「うぉ~!これはこれは、我が経営学科の首席次席カップルではないか~!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/d2/8a43661e8d73763247996f10fc2eedec.jpg)
柳瀬健太は、そう言って雪と淳の座っているテーブルへと近寄ってきた。
彼の後ろには、ゾロゾロと見慣れた顔が並んでいる。
「よぉ淳!」「赤山ちゃ~ん!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/78/d057222a3cd4c16ea2cd32a591ab73f3.jpg)
突然の彼らの乱入に、雪は驚き淳は目を丸くする。
しかしそんな二人の様子など気にすることなく、
健太を始めとする経営学科の四年男達はワイワイと二人を取り囲んだ。
「こんばんは」「おお!俺らもここ座んぞ?」
「四年男子会ってか~」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/5e/c0a63a8ee12c96f8e15bd036260c7812.jpg)
結局彼らは雪と淳と同席することにして、席を作り始めた。
健太は「淳の送別会も兼ねてな!」と言うが、
雪は「青田先輩だけがインターンに行くわけでもないのに‥」と不服そうだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/3f/669f3d622936333cae2482d82c02b14d.jpg)
そんな中、淳はテキパキと動き既に健太達の席を作って用意していた。
そのスマートな振る舞いに、健太は終始ゴキゲンである。
「どうぞこちらへ」「オッケ~オッケ~!さすが青田だな!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/74/84ea5c47c3cf8c440c31ad210806b009.jpg)
そして何が何やら分からぬ内に、テーブルでは騒がしい宴会がスタートしていた。
雪と淳が頼んでいた酒に、遠慮なく健太や他の男達が手を伸ばす。
雪は彼らのその厚かましさに、言葉も出なかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/57/5cb1909e2daca894c74d84575a9e8883.jpg)
ワナワナしている雪だったが、健太はまるで構わずに彼女に向かって焼酎を差し出した。
「そういえば、赤山に祝杯の一杯もあげてなかったよな!ひとまず駆け付け一杯!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/43/b10fef09f649bbebb5f9dbec733b3d26.jpg)
カップル記念にかこつけて、健太は雪に酒をすすめた。突然差し出されたグラスに雪は戸惑ったが、
健太は先輩の権限を使って強要してくる。
「先輩の言うことがきけないか~?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/b0/db6921151750a31118da7ddcf4bd1947.jpg)
雪は遂にグラスを受け取ると、そのなみなみと注がれた焼酎を見て様々な心配事が浮かんでくるのを感じた。
このお酒強いんだよなぁ‥。先輩も飲んだら運転出来ないし、家も遠いし‥。
とにかくこの人達の前で醜態を晒すことだけは避けたい‥けど、ここで断ったら場がしらけちゃうし‥うう‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/c7/36f23b770e0d086b8f83da5164bd963b.jpg)
モヤモヤ考えていた雪だったが、次の瞬間その心配事も終わりとなった。
隣に座る淳が、雪の持っているグラスを取り上げたのだ。
「ちょうだい。雪は酒に弱いんです。俺が代わりに飲みますから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/4f/9b9f2c4176344c67aeb875f337e72d51.jpg)
淳はそう言って、グラスに入った焼酎を勢い良く飲み干した。
おおっ、と周りからはどよめきが起こる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/1d/1ac8784b20115d28bddd30c9a6d0c070.jpg)
雪は何も言えないまま、唇を拭う彼を見ていた。
心の中に、こそばゆい感情が芽生えていく。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/9d/a44baa5bf11d71d3a0a37cf882eb0da2.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/99/2ea40393269dba2709d87e0821c60329.jpg)
皆は彼女の代わりに酒を飲んだ淳をはやし立て、ワイワイと騒いでいた。
彼は皆から見えない角度に顔を向けると、深く一つ息を吐く。
雪が座っている位置からはそれが見えた。
それから皆が雪に酒をすすめる度、それを取り上げて淳が飲む、ということを繰り返した。
彼らが騒がしく笑う傍らで溜息を吐く淳を見て、雪は申し訳ない気持ちでいっぱいだ‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/77/18bfa54b9c775f9b0ee0da7fad7a23e1.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/6e/1747dba31c9a7ed563be09986ef90ea6.jpg)
そして雪と淳を囲む彼らは、賑やかに食べて飲んでと楽しんだ。
四年生の彼らが口にする話題は、決まって就職の話や卒業の話だった。
彼らの内の一人は卒業試験の追試が決まったと言って嘆き、続けて淳に話題を振った。
「淳は追試なんて無いんだろ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/6e/5a2d852300998e29d0ed4a7d4faebe89.jpg)
その質問に、淳の代わりに健太が答える。
「ウハハ!コイツが追試なわけねーじゃねーか!
