「あああ‥!地下鉄乗らなくて良いなんて本当に感激です!
内蔵が圧迫されるようなラッシュ‥!蟻の行列のような乗り換え‥!し、死んでしまう‥!」
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雪は彼の車に乗りながら、その快適さに涙を流して感動していた。実家から往復三時間半の通学は、やはり大変であるようだ。
淳は「時間がある限り送っていくから」と彼女に向かって優しく言うと、
「あ‥でもそれはさすがに悪い気が‥」

と雪は頭を掻きながら申し訳無さそうな顔をした。
淳は「そんなに気を遣わないで」と言ってニッコリと微笑むと、こう口にした。
「これもデートみたいなもんじゃない」
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優しい言葉を掛けてもらって、雪は嬉しいようなこそばゆいような気分になった。
身体をクネクネと捻っていると、トイレかと思って淳が首を傾げた‥。
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車内での会話は弾んだ。
聡美が‥太一が‥と雪は今日の何気ない出来事を彼に話す。彼が優しく頷き、彼女の話に相槌を打つ。
二人の間には、穏やかな時間が流れていた。
「四年生はみんな時間が無いからね」
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会話の流れから、ふと先輩がそう口にした。
雪は彼の言葉に頷いて、最近自分が感じたことを口に出した。
「四年生‥先輩も最近気を揉むこと多そうですね。就職の心配とか‥」
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淳は運転を続けながら、「まぁ、それなりにね」と言って頷いた。周りの雰囲気もピリピリしてる、と。
やっぱり先輩も‥
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やはり彼も就職するんだと、雪は思って口を噤んだ。
そして先日、父親から投げかけられた質問のことを思い出した。
彼氏のそんなことも知らないのか? 卒業するんだろう?
就職とか結婚とか、そういった将来の計画は何もないのか?
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雪は車中から流れ行く景色を見ながら、ぼんやりと考えた。
そういえば‥本当に何も知らないな。
お金持ちで、家が事業経営してて、Z企業にインターンする‥。このくらいしか知らない
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自分の隣に座っているのは、ただの同じ学科の先輩じゃない。まだ付き合って日が浅いとはいえど、自分の彼氏だ。
雪は彼の方を向くと、話を切り出した。彼の進路のことだ。
「あの‥先輩は卒業したらどうするんですか? 就職ですか?」
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雪からの問いに淳は「ん?俺?」と言ったきり、少し沈黙した。
何かを考えているようだ。
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淳は暫しの無言の後、ゆっくりと切り出した。
「‥実は卒業したら大学院に留学する計画があったりしたんだけど‥」
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はぁ、と言って雪はその話に相槌を打った。
しかしよくよくその意味を考えると、とんでもないことを聞かされたんじゃないかと思い始める。
え‥? 今何て言った‥?え‥留学??
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彼が卒業後に留学する‥。
それは雪にとって青天の霹靂だった。しかし彼は何事も無かったかのようなすました顔をしている。
この人‥今私にそのことを告白したっていうの‥?
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留学するということは、約半年後に彼が遠い外国へ行ってしまうということだ。
突然告げられたその突拍子もない話は、雪の心を掻き乱した。
わ‥私は‥私はそれじゃ‥どうすれば‥
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見るからに動揺している雪に向かって、淳は「行かないよ?」と言って話を続けた。
「雪ちゃんを置いては行けないだろう?」
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含みある表情でそう口にする彼を見て、雪は最初自分がからかわれたんだと思った。
暫しポカンとしていたが、やがて再び心が不安で掻き乱された。
さっきのは冗談‥?いや、先輩なら本当に留学ありえるんじゃないの?!何が真実‥
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雪は顔面蒼白しながら、「そ、そうなんですか‥?先輩留学は‥?」と再び聞いた。
すると彼はニッコリとほほ笑みながら、「冗談だよん」と言った。おどけた表情をしている。
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雪は幾分ホッとしたが、やはりからかわれたんだと思って青筋を立てた。その笑顔が憎らしい‥。
そして彼は語り始めた。留学の話は、まるきりの嘘というわけではないようだった。
「前から母がずっとアメリカに来いと言ってるんだけど、前に一度断念してて‥」
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そして彼は進路の話を続けた。それは雪が初めて耳にする話だ。
「けど俺の目標は国内本社であって、俺自身も国内の大学に通ってるわけだから‥」
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雪の耳に、よく分からない内容が入ってきた。”本社”とは何のことだろう?
「今はちょっと‥他の方向も検討中。確かに色々考えるよ、四年ともなると」
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そう言って彼は一旦話を切った。
雪は彼の話した情報を元に、その内容を整理してみる。
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とにかく留学については、白紙に戻ったと言っていいだろう。
そして彼の言った”本社”というのは、今学期からインターンに行くZ企業のことだろうか?
そこに正社員として就職することが、彼の目標ということなのか‥?
雪は頭の中で整理した内容を踏まえて、彼にもう一度質問する。
「それじゃあ‥留学しないとなると、今度先輩がインターンする予定の企業に就職するってことですか?
