
淳が自分の元を去ってから、随分長い間雪はその場に佇んでいた。
脳裏には様々な情景が思い浮かぶが、一番印象的なのは彼の後ろ姿だった。
去年ウンザリする程目にした、あの疎ましい後ろ姿‥。

胸の中がズキズキと痛む。
雪は溜息を吐きながら、携帯の発信履歴を眺めて俯く。

もう数え切れないくらい、先輩に電話を掛けていた。
けれど、一度も取ってもらえない。

通り過ぎる人々の間で、自分だけが取り残されて行く。
雪は居ても立っても居られずに、大学を出て街へと向かった。
私、先輩のマンションの前に‥

雪は以前一度訪ねたその記憶を頼りに、彼のマンションの前までやって来た。
それを知らせる旨のメールを送ろうとするが、送信ボタンを押す指がそれを躊躇う。


とりあえず雪は、ロビーにある呼び出しベルを押した。
けれど呼び鈴は繰り返しメロディーをなぞるだけで、一向に彼の声を聞くことは出来ない。
まだ家には居ないみたい‥連絡も取れないし‥。まさか何かあったんじゃ‥

何度かベルを押してみたものの、彼は不在のようだった。
雪は項垂れながら適当な所に腰掛け、騒ぐ胸の内を持て余していた。

すると不意に、携帯が鳴った。
ポケットの中を震わせたそれを、弾かれるように手に取る。

しかしその差出人名を見て、雪は顔を顰めた。
またもや横山からのメールだったからだ。

雪は憤りながらそれを無視し、内容は見ずにまた携帯をポケットに仕舞った。
暫しそのまま座っていたが、再び携帯を取り出して先輩にメールを打つ。
先輩まだ家には‥

しかしそこまで打ったところで、雪は手を止めて俯いた。
‥どっちがストーカーだっつーの‥

数十回の発信と、家の前で待ち伏せしていますと言わんばかりのメール‥。
雪は自分のやっていることを冷静に顧みて、やはりメールを送るのを止めた。
雪は再び携帯をポケットに仕舞うと、壁に凭れながらその場で彼を待つ。

ただじっと座っていると、あれほど騒いでいた胸の内も、混乱していた頭の中も、幾分落ち着いてくるのを感じる。
雪はぼんやりと空を見上げながら、彼との問題について思いを巡らせる。

横山の一件で喧嘩して何日も連絡しなかったから、
河村氏のことを話すタイミングを逃してしまった‥。その上家での問題が立て続けに起こって‥。
けど河村氏に関する話が出来なかったのは、私のせいだ。あまりに安易だった‥。

その上、あの時の先輩の表情‥。
いつもの怒った顔とは、全然違ってた‥。

また怒らせて、連絡も取れなくて、会ってもまたギクシャクして‥。
もうこれ以上こんなのは嫌だな。インターン中だし、明日も来るってのも保障出来ない‥。

雪の頭の中に、いつか彼と仲直りした時の場面が蘇った。
謝るべきことは謝って、解決すべきものは解決して‥。
私たち、そうすることに決めたんじゃなかったの‥?

これからは何でも言い合いましょうと、あの時二人の間で交わした約束。
雪は今こんなにも彼と話し合いたいのに、彼は沈黙を貫いている。

まだ待っていますとか、何かあったんですかとか、携帯には彼に問いかけるメールばかりが並ぶ。
けれど返信は無い。こんなメールを打ち続ける自分にも嫌気が差す。

彼は今怒っている。
だから自分がこんな風に彼を待ち続けることは、彼にとっては嫌なことかもしれない‥。

ここで待ち続けるのはただの自分の意地で、真相を知りたいのはただのエゴなのかもしれない。
もう待つのは止めて帰ろうかなと、雪は心の中でポツリと思った。
瞼の裏に、冷淡な瞳で自分を見る彼が浮かぶ。
怒る顔、見たくないもの‥