お前大学四年間楽しかっただろー?なーんも問題無くて~優秀でよぉ~!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/2b/074bf261420d4d8b3a7f16aad2df13bb.jpg)
健太は酒が入って良い気分なのか上機嫌だった。
大口を開けて笑う彼だが、淳はその問いに対して冷静に口を開く。
「まさか。俺は疲れましたよ。大学生活の間中、ずっと疲れていました」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/ae/174069789ebcaa1154fbde37b664dec7.jpg)
彼は酔いが顔に出ないが、確実に酒が回っていた。
そのため普段ならピタリと閉じた心の扉の蝶番が緩み、そこから本音が漏れ出していた。
「そろそろ限界が来ていたので、インターンに行くことになってラッキーです。
卒業まではなんとか我慢できると思います」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/cb/3a605e9f6fd3e6c5499dde39cb422081.jpg)
雪は淡々と語る彼の指先が、小さく動いているのに目に留めた。
トントントンと聞こえる、規則的なそのリズム。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/26/9bae8ec94f50c6c1ccdcad6e80951282.jpg)
それは雪の他は誰も気が付かなかったのだが、
彼女の耳だけはそこから生まれる小さな音を拾っていた‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/71/c0e67cbf3f9d35bc507d398852b87c9f.jpg)
そして期せずして淳の本音を聞くことになった健太は、
今日噂になった横山との一悶着が原因だと踏んで己の意見を述べた。
「アイツはまだ未熟者だからよぉ、お前のその大きな器で許してやってくれよ。
去年も何かと分かってやったじゃねーか」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/8a/4f346d057db03d4d8754177c3aa9994c.jpg)
淳は健太の横山への憐憫を誘うような発言に、「別に気にしていません」と淡々と答えた。
それを聞いた健太は腕組みをして肩を竦めると、呆れたような表情を浮かべこう言った。
「とにかくあのマヌケ野郎、何であんなことしたのかさっぱりだぜ。
罪の無い淳を困らせて‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/ef/09fc7cabd21a2d712e844f687921a604.jpg)
しかし健太が最後まで言い終わる前に、淳は真っ直ぐ彼を見つめて口を開いた。
「本気でそう思ってますか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/7f/7065843d89b12ab20dc174dc36650f2f.jpg)
「へっ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/80/f9afe93c297515781d3c0f1d8cd5080d.jpg)
突如淳の問いを受けた健太は、油断していた喉元にナイフを突きつけられた気持ちがした。背筋がヒヤッとする。
しかし次の瞬間、淳はニコッといつもの微笑みを浮かべると、
「ありがたいです」と言って鋭利な雰囲気を捨てた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/be/5edb9ab648f06c0ced14a2443b9be744.jpg)
健太はどこか釈然としない気持ちのまま沈黙した。
先ほど淳が口にした本音といい、不意に見せた鋭い雰囲気といい、何かおかしい気がするが、
それをはっきりとした言葉には出来なかった‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/b5/8928faef4f0ac665fe25522cfe2a0171.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/67/6e949746c11576c3065ffef01eb83e76.jpg)
そして雪は、再び小さく動いている淳の指先に目を留め、一人思案していた。
先ほど彼と大学構内で待ち合わせをしていた時も、淳は足先を同じように規則的に動かしていた‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/e1/cee428de4239dd653a49f5bb76c33112.jpg)
雪は俯いた彼の横顔を見つめながら、その行動の意味を推し量っていた。
何か不満や不安のようなものがあるのかな‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/49/0824e07e5a713209b705b7cfb4971058.jpg)
自身の心の内を、淳が語ることは少なかった。彼の本音はなかなか引き出せない。
雪自身も、自分の気持ちを打ち明けることは得意じゃない。
だからこそ、今心の扉の鍵が緩くなった彼が出す小さなSOSを、雪はその鋭敏な精神で汲み取っているのだ‥。
