冷えた空気が、雲ひとつ無い空へと昇って行く。
高く聳えるビルが立ち並ぶ、ここは都内某所。
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淳は自室にて、アメリカに居る母親と通話しているところだ。
「‥はい、まだ家です。飛行機の時間までまだあるので、
持って行く本を選別しようかと思って」
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「ええ、気をつけます」
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「空港に迎えの人間は要りませんよ」
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冬休みを利用してアメリカに来る息子を心配してか、母は空港に人を寄越すと言ったが、淳はそれを断った。
続いて母は、帰国してからの息子の予定について話を振る。
「ええ、忙しいですよ。冬休みも」

淳は携帯を肩に挟みながら、空いた両手で本棚から何冊か本を取った。
「もう卒業控えてる身ですし、約束もいっぱいあって。目が回りそうですよ」
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母親の声が大きく聞こえる。
「先の準備をするのも良いけど、休みは休みとして楽しまなきゃね」
「はい」
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淳は行儀良く相槌を繰り返した。
もう手配済みの飛行機のチケットに目を留めながら。
「はい、はい‥」
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通話を終えると、部屋の中はしんと静まり返った。
淳はただ真っ直ぐに前を向いている。
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目の前の棚には、抜き出した本数冊分の隙間が空いていた。
ぎっしりと詰まっていたそれに、急に穴が空いたような隙間。

淳の心の中にも、どこか穴が空いたような気分だった。
旅立ちの前の空白の時間。
淳はあぐらをかきながら、ぼんやりとただその場に座っている。
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僅かに首を傾けながら、淳はポツリと一言呟いた。
「冬休み‥」
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淳の脳裏に、数日前の出来事が思い出された。
遠藤修を訪ねて行って、レポートを捨てて欲しいと依頼したこと‥。

後はもう遠藤が動き、全体首席のレポートが紛失し、
奨学金が赤山雪の元へと渡るのを静観しているしか他無い。
その後、赤山雪がどう出るか、淳はこの場で待つしか出来ないのだ‥。

それでも、じっとしてはいられなかった。
淳は急く心を持て余しながら、携帯へと手を伸ばす。
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淳はおもむろに連絡先をスクロールし始めた。
<2年>伊吹聡美、<1年>福井太一、の箇所で手を止める。
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二人の名前を選択し、淳はメッセージを打ち始めた。
文面を考えながら、ゆっくりと文章を作って行く。
こんにちは。青田です。
先学期、君たちにあまり良くしてあげられなくて申し訳なかったね。同じ経営学科の後輩なのに‥。
近いうち、開講前に君らと友人達で一緒に‥

‥まどろっこしいだろうか。
淳は作成した文章を、推敲の末打ち消した。
「‥‥‥‥」
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今度はもう少し砕けた言い方にして、メッセージの中で本題を切り出すことにする。
元気?冬休み、楽しんでる?
ちょっと気になってることがあるんだけど、もしかして雪ちゃんって、ずっと大学を‥
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いや、これも違うだろう。
というか一体自分は何をやっているのだろう。
出来ることなんてないはずだと、とっくに自身に言い聞かせているというのに。
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淳は溜息を吐きながら、携帯電話を脇に置いた。
「何やってんだ」と、幾分自虐的に呟きながら。

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淳はそのまま天井を仰いだ。
足を投げ出し、ゆっくりと床に寝転ぶ。
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硬いフローリングの感触が、直に背中に伝わって来た。
見上げた天井は無機質に白く、淳の感情を曖昧にぼやかして行く。

先の見えない賭けのようなトラップの行末は、なんとなくしか掴めない。
根拠無き未来を、自分の策を信じて進んで行くしか。
淳はその場に寝転びながら、白い天井に、彼女の後ろ姿が走り去る残像をいつまでも追っていた‥。
「‥‥‥‥」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳>旅立ちの前に でした。
冬休み、淳はアメリカに飛んでいたのか‥。お母さんのお家に行くんですね。
(やっぱりビジネスクラスで行くんだろうか?)
以前車の中で淳が雪にこういうことを言っていましたが↓