それに‥

後ろ姿も‥

去年の自分と現在の自分。
彼の背中の前で、同じ様に雪は立ち尽くしている。
心の扉を閉めた彼に、それ以上近寄ることは出来ないー‥。

昔も今も、自分に出来ることはただ彼を待つことだけだ。寂寥の思いを抱えながら。
電話でも、メールでもいい。
彼に向かって発したメッセージを、受け止めて返して欲しい‥。


すると不意に、メールが届いた。思わず雪は携帯に飛びつく。
4件の新しいメッセージ ”イタチ”

しかしそれは、またしても横山からだった。雪は苛立ちのあまり、その場で大きく声を上げる。
「あぁもう‥っ!マジで‥」

雪が声を上げる間にも、携帯には新しいメッセージが横山から入り続ける。
しかも更に悪いことに、警備員から「あまりここに長く居られると困る」と注意が入った。

雪は立ち上がりつつ、横山からのメールを開封してみた。
するとそこには、目を疑うような写真が添付されている。

淳と腕を組んでいるのは、河村静香だった。
雪は、写真の彼の後ろ姿に目を落とす。
今日‥着てた服‥

立った足から、力が抜けて行く。
雪は携帯に視線を落としながら、暫し呆然とその場に立ち尽くしていた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼を待つ>でした。
さて現在に戻って参りました。そして最悪のタイミングでの横山の爆弾投下!
不穏な空気が漂います‥。
次回は<不安の蔓>です。
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読んでて楽しいんですが横山が死ぬほどうざいですwww
雪が報われるといいなぁ
ここで、二人が何事もなく話し合って理解を深め解決に向かう…のでは、もはやチートラではないwので、どーやって静香嬢や亮さんが絡んでくるのか…
ゆきちゃんと先輩のイチャイチャが見たいです。←ぇ。
雪ちゃんのことだけ特別で、雪ちゃんにだけ優しい先輩が好きなんです~(。-_-。)
こんな二人やだぁ。
横山はとりあえずだいぶうっとうしい…。
前からだけど…。
はじめまして!コメントありがとうございます。
私も横山しか出てこない回はゲンナリしながら記事を書いています‥。きっとそれももう少しのはず!
一緒に乗り越えましょう(笑)
ゆっけ丼さん
確かに過去回想を挟むことで、雪ちゃんが先輩の後ろ姿にどれだけの悪感情を重ねて来たのかが響きますよね。
先が楽しみですな‥!
ゆいさん
ね~やな感じですよね~@@
既に「暴れないように縛って寝ないとね」が懐かしいですよね‥。
そしてこれから横山はもっとうざくなりますよ‥(苦笑)
かつてのナムジュヨンや、今回まさかのソンミンスのように、残りの話でまた出てくることはあるのか…?
あの動画はファンサイトのものだったんですね!
教えて下さりありがとうございます
この回を見ると、雪ちゃんいつの間にかこんなに先輩のこと好きになったんだなぁとしみじみします…
大嫌いから好きに変わるのも大きな変化ですから、雪ちゃんはそこんとこがすんなりいかないんですね。先輩は問題ないみたいですけど( ̄▽ ̄)
そしてそして
もう横山のおかわりはいらないのでモナさん出してください~!!笑
CitTさん
あの動画はファンサイトのものだったんですね!
教えて下さりありがとうございます
この回を見ると、雪ちゃんいつの間にかこんなに先輩のこと好きになったんだなぁとしみじみします…
大嫌いから好きに変わるのも大きな変化ですから、雪ちゃんはそこんとこがすんなりいかないんですね。先輩は問題ないみたいですけど( ̄▽ ̄)
そしてそして
もう横山のおかわりはいらないのでモナさん出してください~!!笑
師匠、これは消し用がないとおもいますので、そのまま放置でお願いしますm(_ _)m
すみません!!
あ、雪ちゃんの執着は違うかな?
ドンマイ。
ここに来てまた過去の回想シーン…と思ったけれど、同じ先輩の後ろ姿に感じる気持ち、こんなにも違う…こういうのも大事な場面ですね