僕たちは退屈なので
仲間が集まると新聞をよむ
四角くて大きな新聞紙のまわりを
楽しいゲームをするようにとりかこむ
それは本当に新聞だろうか
誰かがそれは新聞だと言った
だからそれは新聞なのだ
新聞の文字は小さくてかたい
新しいことは新しい文字が伝える
新しい国
新しい街
新しい顔
知らないことは新しい
水たまりのように
暗いニュースは跳び越える
きっと水たまりの中には死体がある
たくさんあるのを戦争という
数えられるのを殺人という
誰かがそういって解説するので
僕たちは熱心に
水たまりを探しはじめる
この新聞は古いと誰かが言う
古くても新しくても同じだと誰かが言う
変わるのは日付だけだと誰かが言う
日付だけを読む一日ははやい
新聞を読むのはあまり楽しくない
新聞を読んだらますます退屈になる
僕たちはもう遊ぶのも退屈だけど
鳥みたいに飛べないから
新聞紙で紙ヒコーキを折り
市役所の錆くさい非常階段を駆け上がる
風はくまなく街の屋根に吹いている
屋根は平和だから音もたてない
瓦の下には死体もないとおもう
誰かがひそかに隠しているとしても
そのていどなら戦争ではない
紙ヒコーキはゆうゆうと飛ぶ
腐った死体をいっぱい乗せて
ゆっくりと平和な屋根に落ちてゆく
そして僕たちは新聞のことを忘れる
(2004)