横山の目は血走り、今や怒りでブルブルと震えていた。
”アンタなんて先輩に何一つ敵わない”と、雪から完全に見下された事実が胸を抉る。
横山は、掠れる声で呟いた。
「青田‥なんかの‥どこがいいってんだよ‥」
そして横山は、自虐するように渇いた笑いを立て始めた。
その尋常でない雰囲気に、雪の身が軽く竦む。
「ハ!ハハハ‥。ここで「はいそうですか」って素直に納得するとでも思うかよ?
クッソが‥お前の大学生活、メチャクチャにしてやろうか?」
横山はその細い目を更に細めて雪を睨むと、彼女に向かって脅しを掛けた。
「帰り道の度に身の竦むような思いをさせてやろうか?
お前んちの食堂に来てる客の前で髪の毛引っ掴む真似でもしねーと、お前は目ぇ覚まさねぇか?」
ハッタリだ、と雪は内心思っていはいたが、本能的に身体が強張った。
横山は尚も雪に対して攻撃的な言葉を掛けてくるが、雪は俯いたまま黙っていた。頬に汗が伝う。
そして雪は横山に気が付かれぬよう、微かに微笑んだ。
もう少し‥
ポケットの中のレコーダーは、この横山の罵詈雑言を一言一句記録している。
雪は虎視眈々と、脅迫の確実な証拠が集まるまでその時を待っていた。
それに気が付かぬ横山は、歯噛みしながら今一度雪に釘を刺す。
「もういい。ヤンキー野郎にあのスレ消せって言っとけ。
そうじゃなきゃ、マジでただじゃおかねぇ。お前もヤンキー野郎も、俺は殺しちまうかも‥」
横山がそれを言い切る前に、雪は「それならもう手遅れよ」と口にした。
その言葉の意味が解せず眉を顰める横山を見下ろし、雪はその切れ長の目を更に吊り上がらせる。
横山は雪を見上げてその意味を尋ねた。雪は淡々とそれに答える。
「は‥?どういうことだ?」
「あのスレが立った時点で既に時遅しなのよ、アンタ」
その雪の冷たい物言いと冷淡な視線に、横山は逆上した。
あの”ヤンキー野郎”の顔が脳裏に浮かぶ。
「それじゃあこれからもアップし続けるってのか?!今からでも削除しろと伝えやがれ!
あれが俺だって、気づいた奴も出て来てる。マジで通報すんぞ?!早く削除しろっ!」
窮地に追い詰められたイタチが牙を剥いた。
しかし相対するライオンは怯まず、淡々と言葉を紡ぐ。
「私は今までアンタに、何度もこういうことは止めろと言って来たわよね?」
それは、他人が聞けば何気ない言葉だった。
しかし横山にとってそれは、どこか聞き覚えのあるその言葉‥。
「は‥?」
横山は目を丸くして雪を見上げた。
雪は表情を変えぬまま、もう一度その台詞を口にする。
「ずっと言ってきたわ、”もう止めろ”って。それを聞かなかったのは、アンタ自身よ」
今雪が口にしたその言葉を、横山が以前目にしたのはあの掲示板だった。
”もうこの辺で止めておけば?”
そのスレ主は横山に向かってそう言い放った。
自分が赤山雪を追いかけている写真を、無数にアップし続けながら。
横山の脳裏に、以前図書館まで赤山を追って行った時の、彼女とのやり取りが思い出された。
雪はあの時、自分に向かってこう言ったのだ。
「もう私もおとなしくしてるばかりじゃないわよ。
アンタと私、どっちがバカでどっちがそうじゃないか、今後様子を見ようじゃないの」
あの時はただのハッタリだと思っていた。苦し紛れに発した彼女のつよがりだと。
「は?”おとなしく”しなかったらどうなるっての?
お前にビクビクしなきゃいけねーの?」
だからそう言って鼻で嗤った。どうせ何も出来やしない、と。
しかしそれは間違いだった。
横山は顔を青くしながら、震える声で事実を口に出す。
「あ‥あのスレは‥お‥お前が‥」
雪は呆れたような表情を浮かべながら、横山に向かってそれを肯定した。
「私じゃなかったら、他に一体誰がアップするっていうの?私も一緒に写ってるじゃないの」
それが事実だった。
あのスレッドに横山翔の写真をアップしたのは、雪自身がやったことなのだ。
横山がウェブ掲示板に頻繁に書き込みをしていることを突き止めたのは、太一だった。
PC室で横山がいつも何かを書き込んでいたのを、太一はじっと窺っていたのだ。
そして、つい先日味趣連が揃った時に、太一はそのことを雪と聡美に打ち明けた。
一連の流れを聞いた雪は頷き、太一に向かってこう言った。
「◯◯サイト?それじゃ私がアップするわ。
太一がやると、色々都合悪いこともあるでしょ」
そしてその日の夜、雪は大量の写真を掲示板にアップした。
頭の中は、連絡のつかない淳とのことでいっぱいだったが。
二度目のアップは、横山が静香と淳の写真を手に皆の前で弁解をした日の夜だ。
皆の前で横山が悪者になった所を見届けた雪は、念には念をともう一度写真をアップした。
一つ一つ道を塞いで行くように、雪はイタチの逃げ道を無くしていったのだ。
冷静に、そして賢明に。
窮地に立たされたイタチは、頭の後ろで何かがブチンと切れる音を聞いた。
追い込まれた小さな獣は、ライオンの喉を食い千切ろうと、その牙を剥き出しにする‥。
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<窮地と逆上(3)>でした。
ここでやっと「横山の写真をアップしたのは誰なのか」ということが明らかになりましたね!
「先輩か?」と最初思いましたが、途中「やっぱり太一?」と思い直したら、まさかの主人公本人だったという‥。
予測出来ませんでした‥。作者さん凄い‥!
次回<窮地と逆上(4)>です。
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太一証拠写真集め
↓
先輩に提供
↓
先輩アップ
という流れかな~と思っていたら…!
雪ちゃん本当大変な災難に見舞われ気の毒。
しかし、ここまで真剣に向き合うと言うか真面目に相手にしなければならなかったのか…。
証拠集めて、時間割いて、被害にあってる自分晒して…。
徹底的に無反応を貫くってのは、横山には効かなかったかな。
本当変なのに目をつけられてしまって。
なんたって、ゲスのKIWAMI。こりてください。
ここまでしないとどうにもならない横山ってほんとに……ほんとにもう……。ここからどう動くかが楽しみです
こちらのブログを発見してとても楽しく読ませていただいております^^
翻訳、大変でしょうが応援してます!
雪ちゃんがいつか良い意味で泣ける日を願って…。。。
ゲスのKIWAMIをさらりと引用するりんごさんが大好きです。こんにちは^^
雪ちゃんはどうも鬼になりきれないというか、やっぱり「話せば分かる」とどこかで思ってるんですかねぇ‥。証拠を引き出す為とはいえど、かなり本心喋ってますしね‥不器用な子‥。
小春さん
ね!私も太一がやったとばかり思っていました。
やられた~という感じですよ‥@@;
さくらさん
はじめまして^^初コメありがとうございます!
楽しんで頂けてるようで嬉しいです~。
最終回まで共にチートラを追いかけて行きましょう!
雪ちゃんが良い意味で泣ける日まで‥良い言葉ですね‥!前向きなラストが待ってると良いですねぇ‥^^
雪ちゃんたまにめちゃくちゃ口汚いけど、やはり心根がイイコなのがブチ切れ場面でも伝わってきますねー!