読書感想324 魔の山
著者 : ジェフリー・ディーヴァー
生年 : 1950年
出身地 : アメリカ、シカゴ
出版年 : 2020年
邦訳出版社 : (株)文藝春秋
邦訳出版年 : 2021年
訳者 : 池田真紀子
☆☆感想☆☆☆
本書は「懸賞金ハンター」コルター・ショウを主人公とするシリーズの第二弾。この「懸賞金ハンター」は、いわゆる「賞金稼ぎ」が逃走中の犯罪者を捕まえて成功報酬を得るのを生業とするのに対して、事件性と関係なく行方不明者を探し出すこと。報酬は行方不明者の家族や当局が出す懸賞金。ワシントン州の黒人教会やシナゴーグで立て続けに起きたヘイトクライム(ナチスの鉤十字などの落書き)や放火、発砲事件の容疑者の若者二人を探すのが今回の仕事。事件を調べるうちに、若者二人はヘイトクライムとは無関係で、発砲事件も先に教会関係者が発砲したのを受けて発砲したことが分かってくる。そして二人を探し出したところ、逃げられないと思った一人が崖から飛び降りて自殺した。ほとんど微罪で終わる事件なのになぜ自殺したのか。二人が待っていた迎えの自動車は近くの「オシリス財団」というカルトグループのものだった。自殺した若者はそこで研修を受けていた。ショウは自殺の原因を突き止めこれ以上の犠牲を出さないために山の中にあるカルト施設への潜入しようとする。
カルトについて、カルト専門家とショウとの会話で説明されている。
「カルトとは、そのメンバーや外部の人々に身体的・精神的な損害が及ぶ危険性をはらんだ集団、とでも言うかしら。
この基準は、マーガレット・シンガーの『ひとごとではないカルト』から借りたもの。この本によればカルトの条件は六つ。信者の生活環境を支配すること、報酬と罰の制度をもつこと、信者に無力感を抱かせること、恐怖を支配の手段とすること、指導者や集団に依存させること、信者の行動の矯正を目的に掲げていること。
共通の要素はまだあるわ。ほぼすべてのカルトは、一人の支配的な指導者が率いている。彼はー指導者はたいてい男性よー強烈な自尊心の持ち主で、敵を攻撃し、怒りを周囲にぶつけ、自分は正しいと信じて疑わず、助言や批判には耳を貸さず、猜疑心が異様に強く、崇拝と賛美を求める。」
カルトのカテゴリーについては次のように説明している。
「大多数は宗教に分類できる。一般的な宗教から派生したセクトだったり、まったくのでっち上げだったり。政治的カルトもある。匿名掲示板サイトやインターネットの普及で生まれたものね。あとはビジネス系のカルト。『簡単に儲ける方法を教えます』の類。そして、いまから挙げるのは本当に有害なタイプよ。KKKやアーリア民族軍のような人種差別集団。戦闘的分離主義、白人至上主義、精神を病んだ人物が率いるカルトーマンソン・ファミリーが代表例ね。黒魔術、悪魔崇拝、動物や人間の生け贄。想像を超えるようなカルトがたくさんあるのよ」
カルト的な犯罪者を扱ったディーヴァーの作品は今までにも数冊読んだ記憶がある。カルトは犯罪組織なので利己的で卑小な詐欺師集団として描かれている。鬱病やら認知症やらで苦しんでいる人がわらにもすがる思いでカルト集団に入り、そこで食い物にされていく。ひどい話だし、日本でも今ではカルトについての理解が一般的に広がってきているが、まだまだ足りない。