![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/17/3f9103796ead099e2e84426dc19df43b.jpg)
二人が店に入る頃には既に日も暮れていたが、まだ夜には早い時刻だった。
開店早々の居酒屋の席についた二人は、焼酎と焼肉で乾杯する。
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酒の入ったグラスを手に、雪は酔っぱらい過ぎないようにと己を戒めた。
以前彼の前で犯した失態を思い出しながら‥。
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淳はネクタイを緩め首を回すと、深く息を吐いた。
今日一日の疲れが、どっと押し寄せてくるような気持ちがする。
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周りを見回すと、開店して間もないせいか自分達以外には客も少なかった。
淳はそのことを喜び、雪に向かってポツリと呟くように言った。
「静かだね」
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雪は言葉通りにその意味を受け取り、
「そうですね!私達が早く来たから‥」と続ける。
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淳は雪の言葉に頷き、疲れの見える表情で呟いた。
「騒がしくなくて良いね‥」
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雪はそんな彼を見つめながら、その言葉に含まれた彼の疲弊を推し量る。
沈黙が二人を包み込み、彼女の眼差しが彼に注がれる。
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何考えてるんだろう、と雪は目の前の彼を眺めながら思う。
ふと彼の手に目を留めると、それは一定のリズムを刻みながら動いていた。
トン、トン、トンと、指先から小さな音がする。
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雪は頬杖をつくと、彼を見つめて息を吐いた。
付き合い始めて二ヶ月ちょっとか‥。まだ先輩の本音はよく分からないな‥。
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いつも目にする彼の顔とは、たまに違った一面が見える時がある。
今の彼もそうであり、そしてそんな時の彼は決まって黙り込んでしまっている。
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いつも人から”考え過ぎ”と言われる雪だが、雪本人は先輩の方こそ、その傾向が強いと感じていた。良い意味でも悪い意味でも。
そんな性質の人間がふと見せる疲弊の表情を、雪はどこか見知ったものに感じて複雑な気持ちがする‥。
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暫し沈黙していた二人であったが、不意に雪が昼間耳にした噂の事を思い出し、彼に話しかけた。
「あ、そうだ!今日横山の奴が変なことしでかしたんですって?
先輩大丈夫でした? もう皆大騒ぎでしたよ!」
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横山の事を口に出した雪を前にして、淳はハッと息を呑んだ。
手に余った不安要素に、彼女が近づいていく。
「ったくアイツは‥。ただでさえ最近先輩お疲れに見えるのにー‥」
「雪ちゃん」
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淳は雪の言葉を遮るようにして、その名を呼んだ。それ以上この話題に近づくのを拒む為だ。
雪は自分の話を切られたことを感じて少しイラッとしたのだが、彼は気に留めず自分から話を始めた。
「俺、インターンに行くだろう?」
「ですね!先輩なら上手くいきますって!」
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今度は雪が淳の言葉に被るようにして口を開く。
しかし淳は気にせず、尚も話を続けた。
「だから、気を引き締めて学生生活を送らなくちゃいけないよ?」
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「俺はいないんだから、皆にもより一層気をつけて‥」
そう淳は言葉を続けるが、雪には何のことかまるで分からなかった。
サムズアップのポーズのまま、疑問符を飛ばして固まっている。
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どうしたんですか、と聞きながら雪は酒の入ったグラスを持ち上げ、首を傾げた。
思ったより焼酎のアルコール度数が高く、彼が早くも酔っ払ってしまったのかと。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/ed/aaf233c31599fbc9780131948f55d2e6.jpg)
しかし淳はしっかりとした手つきで、雪の持ったグラスに手を伸ばした。
そしてそれを引き取ると、雪の目を見て尚も言葉を続ける。
「横山のことにしてもそうだ。雪ちゃんが気になってることって、意外に多いんじゃないの?」
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そう言われて、雪はハタと気がついた。
脳裏に浮かぶのは、横山と同率一位で気になる存在、清水香織だ。
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そして雪は彼女の名を口に出した。
「そうだ‥!清水香織‥!」
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淳は思いもよらない人物の名前が飛び出したので、不思議そうな顔をしている。
「‥清水香織?それって俺らのグループに居るあの子?」
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しかも淳は清水香織と聞いて、すぐにはそれが誰なのか分からない様子だった。
雪は言いづらそうにしながらも、なぜ香織が気になるかを話し出そうとする。
「はい‥最近ちょっとあの子に関して気になることがあって‥」
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そうなんだ、と言いながら淳は雪と香織の接点について思いを巡らし、記憶を辿ってみた。
そして先学期のグループワークで二人が同じ班だったことを思い出し、合点がいったという顔をする。
「‥ああ、あの子が先学期君と同じグループだった時、上手く発表出来なかったこともあったね。
けど今回はよく出来ていたのになぁ」
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淳は先日香織から送られてきたグループ課題の彼女のパートが、割りとよく出来ていたことを口に出した。
雪はそんな
「なんで私の時はあんなことに‥!ぐぬぬ‥!」
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露骨に顔を顰めた雪に、淳は思わず苦笑いだ。
「今回の科目が清水に合っていたのかもよ」と言ってフォローする。
雪は溜息を吐きながら、両手を重ね合わせて口を開く。
「いえ‥あの子の課題がよく出来てるか出来てないかは問題じゃないんですよ‥」
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どうせ過ぎたことだし、と付け加える雪に、淳が「じゃあなんで?」と言って続きを促す。
雪はきまりの悪い気持ちを押して、彼に誤解を与えぬように慎重に言葉を選び、口を開いた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<厄介な不安要素>でした。
淳さん、おつかれデスネ‥。でも疲れを押して彼女に肉を焼いてあげる姿は萌えです。
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というか、さっき柳達と焼肉行って無かったっけ‥??
