著者 タマル・ベルグマン
誕生年 1939年
出生地 イスラエルのテルアヴィヴ
出版年 1986年
邦訳出版年 1998年
出版社 未知谷
☆☆感想☆☆
第2次世界大戦が終わって、イスラエルのキブツ(集団農場)にヨーロッパのユダヤ人旅団(イギリス軍の一部として戦ったパレスチナのユダヤ人部隊)から戻ってきたミーシャは、一人の男の子を連れてきた。男の子はミーシャの甥で、難民収容所でミーシャが見つけた。母親は重体で病院で亡くなったと聞いていたけれど、男の子は信じなかった。戦争中、男の子と母親は農家の地下室に身を隠して暮らしていた。そして、彼ら2人を発見し、男の子を難民収容所に母親を病院に連れて行ったユダヤ人兵士に会って確かめなければと、その兵士からもらったダビデの星をつるしたネックレスを肌身はなさず、男の子は持ち歩いている。男の子はヘブライ語が話せずイーディシュ語の話せるミーシャから片時も離れなかった。キブツでは子供たちは子供の家で集団生活をしている。男の子も同じ年の小学校2年生の子供たちと一緒の部屋で寝食を共にするようになった。ミーシャの息子ラミはお父さんを独占したいのに、いつもいとこのアヴレメレがそばを離れないので、アヴレメレを目の敵にしている。アヴレメレに同情しているのは同じ年のリナ。リナもヨーロッパでお父さんが戦死したと言われても、帰ってくると信じている。
それから3年、イスラエルの建国とアラブとの戦争が始まって、キブツの子供たちも巻き込まれていく。
想像を絶する経験をしてきたアヴレメレに対してキブツの人々は優しいが、幼い子供には理解を超えるアヴレメレの奇行や行動がある。だからこそ反目や喧嘩も起きる。そしてイスラエル人としてのアヴレメレのアイディンティの確立が、アラブとの戦争、イスラエルの建国の過程と軌を一にしている。ヨーロッパで排除される対象だった自分たちが、アラブという他者を排除する側に立つことでアイディンティを確立していくのかと、今日に続く中東の不幸に思いを致さざるをえない。
子供の視点から描かれているので、牧歌的なキブツの生活が魅力的だ。