放浪、徘徊の日々 行けるところはどこへでも
その彼、Nさん、戦前からひどい差別に会っていたようだった。中学時代には「朝鮮人、出て行けと何度も家に石を投げられた」といっていたが、彼は若い時の勉学と「旅歩き、無銭旅行」でかえって大きな人格を築いていった。
今、ともすれば韓国や中国に嫌悪、不信の目を向ける風潮があるが、市井にあっての1人ひとりは素朴で人情もあつく、国が違うから警戒するなんていうことは何も無いと私は思っている。
以下、私の勉強会に来て話してくれたNさんのお話である。そのまま収録しているので一部をご紹介する。
若き日の無銭旅行
「 私は非常に放浪性の強い男で、若き日に無銭旅行は人一倍やらせていただきました。とてつもなく遠くへ行くことが好きでして、また理由がないとあんまり行かれないものですが、聞きかじった知識でも、“奥の細道”という話を聞くと東北の細道を辿り、啄木の短歌に触れると、岩手路の啄木の跡を辿るといった具合でした。10代から20代にかけて、あれこれ各地を死に物狂い(笑)で歩いた過去がございます。その後は、日本だけにとどまらず、海外でも行けるところはどこへでも行きたいという願望が常にありました。」
・・・放浪性というよりも、好奇心が旺盛なんですね、歴史や風土に惹かれたんでしょう?
「人と話すのが好きでしたね。 山梨県に恵林寺というお寺があります。ここは武田信玄公の菩提所でして、当時(昭和25年頃)は学童疎開の跡のまるでひどい廃屋でした。そこで和尚に可愛がられてかなり長い間、起居を共にする機会がございました。そこを起点にして三ツ峠とか、高い山を散策しました。近辺の山々を毎日のように徘徊して、青春のたぎる思いを山にぶつけていたわけです。」
・・・アルバイトをしながら?
「当時はもの不足でした。運搬は人力でした、重い荷物を運ぶ強力(ごうりき)をさせていただきました。荷物を背負えるだけ背負って、山の一合目、二合目、三合目と上りました。馬や牛に代わる仕事です。今のように素晴らしい登山道が整備されておりませんので、山小屋まで死ぬ思いをしながら勤めさせていただきました。」
・・・そのお金を使って無銭旅行?
「それで得た僅かな金を使い、さらにアルプスに足を伸ばしました。それ以降、地の果てじゃないですが、西は日本の果ての九州の開門岳から韓国岳にも登りました。日本の山々を無銭旅行で歩いたことが私の自慢のひとつでございます。」
・・・お金を稼ぐ苦労話を
「行く先々で盗みをするわけにはいきません、お金を稼がなければなりません。無銭旅行というやつは、今になってみますと、自分の自己形成にこれほど強い力になったことはございません。当時は食糧が不足でいつも空腹です。例えば、汽車に乗ると前に座った人の弁当をどうやって分けていただこうかという考えになります。知恵を絞ります。弁当といっても駅弁ではなく農家が作ったおむすびです。これをなんとかかんとか言いながら、一つちょうだいしてしちゃうんですね。」
・・・10代の終りくらいですか?
「まあ、そのころです。適当な駅で下車して・・いろんな経験がありますけれど・・山に近いを目指し、一夜の宿を得るべく、“お邪魔します”と、一軒の農家へ入って、お話をしながら、必ず先に草刈りを手伝う、その辺の散らばっているものを片付けます。農家の人は“どこから来たの。へえ、東京!!”と目を丸くして、直ぐにお茶やお菓子を出してくれます。手を動かし続けることで、まず信頼感を得まして、その農家に泊めていただくのです。お手伝いをさせていただいて、うまくすると次の日からの旅費をいただきました。」
・・・若い時はそれができるのですね
「まあ学生ですから、そういうことができたわけなんですが、そういうことをやっていく中で非常に素晴らしい友人に出会いました。今でもお付き合いしている方が何人かいらっしゃいます。」
・・・山が好きな人は多いのでしょうね?
「ええ、なぜですかね。まあ、そんなことで長じてからも各地に行かせていただいて、里山への思いがどんどん沸き。私は、この年になるまで、恐らくこれはという日本の山は歩いてきたと自負しております。」
・・・仕事にもいい影響が出たでしょう?
「仕事よりも山という習慣になって、ろくな仕事はできませんでしたが、それなりにビジネスも順調でした。海外へ出る放浪の機会もが多くございまして、台湾だとか韓国だとか中国だとか、それが昂じて結果的にヨーロッパとかアメリカなども高い山があれば登りたいという欲望にかられました。」
・・・それで時々、スイスアルプスのお話をよくされるのですね。
「失敗談のほうが印象に残ります。アルプスではもうたいへんでしたね。」
・・・どうも今日はありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
「次回は北朝鮮にタタミのワラの輸入で出かけたときのお話をしたいと思います。北朝鮮の農家を訪ねたときのお話です」
・・・ワラですか?そう言えば日本はコンバインでカットして田に戻しますのでタタミにワラは使いませんよね。よろしくお願いします。
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