![](/.shared-blogzine/decokiji/deco1202_sweetpea/header.gif)
著者 アブドゥレヒム・オトキュル
著者略歴
1923年に新疆のクムルに生まれ、1995年に死亡。新疆学院(現・新疆大学)卒業。教師、小説家、詩人、ウィグル古典文学研究家。文化大革命の時代は家具工場に下放され、文化大革命後に新疆社会科学院の副院長になる。
1985年にウィグル語による歴史小説「足跡」を発表、大ベストセラーになり、続編「目覚めた大地第一部」「目覚めた大地第二部」が出版される。
2002年著書は中国当局により「危険とみなされる書物」として発禁処分に遭う。
出版年 1985年
邦訳出版年 2009年
邦訳出版社 (有)まどか出版
訳者 東綾子
感想
本書は「足跡」の邦訳である。本書の主人公ティムル・カリフは、実在のウィグルの英雄。新疆の東に位置するクムルがティムル・カリフの故郷である。18世紀に新疆を征服した清は間接統治を敷き、クムル王家にクムルの統治を委ねていた。清が辛亥革命で倒れ中華民国が生まれた時期に、孫文の思想に共鳴したティムル・カリフも蜂起した。しかし、袁世凱が大総統になり、新疆でのクムル王家の支配を認めた。袁世凱はティムル・カリフにさまざまな懐柔策を使い、ついに武器を捨てウルムチに来させることに成功した。騙されたことに気づいたティムル・カリフはウルムチから脱出しようとして捕まり処刑された。
こうしたティムル・カリフの生涯が平家物語のような語り口で綴られていく。ティムル・カリフの周りの人々も個性的で、新疆の風土がわかるエピソードに満ちている。導入は、熊に襲われたカザフの乙女をウィグルの若者が助ける話だ。またクルム王家の圧制が「鉄の放牧」という言葉に凝縮されている。王家の所有する家畜の数を一年に一回勘定する日に、雌の家畜が子供を一匹産んで増えていなければならない。その数も含めた総数が減っている場合は損害賠償金を払わせられる。払えない場合は家を失い、奴隷になる。
最後はティムル・カリフが賢いといっても、素朴な山の民なので、悪辣な袁世凱にとてもかなわない。
ティムル・カリフの墓碑として著者は本書を記したが、ウィグルの人々が読むことを禁じられているというのは、かえすがえすも残念なことである。