雪のことがなければこのタイミングで留学していたのかも?
そのことの布石としての今回のこの場面なんですかねぇ。
そう仮定して考えると、淳が雪の為に犠牲にしたものってすごくありますよね。。
全体首席に留学に早期卒業に‥。
それだけ雪を、同類を渇望していたのな‥と少しホロリとしてしまうのでした‥。
4部32話はこれで終わりです。ではまた~
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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高く聳えるビルが立ち並ぶ、ここは都内某所。
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淳は自室にて、アメリカに居る母親と通話しているところだ。
「‥はい、まだ家です。飛行機の時間までまだあるので、
持って行く本を選別しようかと思って」
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「ええ、気をつけます」
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「空港に迎えの人間は要りませんよ」
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冬休みを利用してアメリカに来る息子を心配してか、母は空港に人を寄越すと言ったが、淳はそれを断った。
続いて母は、帰国してからの息子の予定について話を振る。
「ええ、忙しいですよ。冬休みも」
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淳は携帯を肩に挟みながら、空いた両手で本棚から何冊か本を取った。
「もう卒業控えてる身ですし、約束もいっぱいあって。目が回りそうですよ」
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母親の声が大きく聞こえる。
「先の準備をするのも良いけど、休みは休みとして楽しまなきゃね」
「はい」
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淳は行儀良く相槌を繰り返した。
もう手配済みの飛行機のチケットに目を留めながら。
「はい、はい‥」
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通話を終えると、部屋の中はしんと静まり返った。
淳はただ真っ直ぐに前を向いている。
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目の前の棚には、抜き出した本数冊分の隙間が空いていた。
ぎっしりと詰まっていたそれに、急に穴が空いたような隙間。
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淳の心の中にも、どこか穴が空いたような気分だった。
旅立ちの前の空白の時間。
淳はあぐらをかきながら、ぼんやりとただその場に座っている。
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僅かに首を傾けながら、淳はポツリと一言呟いた。
「冬休み‥」
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淳の脳裏に、数日前の出来事が思い出された。
遠藤修を訪ねて行って、レポートを捨てて欲しいと依頼したこと‥。
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後はもう遠藤が動き、全体首席のレポートが紛失し、
奨学金が赤山雪の元へと渡るのを静観しているしか他無い。
その後、赤山雪がどう出るか、淳はこの場で待つしか出来ないのだ‥。
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それでも、じっとしてはいられなかった。
淳は急く心を持て余しながら、携帯へと手を伸ばす。
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淳はおもむろに連絡先をスクロールし始めた。
<2年>伊吹聡美、<1年>福井太一、の箇所で手を止める。
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二人の名前を選択し、淳はメッセージを打ち始めた。
文面を考えながら、ゆっくりと文章を作って行く。
こんにちは。青田です。
先学期、君たちにあまり良くしてあげられなくて申し訳なかったね。同じ経営学科の後輩なのに‥。
近いうち、開講前に君らと友人達で一緒に‥
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‥まどろっこしいだろうか。
淳は作成した文章を、推敲の末打ち消した。
「‥‥‥‥」
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今度はもう少し砕けた言い方にして、メッセージの中で本題を切り出すことにする。
元気?冬休み、楽しんでる?
ちょっと気になってることがあるんだけど、もしかして雪ちゃんって、ずっと大学を‥
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出来ることなんてないはずだと、とっくに自身に言い聞かせているというのに。
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淳は溜息を吐きながら、携帯電話を脇に置いた。
「何やってんだ」と、幾分自虐的に呟きながら。
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淳はそのまま天井を仰いだ。
足を投げ出し、ゆっくりと床に寝転ぶ。
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硬いフローリングの感触が、直に背中に伝わって来た。
見上げた天井は無機質に白く、淳の感情を曖昧にぼやかして行く。
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先の見えない賭けのようなトラップの行末は、なんとなくしか掴めない。
根拠無き未来を、自分の策を信じて進んで行くしか。