「おいおい~彼氏に釘付けかよ!イケメンだもんなぁ~!」
「赤山ってば今まで誰にも見向きもしなかったのに、実は面食いだったんだなー」
「えぇ?違‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/ac/96f5232cb255ab5a3b79c6a5bd03e8b3.jpg)
気がついたら、淳のことを見つめて随分と時間が経っていた。
雪の視線を辿った彼らは、その熱い眼差しをからかって笑い始める。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/e0/7d6fb48d9e40d989a69cbc481c04cf90.jpg)
そしていつしか話題は、雪と淳がどうやって付き合い始めたかという方向へと転がり出した。
夏休みのバイトで‥と雪は答えるが、そんなつまらない始まりのわけないと言って先輩達は聞く耳も持たない。
「ちょっとくらいなら大丈夫だろ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/55/c513d6caa5f4aa870f03d40ed47373cc.jpg)
そう言って柳はカップル記念の祝杯を雪に渡そうとするが、やはり淳がそれを取り上げ、一気した。
これには柳も開いた口が塞がらない。
「んだよ~赤山は淳の管理下だな!淳タンかわいいよ淳タン!」
「やってらんね~!青田キモい~w!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/67/9f1e3ccaff44c623b9ac432b48d259f3.jpg)
はやし立てる彼らの真ん中で、雪は照れくさい気持ちで首を掻いた。
何だかんだ言って、まだ一杯もお酒を口にしていない。淳が全部飲んでくれているのだ。
「なぁ!カップルなら皆の前でキスくらい見せてくれてもいんじゃないの?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/96/24b10d14bfc9a13020c4ee515de6fbd0.jpg)
そんな中、彼らの内の一人がとんでもないことを言い出した。
目を剥いた雪とキョトンとした淳の元に、ドドッと皆が押し寄せる。
「おお!そうだそうだ!やれやれー!」「カップル承認式しなくちゃなー!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/73/ab66c7d24d622926891deae39ee68adb.jpg)
そう口々に言う一同は、興奮しながら目をランランと輝かしている。雪は動揺の最中、赤面しながら必死で抵抗した。
「はぁ?!いきなり何を言い出すんですか!止めて下さい‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/1f/3c364e8a18480a5f78f2a72759717904.jpg)
しかしそんな二人に柳からコールがかかる。
「キ~ス」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/84/dcd7cbbfcb272ec91dd04c4b1e564457.jpg)
タン、タン、と柳がコールに合わせて手を叩くと、皆もそれに合わせてコールを始めた。
キ~ス!キ~ス!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/91/24b6e40c6207d7ee6161c74ec5a504fb.jpg)
雪と淳の周りに野太い声が響いた。
名づけて「キスコール」。二人は目を見開いた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<騒がしい宴会>でした。
健太先輩、それパワハラです‥orz
韓国の飲み会は未だイッキが主流なのでしょうか?お酒が弱い人には辛いですよね‥。
こんな飲み会を何度も経験し、酔っ払った健太を介抱し、その上食事代を払ってきた淳に同情します‥。
しかし今回萌えました‥あぁ、淳先輩!!イケメン!!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/e8/3543a5482d3c1c0c469338419e9968b0.jpg)
次回は<笑顔の向こう側>です。
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/star.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/d2/8a43661e8d73763247996f10fc2eedec.jpg)
柳瀬健太は、そう言って雪と淳の座っているテーブルへと近寄ってきた。
彼の後ろには、ゾロゾロと見慣れた顔が並んでいる。
「よぉ淳!」「赤山ちゃ~ん!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/31/78/d057222a3cd4c16ea2cd32a591ab73f3.jpg)
突然の彼らの乱入に、雪は驚き淳は目を丸くする。
しかしそんな二人の様子など気にすることなく、
健太を始めとする経営学科の四年男達はワイワイと二人を取り囲んだ。
「こんばんは」「おお!俺らもここ座んぞ?」
「四年男子会ってか~」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/5e/c0a63a8ee12c96f8e15bd036260c7812.jpg)
