトランクを引っ張って家に入った一昨日の午後にも何か音が聞こえた。トランクの車輪の音か?私はトランクの取っ手を放して、しばらくトランクの横にたたずんでいた。トランクの車輪がくるくる回っていなくても音が続いた。8本のミズダコの足の中で2本がまな板の上に上がっていた。私はミズダコがどうして丸ごと冷蔵庫に入っていたのか理由を突き止めようとしたが、その場ではわからなかった。タンクの通過する音なのかトランクの車輪がくるくる回る音なのか見極めてから、台所に行って冷蔵庫のドアを開けると、がらんと空いた棚の上に巨大なミズダコのかたまりが置いてあった。臭いを嗅いでみると、新鮮度はそれほど落ちていなかった。私が家を空けたこの週日の間、それも最近数日の間誰かがここでミズダコ料理をしようとしたのは間違いなかった。ミズダコ料理に没頭していたときフアンが私の横に来た。少し前まで霙が落ちる音に混じっていびきをかく音を聞いたようだった。フアンの白く透明で肌がベランダの窓に映し出された直射光線に反射して私の目の端に当った。フアンはいつものように裸になっていた。ミズダコの体から多量の粘液質がしみ出して来ていた。私はミズダコの足を右の2番目の指でギュッと押した。感触が冷たくつるっとしてねばついた。大丈夫?フアンが親友がするように、右腕で私の体を包みながら尋ねた。私は返事の代わりに鼻声を出してもう一度指でミズダコの足をギュッと押した。フアンはいつものように怖気づいたような目つきで、その場ですぐ私の指が突き刺していた部分を見下した。大丈夫?私もフアンが見下している部分から目を外さず、鼻声でもう一度聞き直した。大丈夫よ、うん?フアンは私が遠く離れていて戻ってきたときは完全に別の人になって戻ったのではないかと確認したりした。私の骨盤に触れたフアンの骨盤の骨が鉄のように硬かった。フアンが私を抱く腕に力をぐいとこめた。フアンの男性に力が入ってきて槍のように鋭く前にぐいっと伸びた。ミズダコを見下していたフアンと私は同時にそのモノに目を向けた。そのモノはフアンの体の一部であっても、それと関係なく独立したように見えた。フアンがそんな奇怪なモノをもっていると考えると、突然尊敬する気持ちが湧いた。フアンは自分自身の独立したモノから目を逸らすことができず、愉快そうだが気まずい表情をした。私を意識しているのかフアンの独立したモノは、盛装の帯の一巻きのようにしわを最大に垂らし、くねくね動いた。私は直ちに包丁を探した。ミズダコをこれ以上そのまま放っておくことはできなかった。私が包丁を置く所は大体2か所、食器乾燥台でなければ、洗い場の包丁差しだった。食器台にない事から見て、包丁は洗い場の包丁差しに差してあることははっきりした。痛くないの、うん?フアンが私に尋ねるまで、私はずいぶん前から痛いということを少し忘れていた。それで見るとひどく痛いはずだわ!私があなたになってみれば、私をもっとよく理解することもできるだろう。うん。フアンは自分自身の独立したモノが洗い場に触れないように注意しながら、おとなしく私の言葉に耳を傾けた。洗い場の蓋を開けて包丁差しから包丁を抜こうとすれば、私の腕に巻きついたフアンの手をほどいて、フアンを少し後ろに退かせなければならなかった。フアンはかなり2つの腕を後ろに外した。フアンはかなり身震いしているようだった。包丁立てにも包丁は見えなかった。私は切ることができず、体の外に粘液質を押し出しているミズダコを眺めながら、どう料理するかもう少し考えようと思った。その時玄関のベルが鳴った。子供はベルを押して正確に5秒が過ぎると玄関ドアを足でどんどん蹴った。<o:p></o:p>
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