淳はその場に寝転びながら、白い天井に、彼女の後ろ姿が走り去る残像をいつまでも追っていた‥。
「‥‥‥‥」
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<淳>旅立ちの前に でした。
冬休み、淳はアメリカに飛んでいたのか‥。お母さんのお家に行くんですね。
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以前車の中で淳が雪にこういうことを言っていましたが↓
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雪のことがなければこのタイミングで留学していたのかも?
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全体首席に留学に早期卒業に‥。
それだけ雪を、同類を渇望していたのな‥と少しホロリとしてしまうのでした‥。
4部32話はこれで終わりです。ではまた~
☆ご注意☆
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最新話を見る(読めないので)のが怖いです。。
過去問の件から淳さまには不信感を抱き始めていましたが、そういうリスク負った必死な姿を見せられるとグラっと来ちゃいます。
遠藤さんのリンクありがとうございます。
こうして盗みの現場を改めてみると、自分のレポートを失くせと要求されて逆ギレする遠藤さんもどうかと思いますが、まあいわば恐喝ですもんね、やり方は卑怯ですよね。。
いつも動機には納得なんですが解決方法が歪んでますよねえ。
ドラマ化されている聞きましたが、ある意味実写困難だと思いますが、気になります。99
昨日ドラマ版を見終わり、最終回で意味のわからないところがあって確認するとなんだか終わり方の評判良くないんですね…
私的には割と満足だったのですが、ふんわりとした着地だったからかなぁ?
ドラマ制作スタッフは亮さんへの思いが、(ほっぺがピンクになったりオッパーと言われて悶絶するペギノッシは可愛すぎ)、でもスンキさんは淳への愛の方が大きい気がします(表情や心情を表す風景をとても丁寧に描いているから)
太一と聡美にメールしようとして打ち消したり、何やってんだって1人ツッコミする淳。
素の淳が垣間見えていいです!!
今回も神回です~~。
どこまで回想編が続くんでしょうねぇ。
このままハッピーエンドまで辿り着くには相当なものを乗り越えないと出来なさそうですが、そうなれば一体連載がいつまで続くのか‥。先が見えませんね‥。
くうがさん
留学を諦めた理由が雪、というのは読者的には胸熱ですが、雪にしたらドン引きですよね。この頃は彼女でもないのに‥。
遠藤さんの件は、本当だったら学生のカードに手を付けるなんて懲戒免職モノですから、何の咎めも無い方が逆に不自然な気がしてまして。淳のやり方は恐喝かもしれませんが、遠藤さんがそれに切れる権利はなかったような‥。あれ?私の思考回路もいつしかアヲタ‥。
omiomiさん
実写化されて、もう韓国では3月に放映終了しましたよ~。
映画化するという噂もありますが、どうなるんでしょうかねぇ。どちらにせよ、原作が終わってから作った方が良かったんじゃないかと思う今日このごろ‥。
ゆーたんばーさん
本棚の隙間は淳の心の隙間!
こんなコマをさりげなく入れるスンキさん、恐ろしい子‥!ですよね。
ドラマは、ペギノッシへの愛が感じられましたよね。恋愛メインだからこそ、ペギノッシにもそっち方面担当度が高かったのかもです。なによりソ・ガンジュン氏がイケメン‥(結構そこ)
でも漫画はやっぱり、淳が物語の要なのでしょうね。この物語がどうか淳の成長物語であって欲しい!
雪主体で長い間連載が続いていた分、なに考えてるか分からなかった不気味な人物像が、ドンドン人間に見えてきたような感覚ですね。
でもやっぱり全てが自己防衛本能的な感じがしますね。。先手をいくつも打つけど、雪の気持ちが分からない内は、意味無いんだよと教えてあげたひ、、頭が良くても大事なとこが見えない典型、、
体は大人、心はこども(○ナン御大)を体現しているかのようだなあ、としみじみ思えます。(笑)
ドラマ、、見たいけど我慢!
(最早yukkanenさまの訳でないと見ても物足りない気も(。・ω・。))
今までしてきた雪ちゃんへの仕打ちはさておき、気になってしょうがないみたいですね。もしかしてこの後、渡米しなかった?とも想像してしまいました。メール作成、推敲、躊躇。もうそれ、恋でしょー!!志村後ろー後ろー!!ばりに叫びたい。もやもやも初体験だからしかたないか。
もうすぐ現在に戻りそうで本当に楽しみです。俺しかいない…でしょ?と、悦に入ってる先輩。雪ちゃんは、とってくわれる…からの休学決意を回想してたとしたら、次はどういう展開になっていくのかな。
このころ雪は先輩に「取って食われる」って思ってたけど、それは先輩も雪から「異常なほど影響を受けていると思った。君が俺を侵害するのじゃないかと思って」と思ってたんだから、全く同じこと言ってるんですよねこの二人。
先輩の画策に気づいたのだとしても、自分と同じく閉塞感を感じていた先輩の切なさからの行動だったと雪ちゃんが感じとってくれたらいいなあ。
今まで他人と深く関わったことの無い淳だから、自分の頭で計算するしか出来ないんですよねぇ。それをこれから雪に関わることで知っていくんだなぁと思うと、しみじみ感慨深いです。
123さん
志村後ろ後ろwww懐かしいww吹きました。
もう少しで現在に戻りますよー!
くうがさん
本当、二人共同じ気持ちだったんですよね~!
「好きの反対は無関心」といった言葉がありますが、あれほどの嫌悪はやはり互いを意識せざるを得なくなるんですね。
さぁ一緒に叫びましょう!
「淳ー!それ恋ー!志村(not志村明秀教授)ー!後ろ後ろー!」
ホン家が無理して弟のホンジュンをアメリカに送り出したのも、それを身を立てる手段としてほしかったからですし、姉のホンソルはだからこそ彼の留学には嫉妬心を覚えていたわけです。しなくても済むものならしないでいいけど、しなければ就職も出世も不利だから、頑張って留学したいし、できないのは辛い。
でもユジョンには約束された将来があるわけで、それは別に留学してもしなくても保証されている。アメリカや海外一般に対する関心が彼に大してあるとも思えませんし、「行きたかった留学を諦めた」というニュアンスはあんまりないような気がします。
行っても行かなくてもよかったんじゃないですかねえ、本人的には。