結局彼らは雪と淳と同席することにして、席を作り始めた。
健太は「淳の送別会も兼ねてな!」と言うが、
雪は「青田先輩だけがインターンに行くわけでもないのに‥」と不服そうだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/3f/669f3d622936333cae2482d82c02b14d.jpg)
そんな中、淳はテキパキと動き既に健太達の席を作って用意していた。
そのスマートな振る舞いに、健太は終始ゴキゲンである。
「どうぞこちらへ」「オッケ~オッケ~!さすが青田だな!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/74/84ea5c47c3cf8c440c31ad210806b009.jpg)
そして何が何やら分からぬ内に、テーブルでは騒がしい宴会がスタートしていた。
雪と淳が頼んでいた酒に、遠慮なく健太や他の男達が手を伸ばす。
雪は彼らのその厚かましさに、言葉も出なかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/57/5cb1909e2daca894c74d84575a9e8883.jpg)
ワナワナしている雪だったが、健太はまるで構わずに彼女に向かって焼酎を差し出した。
「そういえば、赤山に祝杯の一杯もあげてなかったよな!ひとまず駆け付け一杯!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/43/b10fef09f649bbebb5f9dbec733b3d26.jpg)
カップル記念にかこつけて、健太は雪に酒をすすめた。突然差し出されたグラスに雪は戸惑ったが、
健太は先輩の権限を使って強要してくる。
「先輩の言うことがきけないか~?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/b0/db6921151750a31118da7ddcf4bd1947.jpg)
雪は遂にグラスを受け取ると、そのなみなみと注がれた焼酎を見て様々な心配事が浮かんでくるのを感じた。
このお酒強いんだよなぁ‥。先輩も飲んだら運転出来ないし、家も遠いし‥。
とにかくこの人達の前で醜態を晒すことだけは避けたい‥けど、ここで断ったら場がしらけちゃうし‥うう‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/c7/36f23b770e0d086b8f83da5164bd963b.jpg)
モヤモヤ考えていた雪だったが、次の瞬間その心配事も終わりとなった。
隣に座る淳が、雪の持っているグラスを取り上げたのだ。
「ちょうだい。雪は酒に弱いんです。俺が代わりに飲みますから」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/4f/9b9f2c4176344c67aeb875f337e72d51.jpg)
淳はそう言って、グラスに入った焼酎を勢い良く飲み干した。
おおっ、と周りからはどよめきが起こる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/1d/1ac8784b20115d28bddd30c9a6d0c070.jpg)
雪は何も言えないまま、唇を拭う彼を見ていた。
心の中に、こそばゆい感情が芽生えていく。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/9d/a44baa5bf11d71d3a0a37cf882eb0da2.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/99/2ea40393269dba2709d87e0821c60329.jpg)
皆は彼女の代わりに酒を飲んだ淳をはやし立て、ワイワイと騒いでいた。
彼は皆から見えない角度に顔を向けると、深く一つ息を吐く。
雪が座っている位置からはそれが見えた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/0a/9888e60eed3445d5dfb74f773735d881.jpg)
それから皆が雪に酒をすすめる度、それを取り上げて淳が飲む、ということを繰り返した。
彼らが騒がしく笑う傍らで溜息を吐く淳を見て、雪は申し訳ない気持ちでいっぱいだ‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/77/18bfa54b9c775f9b0ee0da7fad7a23e1.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/6e/1747dba31c9a7ed563be09986ef90ea6.jpg)
そして雪と淳を囲む彼らは、賑やかに食べて飲んでと楽しんだ。
四年生の彼らが口にする話題は、決まって就職の話や卒業の話だった。
彼らの内の一人は卒業試験の追試が決まったと言って嘆き、続けて淳に話題を振った。
「淳は追試なんて無いんだろ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/6e/5a2d852300998e29d0ed4a7d4faebe89.jpg)
その質問に、淳の代わりに健太が答える。
「ウハハ!コイツが追試なわけねーじゃねーか!
