『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳   朴ワンソの「裸木」43

2013-10-22 21:28:50 | 翻訳

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翻訳   朴ワンソの「裸木」43<o:p></o:p>

 

1351行目~137頁最終行<o:p></o:p>

 

「お母さんはまだ肉体的にはかくしゃくとして…」<o:p></o:p>

 

 彼はいきなりかくしゃくとしているのを肉体に限定したので、私はそれを聞いてとても気に食わなかった。<o:p></o:p>

 

「とにかく自分の身の回りを自分で見るだけで、食生活は相変わらず伯父さんが面倒を見るはずだから。さっきも話したけれど、伯父さんは金持ちだし、そして僕が少しけなしたりしたけれど、良い人だよ。親戚の間で義理を守ることをとても誇りにしているから。言わば旧時代を代表する好人物さ。その好人物に期待するんだ。お母さんもお前も一度期待してみたら。分かるかな? その気になった時に釜山へ来なさい。勉強も続けられるはずだし、お前の年に合った相応の生活ができるはずだから。とにかくそこではもう少し明るい生活を取り戻すことができるだろう」<o:p></o:p>

 

 彼は、〈明るい〉をどうしてそんなに豊かな感情で、蠱惑的に発音するのか、私は即座に胸がわくわくしてきた。輝きと喜びがある生活への渇望が激しく頭をもたげた。<o:p></o:p>

 

 下座に及び腰で堅苦しく座ってうとうとしていた下士が、いつの間にか姿勢を崩してはばかることなく鼻でいびきをかいた。両手両足をゆったりと垂らして、見るからに心地よい深い眠りに落ちていた。<o:p></o:p>

 

 チンイ兄さんの口の端に初めて微笑らしい微笑が浮かんだ。<o:p></o:p>

 

「こいつ、すっかり疲れたみたいだ」<o:p></o:p>

 

 私は床に置いてある彼のライターを摘まんで親指が痛いほど火を点けたり消したりする、ふざけた悪戯を繰り返しながら、そわそわした気分を紛らわしていた。彼は自分の言葉の効果に十分な自信をもって、悠々と私を観察しているのに対して、私は尋常な顔で張り合った。<o:p></o:p>

 

 しかし私はひどく引き裂かれていた。新しく明るい生活への憧れと、今この状態から少しも退けないだろうという宿命の間で、苦しく引き裂かれていた。また、私はこの引き裂かれること、この痛みが全く無意味だということがわかっていた。この痛みを通して私が少しでも新しくなるわけがないからだ。<o:p></o:p>

 

 誰が何と言っても絶対に私はこのままのはずがないのだ。戦々恐々戦争を待ちながら、一日一回片側が落ちた黒い屋根を敬虔に仰ぎ見ながら、母を憎んでキムチ汁を食べなければならないことから、決して私はこのままのはずがないのだ。<o:p></o:p>

 

 私は今更のように自分を幾重にも束縛する鎖を感じた。その鎖の始めが気がかりだった。私は時々その鎖の始めへの遡及を試みかけて、こっけいにも挫折してしまったが、チンイ兄さんの助けがあれば、ひょっとすると私はたやすくその始めが見られるだろう。しかし、私は怖かった。その始めを見ることが。私はその始めを決して忘却したのではなく、巧妙に避けているだけなのだ。<o:p></o:p>

 

「明日あさって僕と一緒に行こう」<o:p></o:p>

 

 彼は尋常にしかし自信があって言った。<o:p></o:p>

 

「ひょっとするとお母さんの介抱の最後になるだろう。金下士の妹さんが真面目なので、僕が頼んだから十中八九確かだよ」<o:p></o:p>

 

 彼は下座の下士を顎で指した。そうしては自分の仕事はもう完全に終わったというように、薄い唇を内側に固く結んで、彼独特の他人に対する関心を出し渋る、極度に利己的な目付きに戻った。<o:p></o:p>

 

 私はライターで手慰みを続けていた。何度消したり点けたりを繰り返したか、もうなかなか火が点かなくなって、火花だけが何回も散った。私はライターを彼の前に置いて、赤く腫れたように手の親指の指紋にふうふうと息をかけながら、<o:p></o:p>

 

「行きません」<o:p></o:p>

 

 何の躊躇もなくきっぱりと言った。彼は別に驚かず、そうかと別な言葉をかけようともしなかった。時計を見ると、<o:p></o:p>

 

「金下士を起こせ」<o:p></o:p>

 

 彼が少し他人に関心を持った一時間はとうに過ぎたようだ。<o:p></o:p>

 

 金下士は猛烈にいびきをかいていた。ひざまずいていた膝は完全に伸びて、大きな足の裏が気兼ねなく、彼の傲慢な上官に向いていた。背負って行ってもわからないような、深い熟睡におちている彼が、私には何故かこの大きな家の中の唯一生きている人のように感じられた。<o:p></o:p>

 

「少しだけ寝かせてやって。用事がなければ」<o:p></o:p>

 

「そうだな…」<o:p></o:p>

 

 彼は手持無沙汰に欠伸をして、また煙草を取り出した。三本目だった。私はマッチの火を擦った。強く見えても女のように肌が繊細な指の間から、もくもく煙を吐きだす煙草が目を楽しませる。<o:p></o:p>

 

「お兄さんも戦争を、死んで殺してという本物の戦争をしますか?」<o:p></o:p>

 

 私は皮肉な調子で言った。<o:p></o:p>

 

「勿論、今は後方勤務だけれど」<o:p></o:p>

 

「人も殺して銃も撃って…」<o:p></o:p>

 

 私はもっと露骨に皮肉った。<o:p></o:p>

 

「僕は武勇談は苦手だ」<o:p></o:p>

 

 彼は冷たく私のからかいを拒んだ。私はさらに食い下がった。<o:p></o:p>

 

「でも625の時や一事後退の時は逃亡もしたんでしょう? 作戦上後退と言いながら…ふふ…お兄さんが逃亡する姿なんて想像もできません」<o:p></o:p>

 

 私はどうしても彼の傲慢さを侮蔑でもってすりつぶしたかった。<o:p></o:p>

 

「じゃ、君、敵陣へ入って数十名の首を切るという想像はどうだい? 無理だけれど、僕は新羅の花郎でも李朝時代の義兵でもない」<o:p></o:p>

 

 彼は巧妙に鮮明に私の侮蔑を避けた。話題が断たれた。私達二人は一様に息を殺した。広々とした古家を完全に占領した静寂を聞いていた。<o:p></o:p>

 

 金下士は相変わらず傍若無人にいびきをかいていても、私達はちょうど同じように彼のいびきの音を聴覚から追い出して、もっぱら外の静寂にだけ耳を傾けた。時折みすぼらしい古家に風が通り過ぎる音がしないこともなかったが、正確に言えば、私達は人の気配を探していた。<o:p></o:p>

 

 人がまるで生きていないような、生きたこともなかったような、その空虚な静寂はお化けが現れ、どんなに彼の鋭敏な鼻をひくひくさせても、人の臭いが嗅げないようだった。久しい廃墟の静寂のような静けさが、しばらく続いた。ついに耐えられなくなったのはチンイ兄さんの方だった。<o:p></o:p>

 

「僕の言うとおりにするだろう。お前まで気が狂いたいのか?」

               ― 続 -

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