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もうとっくに日も暮れて、大学の構内は静寂に包まれていた。
その中を、一人息を切らせて平井和美は走っていた。
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どこだっけ?教育科‥。裏門!
普段足を運ぶことのない他学部の校舎へ、曖昧な記憶を辿って向かう。
あの子に何かあったら、と思いながらも、途中何度も立ち止まり、和美は自問自答した。
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こんなに慌てなくても、裏門にも警備はいるはずだ。
そもそもあのホームレスが教育科まで辿り着けるかどうかも定かではない。
もしも赤山と鉢合わせしたら気まずいし、もうこんな時間なんだから、赤山はすでに帰ってるんじゃないか‥。
しかしやはり嫌な胸騒ぎは抑えられず、先ほどバーで見た血まみれの手のひらが思い浮かんだ。
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和美はもう一度走り出した。
今度ははっきりと心の中で自問する。
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万が一あの子に何かあったら‥あたし、どうなっちゃうの?
和美の頭の中には、最悪なシナリオが思い浮かぶ。
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もし自分のせいだと赤山にバレたら、彼女は今までの出来事も含め皆に暴露するだろう。
もしかしたら教唆罪になったりして‥。そうなったら人生終わりだ‥。学科中の子たちに卒業まで嘲笑われるに決まってる。
その前に休学でもしちゃおうか‥
嫌な想像が頭を廻るし、建物は暗くてひっそりとしているしで、和美は恐怖で足が竦んだ。
躊躇っていると、向こうから見覚えのある人物が歩いて来るのが見えた。
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「先輩!」
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和美は青田先輩に駆け寄ると、必死に縋り付いた。
今までの事情を説明し、一緒に付いてきてほしいと頼み込んだ。
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和美が説明をする間、彼は一言も口をきかなかった。
言葉に詰まったり、言い淀んだりする間も、彼はただ黙っていた。
ようやくこうなった理由を聞いていた彼に、和美は「イタズラで‥」と答えても、
先輩は言葉を続けようとはしなかった。
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いよいよ和美の言葉が続かなくなると、青田先輩がようやく口を開いた。
「平井、」
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「特別な理由もなしに、面白がって他人の悪口を行って、薬物を混入した上に、今度はこんなことまで仕出かしたっていうのか」
先輩は溜息を吐いた。その表情は、その態度は、今まで和美が見たことのないものだった。
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そして次に発された言葉に、そのイメージはガラガラと音を立てて崩れていった。
「気に食わないなら無視すりゃいいものを、どうしてこう面倒くさい生き方をするんだ?」
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「お前も、赤山も」
和美は言っている意味と、事態がよく飲み込めなかった。
しかしとにかく一緒に行って下さいとその腕を掴み、必死に頼み込んだ。
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何を喋ってもどんなに訴えても、彼の身体は動かない。
いやむしろ、その表情はどんどん侮蔑を孕んだものに変わっていく。
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和美は自分の懇願だけでは動いてくれないと判断し、
赤山のことを引き合いに出した。
先輩は彼女を気にかけてるんだろう、心配じゃないのかと問い詰めた。
すると、彼は一際大きな溜息を吐いた。
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強い力で腕を振り解かれる。
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「いい加減、俺を巻き込むのは止めてくれ」
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和美は知らない人を前にしているみたいだった。
向けられた背中も、浴びせられた冷たい視線も、いつもの彼からは別人の印象を受けた。
「二人の問題は二人で解決すればいいし、」
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「自分でやらかしたことは、自分で解決するんだな」
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彼は行ってしまった。
暗闇に和美一人、呆然と取り残された。
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<和美>その真実(3)へ続きます。
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