お前大学四年間楽しかっただろー?なーんも問題無くて~優秀でよぉ~!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/2b/074bf261420d4d8b3a7f16aad2df13bb.jpg)
健太は酒が入って良い気分なのか上機嫌だった。
大口を開けて笑う彼だが、淳はその問いに対して冷静に口を開く。
「まさか。俺は疲れましたよ。大学生活の間中、ずっと疲れていました」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/15/ae/174069789ebcaa1154fbde37b664dec7.jpg)
彼は酔いが顔に出ないが、確実に酒が回っていた。
そのため普段ならピタリと閉じた心の扉の蝶番が緩み、そこから本音が漏れ出していた。
「そろそろ限界が来ていたので、インターンに行くことになってラッキーです。
卒業まではなんとか我慢できると思います」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/cb/3a605e9f6fd3e6c5499dde39cb422081.jpg)
雪は淡々と語る彼の指先が、小さく動いているのに目に留めた。
トントントンと聞こえる、規則的なそのリズム。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/26/9bae8ec94f50c6c1ccdcad6e80951282.jpg)
それは雪の他は誰も気が付かなかったのだが、
彼女の耳だけはそこから生まれる小さな音を拾っていた‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/71/c0e67cbf3f9d35bc507d398852b87c9f.jpg)
そして期せずして淳の本音を聞くことになった健太は、
今日噂になった横山との一悶着が原因だと踏んで己の意見を述べた。
「アイツはまだ未熟者だからよぉ、お前のその大きな器で許してやってくれよ。
去年も何かと分かってやったじゃねーか」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/8a/4f346d057db03d4d8754177c3aa9994c.jpg)
淳は健太の横山への憐憫を誘うような発言に、「別に気にしていません」と淡々と答えた。
それを聞いた健太は腕組みをして肩を竦めると、呆れたような表情を浮かべこう言った。
「とにかくあのマヌケ野郎、何であんなことしたのかさっぱりだぜ。
罪の無い淳を困らせて‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/ef/09fc7cabd21a2d712e844f687921a604.jpg)
しかし健太が最後まで言い終わる前に、淳は真っ直ぐ彼を見つめて口を開いた。
「本気でそう思ってますか?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/7f/7065843d89b12ab20dc174dc36650f2f.jpg)
「へっ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/80/f9afe93c297515781d3c0f1d8cd5080d.jpg)
突如淳の問いを受けた健太は、油断していた喉元にナイフを突きつけられた気持ちがした。背筋がヒヤッとする。
しかし次の瞬間、淳はニコッといつもの微笑みを浮かべると、
「ありがたいです」と言って鋭利な雰囲気を捨てた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/be/5edb9ab648f06c0ced14a2443b9be744.jpg)
健太はどこか釈然としない気持ちのまま沈黙した。
先ほど淳が口にした本音といい、不意に見せた鋭い雰囲気といい、何かおかしい気がするが、
それをはっきりとした言葉には出来なかった‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/b5/8928faef4f0ac665fe25522cfe2a0171.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/67/6e949746c11576c3065ffef01eb83e76.jpg)
そして雪は、再び小さく動いている淳の指先に目を留め、一人思案していた。
先ほど彼と大学構内で待ち合わせをしていた時も、淳は足先を同じように規則的に動かしていた‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/e1/cee428de4239dd653a49f5bb76c33112.jpg)
雪は俯いた彼の横顔を見つめながら、その行動の意味を推し量っていた。
何か不満や不安のようなものがあるのかな‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/49/0824e07e5a713209b705b7cfb4971058.jpg)
自身の心の内を、淳が語ることは少なかった。彼の本音はなかなか引き出せない。
雪自身も、自分の気持ちを打ち明けることは得意じゃない。
だからこそ、今心の扉の鍵が緩くなった彼が出す小さなSOSを、雪はその鋭敏な精神で汲み取っているのだ‥。
「おいおい~彼氏に釘付けかよ!イケメンだもんなぁ~!」
「赤山ってば今まで誰にも見向きもしなかったのに、実は面食いだったんだなー」
「えぇ?違‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/ac/96f5232cb255ab5a3b79c6a5bd03e8b3.jpg)
気がついたら、淳のことを見つめて随分と時間が経っていた。