次回は<彼の気付かぬ彼女の悩み>です。
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本当だ笑
昼も夜も焼肉羨ましいですね笑
日本版ではどうなるんでしょうね
誰も見てない所でのキスもいいですが、
(いや、コオロギが見ているか)
このエピソードの淳は・・・健気で可哀想です。
疲れた時も雪を守って、なのに雪からの小さい守りで完全に惚れて。
この人、守られたこと本当にないな・・・。と思いますよ。
そして何故か3部51話を訳しました。
このコメントのリンクへどうぞ。
二度としないと思いますが・・・(セリフ、予想より多い!)
影からこっそり見ているるるるです。(るX4になってしまった笑)
CitTさんいるし、ヌイアンスなどは私が指摘しなくてもいっか☆
後にCitTさんと青さんが現れてすばらしい説明をしてくださるよね?★
指摘無いところは他の人は気になってないということなんだから別にいっか☆
と、=▽=←こんな調子でいました。
ですが、今回は一箇所だけ気になって気になって…
韓国語で「考えが多い」と書いていた箇所ですが、
「思慮深く聡明な彼の思考」と訳されていますがヌイアンス違うなーと思いました。
私が感じるには、「深く考えすぎることが多い」、「余計なことまで考えてしまう」、「裏の裏の裏まで考えて余計に悩み、疲れてしまう」的な意味です。
否定的な感じで書いてしましたが、肯定的な意味での考えすぎも含まれているような、そんな感じ。
雪ちゃんは自分のことを”考えが多い”と自己判断していましたが、先輩の方がより”考えが多い”と思えて、それについて考える…
。。。纏まらない!ややこしくてすみません。
なるほどなるほど~。興味深く読ませていただきました。
姉さま今頃大忙しなんじゃ…(笑)
さてさて、るるるるさんお久しぶりでーす。待ってましたよ~!
そんな遠慮がちに影から見てないで、どうぞ明るいとこへ、ささ(笑)
考えすぎ体質の雪ちゃんが、自分よりさらに考えすぎ体質の先輩について考えてるんですね。ww
この繊細なニュアンスの違いを上手に解説してくれるるるるる(5連発)さんの日本語に対する感性も繊細です!(ややこしい)
これカッコいい日本語に直すとどんな言い回しになるんだろう…かなり難しそうですね。師匠の腕の見せどころですなー。
と、はからずも姉さま&師匠にプレッシャーを与えてしまったところでスイッと消えま~す(すいません、お気になさらず…)
横山が先輩を空き教室に呼んだのが午後3時で、それからの焼肉ですからね‥。雪との食事まで二時間くらいしか開いてない気がするんです‥^^;
どうなっとるんじゃ~
CitTさん
ありがとうございます~!すごい!早速読ませて頂きました。なるほどそういう流れだったのですね‥。
皆様も大喜びではないでしょうかっ^^!素晴らしいお仕事、お疲れ様です~~!
るるるさん
お久しぶりです~。ご指摘ありがとうございます!
そうか確かに「思慮深い」とはニュアンスが違いますねぇ‥。「考えが多い」ということですよね。。
ちょっと考えてみます。
さかなさんのご期待にはきっと応えられそうにないですが‥(苦笑)
それともここはご飯を一緒に食べたい先輩が雪に「何食べたい?」「焼肉の気分ですかね」って流れで行ったということで、優しく雪に気を使う先輩モチーフとしての演出なのでしょうか・・
柳たちと行ったときは、後で雪と食べるために殆ど食べてないとか。
どんだけ雪とご飯が食べたいんでしょ。ういやつじゃ。
CitTさん、堪能させていただきました~いつもありがとうございます。
過去回想回なんで、かなり興味深く読ませていただきました。色々これから解明されそうですよねえ。
るるるさん、ほんとお久しぶりですわ。
もそっとこちらへ。ささっと(笑)皆大歓迎ですわ。
で、なるほどそんなニュアンスなんですね。
なんだろう「気を回しすぎる」(マイナスのニュアンスありますよね)とかいう感じですかね。どうでしょ。
こうやって師匠のブログがブラッシュアップされてこちらも楽しめますな~
しかし横山話を遮るところはやっぱりくさい物には蓋というか、問題先送りの癖は健在な淳ですね。
焼肉!
お昼に焼肉食べた後学校に戻って、臭くない?(´・_・`)って思ったわたしです…
それにしても、これまでは笑顔という仮面を被って、周囲に心を開かなかった淳さんが、雪ちゃんに疲れた顔を見せたのはかなりの進歩な気がします。
それを受け入れる雪ちゃんも素敵。
最初は形式的に付き合った二人が少しずつカップルらしくなる感じ、ときめくなぁ…
なーんて思うわたしは、まだ何も見えてないから…???
この漫画は奥深すぎて怖いです!((((;゜Д゜)))))))
むくげさんの「臭い物に蓋」、そのとおりですね。
亮のことといい、横山のことといい。
そしてきっと過去のことも。
先輩、すでにすんげぇにんにく臭なんじゃ。
アンド酒だし。
そんでこの後、アレでしょ?アレ。
まぁ二人とも食べた後だから、お互い分からなくていいのか。