ーーこの翻訳は「不便なコンビニ」の一部を紹介するものです。勉強と趣味を兼ねています。営利目的はありませんーー
著者 : キム・ホヨン
不便なコンビニ(キム・ホヨン短編集)
山海珍味弁当4
そして90度に体を曲げて挨拶してからコンビニに背を向けた。
ヨム女史は退社する会社員のようにソウル駅方面に歩いていく男の後姿を眺めてからコンビニに戻ってきた。彼女が戻ってくるはシヒョンが好奇心にあふれた目でいろいろ訊ねはじめた。ヨム女史はポーチを失くしてしまったことに気づいた汽車の中の状態から今までのことを打ち明けた。そんなヨム女史の話にシヒョンは不思議さと心配が半々混じったあら、まあ、相槌をしきりに爆発させた。
「おもしろい人ね。常識があって、ホームレスとは信じられないね。」
「私が見るとまさにホームレスなんで・・・財布に万一なくなったものがあるかもしれません。」
ヨム女史がポーチを開けて調べた。すべてのものがそのままだ。シヒョンに向かってこれを見ろというように笑っていたヨム女史が、ふと財布から身分証を取り出してみた。
「違って見える?」
「全く同じなんですが?白髪ちょっと抜いたりするかどうかで年取って見えません。」
ヨム女史は直接住民登録証の証明写真を詳しく調べてみた。確かに証明写真と今の自分はかなり違って見えた。
「悔しいけれどあの人の言葉が正しいね。」
「はい?」
「常識がある。シヒョンがホームレスの男は配慮があるって。」
ヨム女史は、シヒョンにあの図体の大きいホームレスの男がきたら、弁当をやりなさいと言ってからアルバイト全員に伝えるように指示した。シヒョンは不満な表情をして見せながらも、コンビニのグループラインにヨム女史の指示事項を上げ始めた。ヨム女史は満足した表情でコンビニを振り返って見た。そうしてたちまち意気消沈した。ホームレスの男が弁当を食べている間に来ていったお客をほとんど覚えていなかった。本当に痴呆かもしれないという心配に唾が一層苦く感じられた。それでも善行を受けて、施した。この程度であればいい一日だと思うことにした
「ところで釜山にいらっしゃらないのですか?」
「まあ、うっかりして、」
まだ一日は終わらなかった。遅くても今日の晩までには釜山に到着しなければならなかった。従姉の葬式があって、行ったついでに、数日釜山で過ごす計画だった。
ヨム女史はポーチを鞄にきちんと入れて再びソウル駅に向かった。
釜山で五日間用事を処理して戻ってきたヨム女史がコンビニに立ち寄った。彼女が戻った時にシヒョンが男女のカップルのお客の飲料の計算をしながら、目で挨拶した。そしてカップルのお客が出て行くやレジを出て彼女のほうに近づいて来た。お元気でしたかという挨拶とコンビニでの変わったことがなかったかという問答が行き来して、シヒョン待っていたようにヨム女史の横に来て言った。
「社長さん、あの人毎日一日も欠かさず来ま
した。」
「誰の事なの・・・あっ、ホームレスの男?」
「はい。毎日私の時間に来て弁当一つわき目もふらず食べて行きました。」
「別のアルバイトの時間には来なかったの?」
「ええ、私の時間だけ来ていたんです。」
「じゃ、あの人があなたを好きなんじゃない?」
ヨム女史の意地悪な冗談にシヒョンがうんざりした表情をして横目でにらんだ。ヨム女史は笑いながら冗談だという言葉でシヒョンのすねた態度を受け入れた。
「ところで社長さん、考えてみると私の時間だけ来るのが、夕方8時廃棄時間に合わせて来るんですよ。」
「何?新しいものあげてと言ったじゃない?」
「言いましたよ。でも新しいものを差し上げると言っても、すぐに駄目になると廃棄弁当を食べると意地を張るんです。」
「それでも私が新しいものをあげると言ったから・・・誠意がなくなるじゃない。」
「社長さん、それが簡単じゃないんですよ。あの人ぶつぶつ言ってカウンターの前でずっと言い張ればですよ、まず臭いです。コンビニに大きいうんこが一つ置いてあるありさまです。そのうえあの人がカウンターにいるのを見て入ってきていたお客が出て行ったこともあります。どうしますか?早くどけようとすればあの人が望むようにしてやって出て行かせる方法しかなかったんです。さらに出て行かせて換気もさせなければなりません。」
「分かりました。」
「私が見て決めたことなんですよ。どうして鬼神のように分かったのか、弁当廃棄時間にぴたっと合わせて来たのですよ。」
「・・・筋が通っている。やはり。」
「昨日はちょっと遅いのでどこか悪いのか心配したんですよ。」
シヒョンが舌で唇を舐めながら本当に心配している姿を見せるとヨム女史は作り笑いをした。背だけ大きくがりがりに痩せた体に心までもろいシヒョンを見る度に、ヨム女史は風にぼんやり揺れる店の広告風船人形が浮かんだりした。
「シヒョンあんたそんなに善良でどうしてどう生きるつもりなの。」
「社長さんこそホームレスに弁当を毎日やろうとする純真な考えを持っていらっしゃるとは・・・あの人がだしぬけにホームレス仲間まで連れてきたら、どうするつもりですか。」
シヒョンが言い返す。勿論風船人形も弾力がある。
「そんな人ではなかったよ。」
「まあ、どうしてそれがわかりますか?」
「私は人を見る目がある。だからあんたも雇ったじゃないの。」
「やはり素晴らしい。」
存在しない末娘のようなシヒョンとのやり取りはいつも楽しい。ヨム女史は早くシヒョンが公務員試験に合格して堂々とここを離れることを望みながらも半面では、コンビニを去る彼女を考えるとむしろ名残惜しさが増した。
ちりん、鈴の音と一緒にお客が入ってきてシヒョンが挨拶ととともにカウンターに戻って行った。ヨム女史はコンビニを振り返り、残った弁当を調べた。遅かれ早かれ弁当廃棄時間に一度来てみることにした。名前もわからないホームレスの男の名前を訊ねるために。