雪の視線を辿った彼らは、その熱い眼差しをからかって笑い始める。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/e0/7d6fb48d9e40d989a69cbc481c04cf90.jpg)
そしていつしか話題は、雪と淳がどうやって付き合い始めたかという方向へと転がり出した。
夏休みのバイトで‥と雪は答えるが、そんなつまらない始まりのわけないと言って先輩達は聞く耳も持たない。
「ちょっとくらいなら大丈夫だろ?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/55/c513d6caa5f4aa870f03d40ed47373cc.jpg)
そう言って柳はカップル記念の祝杯を雪に渡そうとするが、やはり淳がそれを取り上げ、一気した。
これには柳も開いた口が塞がらない。
「んだよ~赤山は淳の管理下だな!淳タンかわいいよ淳タン!」
「やってらんね~!青田キモい~w!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/67/9f1e3ccaff44c623b9ac432b48d259f3.jpg)
はやし立てる彼らの真ん中で、雪は照れくさい気持ちで首を掻いた。
何だかんだ言って、まだ一杯もお酒を口にしていない。淳が全部飲んでくれているのだ。
「なぁ!カップルなら皆の前でキスくらい見せてくれてもいんじゃないの?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/96/24b10d14bfc9a13020c4ee515de6fbd0.jpg)
そんな中、彼らの内の一人がとんでもないことを言い出した。
目を剥いた雪とキョトンとした淳の元に、ドドッと皆が押し寄せる。
「おお!そうだそうだ!やれやれー!」「カップル承認式しなくちゃなー!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/73/ab66c7d24d622926891deae39ee68adb.jpg)
そう口々に言う一同は、興奮しながら目をランランと輝かしている。雪は動揺の最中、赤面しながら必死で抵抗した。
「はぁ?!いきなり何を言い出すんですか!止めて下さい‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/1f/3c364e8a18480a5f78f2a72759717904.jpg)
しかしそんな二人に柳からコールがかかる。
「キ~ス」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/50/84/dcd7cbbfcb272ec91dd04c4b1e564457.jpg)
タン、タン、と柳がコールに合わせて手を叩くと、皆もそれに合わせてコールを始めた。
キ~ス!キ~ス!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/91/24b6e40c6207d7ee6161c74ec5a504fb.jpg)
雪と淳の周りに野太い声が響いた。
名づけて「キスコール」。二人は目を見開いた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<騒がしい宴会>でした。
健太先輩、それパワハラです‥orz
韓国の飲み会は未だイッキが主流なのでしょうか?お酒が弱い人には辛いですよね‥。
こんな飲み会を何度も経験し、酔っ払った健太を介抱し、その上食事代を払ってきた淳に同情します‥。
しかし今回萌えました‥あぁ、淳先輩!!イケメン!!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/e8/3543a5482d3c1c0c469338419e9968b0.jpg)
次回は<笑顔の向こう側>です。
人気ブログランキングに参加しました
![](http://image.with2.net/img/banner/banner_21.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/star.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/star.gif)
私はお酒が好きなんですけれど、実は宴会はキライで、家呑み専門です。
(私が酒好きなのは皆知ってますけど、車だからという理由で飲まずにやり過ごしています。)
雪ちゃんと先輩、静かに二人で夕食とお酒をいただこうと思っていたのに、こんな鬱陶しいことになってしまって・・・
なんかもう、可哀想で、見ていてつらいです・・・。
酔っても外見シラフなところ、私もそうなので、他人ごとではありません。
「キスしろコール」、なんと迷惑な!
雪ちゃんを庇って飲みたくない酒を飲む先輩と、先輩の小さなSOSサインに気付く雪ちゃん・・・。
はやく二人だけにしてあげたい・・・。
女性の酒を代わりに呑んであげる男を指す単語です。
やはり女性はお酒に弱い人が男性より多いですからね。
黒騎士は二つのタイプがいます。
1.その女性が好きな黒騎士
2.お酒が好きな黒騎士
最近は無理やり飲ませる酒宴は減っでいきますので、
黒騎士も減ります。
そして彼が黒騎士になった時誰かが言う「キモw」は
柳先輩のことじゃありませんよ。
きっと信じがたいでしょうね、青田先輩のことです。
「Jingrubda(気味悪い)」は惚気テロへの感想を語る形容詞ですので。
こんなに飲まされて酔っ払っても顔に出ずみんなの前で醜態さらさない先輩、口をぬぐって読者を萌えさす先輩、さすがです。
何がヤだったって、自分自身も含まれてるコトに気づかず横山の名前を口にする健太に、思わず私もトントンしたくなりました。散々淳を利用して迷惑かけて、陰で悪口言って横山ともツルんでたくせに。全部みーんな全てお見通しだからなっ!