正社員になるにはどうすれば‥」
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覗き込むような姿勢で質問を続ける雪の眼は、真面目に就活を考える学生の目でもあった。
素朴な疑問を口にする彼女を前にして、淳はまた沈黙した。
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しかしこれ以上は誤魔化しきれないと思ったのか、再び淳は口を開いた。
「これ内緒ね、」と前置きして語られた内容に、雪は息を飲むことになる。
「実は‥俺がインターンする予定の企業って、うちの父親の会社なんだ」
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「はあ‥」
‥
‥うちの
父親の
会社‥?
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‥
‥
‥。
「えええええっ?!」
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車内に、雪の驚愕の叫びが響き渡った。
隣に居るのは、ただの同じ学科の先輩というだけでは無かった。自分の彼氏であると同時に彼は、
大企業の跡取り息子だったのだ‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼の将来>でした。
この二人、身の上の話とか全然してこなかったんでしょうか‥(汗)
付き合ってまだ二ヶ月とはいえ、これはあまりにも‥(@@;)
彼氏の進路を知らない雪も、自分の身の上を語らない淳も、本当に”孤独型”ですよね。
”孤独型”は聡美のような、何でも話してくれる”共存型”との方が相性良いんでしょうけどね~。
うーん‥。
次回は<彼女の居ない未来>です。
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内蔵が圧迫されるようなラッシュ‥!蟻の行列のような乗り換え‥!し、死んでしまう‥!」
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雪は彼の車に乗りながら、その快適さに涙を流して感動していた。実家から往復三時間半の通学は、やはり大変であるようだ。
淳は「時間がある限り送っていくから」と彼女に向かって優しく言うと、
「あ‥でもそれはさすがに悪い気が‥」
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と雪は頭を掻きながら申し訳無さそうな顔をした。
淳は「そんなに気を遣わないで」と言ってニッコリと微笑むと、こう口にした。
「これもデートみたいなもんじゃない」
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優しい言葉を掛けてもらって、雪は嬉しいようなこそばゆいような気分になった。
身体をクネクネと捻っていると、トイレかと思って淳が首を傾げた‥。
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車内での会話は弾んだ。
聡美が‥太一が‥と雪は今日の何気ない出来事を彼に話す。彼が優しく頷き、彼女の話に相槌を打つ。
二人の間には、穏やかな時間が流れていた。
「四年生はみんな時間が無いからね」
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会話の流れから、ふと先輩がそう口にした。
雪は彼の言葉に頷いて、最近自分が感じたことを口に出した。
「四年生‥先輩も最近気を揉むこと多そうですね。就職の心配とか‥」
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淳は運転を続けながら、「まぁ、それなりにね」と言って頷いた。周りの雰囲気もピリピリしてる、と。
やっぱり先輩も‥
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やはり彼も就職するんだと、雪は思って口を噤んだ。
そして先日、父親から投げかけられた質問のことを思い出した。
彼氏のそんなことも知らないのか? 卒業するんだろう?
就職とか結婚とか、そういった将来の計画は何もないのか?
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雪は車中から流れ行く景色を見ながら、ぼんやりと考えた。
そういえば‥本当に何も知らないな。
お金持ちで、家が事業経営してて、Z企業にインターンする‥。このくらいしか知らない
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自分の隣に座っているのは、ただの同じ学科の先輩じゃない。まだ付き合って日が浅いとはいえど、自分の彼氏だ。
雪は彼の方を向くと、話を切り出した。彼の進路のことだ。
「あの‥先輩は卒業したらどうするんですか? 就職ですか?」
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雪からの問いに淳は「ん?俺?」と言ったきり、少し沈黙した。
何かを考えているようだ。
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淳は暫しの無言の後、ゆっくりと切り出した。
「‥実は卒業したら大学院に留学する計画があったりしたんだけど‥」
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はぁ、と言って雪はその話に相槌を打った。
しかしよくよくその意味を考えると、とんでもないことを聞かされたんじゃないかと思い始める。
え‥? 今何て言った‥?え‥留学??
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彼が卒業後に留学する‥。
それは雪にとって青天の霹靂だった。しかし彼は何事も無かったかのようなすました顔をしている。
この人‥今私にそのことを告白したっていうの‥?