ここではこんなアブナイ会話が繰り広げられていたのか…知らなかった。先輩がこんな気持ちだったなんて。一流で、また志を同じくする人達が集まる大学では生涯の友に出会えるコトも多いだろうに、単独一人勝ちの先輩には違ったんですね。いっそのこと四年間ビンボー人を装ってみれば何か違ったかもなのに(笑)
酒好きもいろいろなんですね。宴会キライで家飲み専門…下戸の私からしてみたらもったいねーなーって思っちゃうけど(飲兵衛イコールタダザケ大好きだと思ってた。すまん、どんぐりん)、飲めるからこそ飲む場所を選べるってのがカッコええですなぁ。
と、飲めないくせに宴会好きで、烏龍茶だけで酔っ払いよりタチの悪い暴言吐く誰かさんは思うのでした。
ここの「キモ」は先輩に向けての言葉ですかー!(ノ゜ο゜)ノ
柳に向けてのものだと思って柳をキモ口調にしたのに(笑)
しかし「黒騎士」って何だか響きがカッコイイですね。中世コスプレしてる先輩とかちょっと萌えです。勿論黒尽くめ(腹の中も)で!
飲み会談義、盛り上がってますね!
私も酒は好きですが弱いので、飲めるどんぐりさんが羨ましいです。
そして最初の画像を健太にしてしまったせいで、この記事のサムネイルが鬱陶しいですね(苦笑)
そうか、彼女バカみたいな感じかぁ…それいいな。
ほんとに!
健太先輩、あなたもですが…
トントン
キスコール…当時私、そこだけ訳し、いい予感を感じながら、次の水曜夜の更新を待っておりました。心の中はガヤ達と一緒…よこしまな私を許してください。笑
腹の中が黒かろうと悪かろうと焼肉臭かろうと、やっぱりこの夜の出来事を思い出すと無条件に萌えます~っ。
師匠ブログに出会ってチートラ熱がさらに高まって、そしてまだ先輩と雪の恋愛ばかり追っていたあの頃…。純粋な気持ち。(今じゃ懐かしい…ぷはは)
そんなんで、あぁ~思いで深いです。
あわわわ……スンキさん血迷って描いてくれないだろうか!!妄想が止まりません!
しかし健太先輩は柳たちと来ていったい誰に奢らせるつもりだったんでしょうか。いくら持ち回り制が常識だったとしても、健太さんに限っては常に誰かをたかってる感じしますね。
店に入って淳を見つけた瞬間「今日の財布はコッチ」って思ったんでしょうか。トントン
当たり前のように淳の酒やら亮理やらをつまみやがって…(#`皿´)
その状況に慣れきってる淳が、即座に健太席を作ってる様子が泣けます。
雪ちゃん早く助けてあげて!そんでさっさと……○×△■☆
こういう輩につきまとわれてばかりの人生だったら黒くもなりますよね。うわべだけでも好青年やれてる先輩の努力を誉めてあげたいくらいです。
もう黒くたっていいよ淳!だから黒騎士コスプレ見せとくれ。
休載もあったし、なんだかずーっと前のコトのように感じます。
あと「きもっ!」は軽い感じのからかいですね、亮かいで~す。それにしても、そんなチャチャって今まで先輩に対してはあまり聞かれなかったような気がして(柳は別)新鮮でしたー。
そりゃさすがの師匠も、柳か先輩かを天秤にかけたら、「キモい」とくりゃ柳の方になるでしょーよ(笑)
私はサムネイルが健太なの特に気づいてなくて、師匠からわざわざ知らされてトントン。
健太は言うに及ばすちょっと柳もうざったいなーと思いました
ちょっと淳の好意に甘え過ぎですよ
昼間散々最後だから奢られたんだろなのに更に図々しく?
それにインターン前の学校って言ってんだろ!!彼女とゆっくり過ごさせてやれよ!と鼻息荒くなってしまいます
挙げ句ちゅーしろってほんと子供ですか(-_-#)と
姉様が言ってましたが大学時代って価値観も近い仲間が集まるし一生の友ってここで出来ると思うんですよ
少なくとも私はそうでしたし
なのにこんな最後捨て台詞をはかずにいられないくらいこの仲間達に嫌気がさしていたんだろうなーと哀れですよ
その中で雪にあえたのはほんと良かったなとこの回感じました
淳の孤独に気付いてあげられてますしね
確かに横山の件とかあるけどこんな風に必死にこんなヤツらの一気攻撃をかわすなんていじらしくては萌えですよ