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留学するということは、約半年後に彼が遠い外国へ行ってしまうということだ。
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わ‥私は‥私はそれじゃ‥どうすれば‥
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見るからに動揺している雪に向かって、淳は「行かないよ?」と言って話を続けた。
「雪ちゃんを置いては行けないだろう?」
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含みある表情でそう口にする彼を見て、雪は最初自分がからかわれたんだと思った。
暫しポカンとしていたが、やがて再び心が不安で掻き乱された。
さっきのは冗談‥?いや、先輩なら本当に留学ありえるんじゃないの?!何が真実‥
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雪は顔面蒼白しながら、「そ、そうなんですか‥?先輩留学は‥?」と再び聞いた。
すると彼はニッコリとほほ笑みながら、「冗談だよん」と言った。おどけた表情をしている。
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雪は幾分ホッとしたが、やはりからかわれたんだと思って青筋を立てた。その笑顔が憎らしい‥。
そして彼は語り始めた。留学の話は、まるきりの嘘というわけではないようだった。
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そして彼は進路の話を続けた。それは雪が初めて耳にする話だ。
「けど俺の目標は国内本社であって、俺自身も国内の大学に通ってるわけだから‥」
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「今はちょっと‥他の方向も検討中。確かに色々考えるよ、四年ともなると」
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とにかく留学については、白紙に戻ったと言っていいだろう。
そして彼の言った”本社”というのは、今学期からインターンに行くZ企業のことだろうか?
そこに正社員として就職することが、彼の目標ということなのか‥?
雪は頭の中で整理した内容を踏まえて、彼にもう一度質問する。
「それじゃあ‥留学しないとなると、今度先輩がインターンする予定の企業に就職するってことですか?
正社員になるにはどうすれば‥」
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素朴な疑問を口にする彼女を前にして、淳はまた沈黙した。
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しかしこれ以上は誤魔化しきれないと思ったのか、再び淳は口を開いた。
「これ内緒ね、」と前置きして語られた内容に、雪は息を飲むことになる。
「実は‥俺がインターンする予定の企業って、うちの父親の会社なんだ」
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「はあ‥」
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‥うちの
父親の
会社‥?
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‥
‥
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「えええええっ?!」
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車内に、雪の驚愕の叫びが響き渡った。
隣に居るのは、ただの同じ学科の先輩というだけでは無かった。自分の彼氏であると同時に彼は、
大企業の跡取り息子だったのだ‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼の将来>でした。
この二人、身の上の話とか全然してこなかったんでしょうか‥(汗)
付き合ってまだ二ヶ月とはいえ、これはあまりにも‥(@@;)
彼氏の進路を知らない雪も、自分の身の上を語らない淳も、本当に”孤独型”ですよね。
”孤独型”は聡美のような、何でも話してくれる”共存型”との方が相性良いんでしょうけどね~。
うーん‥。
次回は<彼女の居ない未来>です。
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誰も答えられない疑問1つ。
彼が誰の息子か会社内で知られているのでしょうか?
それとも身分を隠し、
一人のインターンとして働いてるんでしょうか?
日本ならCEOに顔がよく似ていて、苗字も同じ若者なら
「え、もしかして・・・?」と思うかもしれませんが・・・
(以前説明したことがありますが、)
韓国では1つの苗字も多数の家門が共有してますので、
苗字が同じ二人がいても「もしかして遠い親戚?」とも思いませんよ、普通。
内緒なら有能な人として嫌がらせされそうですね。
いや、内緒じゃなくてもそれはそれで疲れるかも。
本国でもナゾとされてるなら間違いない。←何が。
大学で発表会があるからと仕事抜けて来たけどあと20分しかないんだ、と言って(そしてゲーセン)、あまつさえ会社から電話がかかってきた時、特別扱いじゃないんだなーと。
でも、パンピーにしても目立つし、誰だって詮索したくなるでしょー。その辺大丈夫なのかしら。と。
けれど休載前の話で、父親と一緒に会議に参加する前の場面がありましたよね。
それで一般社員には知らされないけど、重役には知らされてるレベルなのかな?と‥。
ただでさえ人目を引く先輩ですから、社内でも詮索されてまたウンザリでしょうね、先輩。
静かに生きていきたいのにそれが許されない人生がこの先ずっと続いていく‥。淳が感じている絶望って、かなり残酷なものなのかもしれませんね。。
Yukkanen師匠の言葉、全くその通りだと思いました。
背負っているものが多すぎて、並の精神ではおかしくなってしまいそう・・・
だからいくらブラックでも庇いたくなってしまいます。
とはいえ、実在の大企業の社長やCEO(私が知る範囲での)は人格者ですから、
先輩も少しづつでも、人の気持ちが分かるようになって欲しいです。
自分の企業で働く人たちのため、そして先輩自身のために。
こんな先輩を理解してくれて、隣にいてくれる女性が現れて欲しいです。
その女性、雪ちゃんではだめですか?どうなのでしょう?
>こんな先輩を理解してくれて、隣にいてくれる女性が現れて欲しいです。
その女性、雪ちゃんではだめですか?どうなのでしょう?
読者から見たら淳の生き方も雪の生き方もどこか可哀想に思えるんですが、彼らはそれが「普通」と思って生きてきてますよね。。
雪が淳を理解して受け入れるには、まずこの「普通」と思っているところをぶち壊す過程が必要なんだと思います。やはり雪が主人公なので、淳だけでなく雪も救われないと意味がないというか。
壊して、絶望して、それでも逃げられないそこと向き合って生きていくという成長物語がこの先繰り広げられたら、私チートラ全巻輸入しますよ(笑)
そんだけ出しても惜しくないと思います。^^