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気がついたら、亮は駆け出していた。
思い出す数々の高校時代の記憶と共に、先程目にした雪と淳の姿が頭から離れない。
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ぐしゃぐしゃと頭を掻きながら、騒ぐ胸の内を一人持て余す。
そうだよな‥付き合ってんだから当然‥
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偶然見てしまった仲の良い二人の姿に、亮は動揺していた。
愛おしそうに彼女の頬にキスをする彼と、くすぐったそうにそれを受ける彼女‥。
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思い出すにつれ、亮はだんだんとイライラし始めた。
二人がどうこうというよりも、亮は自分に対して腹が立つ。
「クッソ‥!バッと飛び出して馬鹿騒ぎすりゃ良かったのに!
なに慌てて走り去ってんだオレは!バカなのか?!アホなのか?!」
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荒れた亮は、そこに転がったゴミバケツを蹴っ飛ばした。
肩で息しながら、亮はこう考える。
いやいや‥あそこで登場したところで‥
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亮は、もし自分があの場面で二人の前に飛び出したなら、という場合を想像した。
「あっれれのれ~♪あれあれあれれ~♪♪」
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面白がってそう言いながら二人の前に飛び出したなら、
おそらく二人は目を丸くしてキョトンだろう。
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そして自分の目に留まるのはきっと、
淳の持っている高級外車や、きちんと仕立てられた品の良い洋服‥。
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そしてそんな彼らの前で自分は、何も言葉を続けられずに黙ってしまうだろう。
着古したクタクタの洋服に身を包んだ、カップルの空間に無粋に飛び込んだお邪魔虫として‥。
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どーしちゃったんだよマジでオレは!!
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亮は再び腹が立ち、辺りにあるものを闇雲に蹴ったり転がしたりする。
どうしてこんなにコンプレックス感じてんだよオレは!しかも想像の世界で!
あの家から出て来た後も、持ってるもんが一つも無くても、一度も他人に引け目なんて感じなかっただろーが!
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そう思う心の中とは裏腹に、瞼の裏には先程の光景が蘇る。
オレはそんなん感じる必要なんてねぇんだ‥!
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そんなん感じる必要なんて‥
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淳と笑い合う彼女の横顔を目にしながら、亮は様々な場面が頭の中に浮かび来るのを感じていた。
まるで赤山家の一員になったみたいに、家族の食事会に紛れ込んだ時のこと。
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雪の父と母と弟に混じって、葉の色づいた秋の道を一緒に歩いた。
それでも自分はあの店の従業員で、家族になったわけじゃない‥。
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続けて浮かんで来たのは、地方で働いていた時の場面だった。
肉体労働はキツかったけれど、気の合う仲間と笑いながら日々を過ごした。
収入が少なくても、綺麗な服なんて着なくても、自分は自分だった。
恥じることなど一つも無かった。
「高卒認定試験を一度受けてみたらどうですか?」
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大学の図書館で、雪は自分に向かってそう提案した。
そんな彼女は名門大学の優等生で、自分は高校中退で学のないフリーター。
そんな現実を、じわじわと実感する。
「わ~これが大学なのね~」
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姉と共にA大内を歩いた時、彼女は初めて見る大学のキャンパスにはしゃいでいた。
自分だって初めて来た時は、ソワソワしながら音大の方へ足を運んだ。
そこは自分達姉弟にとっては、非日常の光景だった。
「ねーちゃんは超勉強頑張って、良い会社行くだろーねー
俺はどーしよー」
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軽く息を吐きながら、蓮はそう言った。
それでも彼は今アメリカの大学に通っている大学生で、自分とは違うのだ。
どんなに気安い間柄で、同じ冗談に笑い合っていたとしても。
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今まで気にしたことの無かったそれに、亮は今縛られていた。
心の中に居るのは、先程まで思い出していた高校時代の自分。
甘い夢を見ていた、将来あるピアニスト‥。
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あの頃にはおよそ持ち得なかったその感情が、今亮を縛っていた。
それは一人で生きている内は気づくことのなかった、劣等感という感情だった。
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<劣等感>でした。
淳もそうですが、雪と関わり合う中で無意識に自分が抱えていた感情に気づく、
というのがこの漫画の肝なのかなと思いました。
(亮の場合は劣等感、ピアノへの思い、淳の場合は孤独、狂った価値観など‥)
といってもまだ進行形でしょうが‥。
切ない亮さん‥。
次回は<夢の対価>です。
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亮さん、切ないです。
最後の高校時代の記憶と比較すると特に。
憎めない愛されキャラなので幸せになってほしい!
それにしても…亮さん散らかしすぎ…^^;
いやいやいや、そんなことより!笑
私、先輩と雪ちゃんがラブラブしてるとこを亮さんが目撃しても、あまり取り乱さないと思っていました。大人の余裕うんぬんではなく、まだそこまで雪ちゃんを恋愛的にみていない(人として、守ってあげたいと思えるヤツ、みたいな認識が強い…)と思ってました。が、バリバリ恋愛としてでしたね。笑
大学で、雪ちゃんのところへ走りだした時よりさらに増してますね!
いよいよ本格的に三角関係が…!?
(夏の終わりまでと聞いていましたが、もう少しのびそうですね!)
子供の歌です。fullの歌詞はこれ。
「アレリコレリ~アレリコレリ~
A子と~B助は~好きですって~好きですって~」
友達の名前を入れて歌ってください。
で、なぜかいきなり出てきてガキの歌でからかう亮さん。
亮さんも好きですが、これはさすが「何この謎の馬鹿は」と思いました。多分亮本人もそう思ったんでしょうね。
淳ちゃん雪ちゃんのこと、本当に好きですよねえ!絶対離したくないんだろうなぁ。別れて次の人ってなったら、その男を抹消しちゃうんじゃ‥‥
亮くん、切ないですね。亮くんが雪を見守る会のままだったら、まぁいいかって思ってたけど、やっぱ恋愛のソレですよね。雪ちゃんだってまんざらじゃないはずだものー。
どっちにとっても雪は貴重な存在なんだなぁ。
淳派の方がいて、亮派の方がいて、ファンもすごーくバランスがとれてますよねー!素晴らしい。
ここはもう最後は、二人に正々堂々と雪ちゃんをめぐってバトルしてもらって。二人のいいとこ、本音、本性を充分に出してゆきちゃんをくどき取り合ってもらって。変に後腐れがないくらいにやりあってもらえれば。
それで雪が選んだ相手なら、お互い本当はわかりあえる仲なんだからちゃんとそのことを認められるんじゃないかな?高校時代、二人は不器用なりにもちゃんと親友だったとおもうから。
このお話の最後は、雪が今後一緒にいる相手を選んで、なおこの二人がもう一度和解しあえるってゆう奇跡にて閉まれば絶対すっきりするんです。
どっちと付き合っても私たちの中で自ずとその後の生活は想像できるだろうから。それがファンっていうものですよねー。
最初から淳派でしたが最近の亮さん切ないです。雪ちゃんとのことは応援できないけども幸せになってほしいです。
亮と淳に何があったのか、まだ全然わからなくてもやもやもやもやもや~!!!!
サインボールは同級生にあげたのになんで部屋に飾ってあるのか、また別のサインボールなのか、静香の返してほしいものってあと何なのか、佐藤先輩の使い道はどこなのか、、、まだまだ謎がいっぱいです。
終わってほしくないけども結末を知りたいです!気になって仕事が手に付きません(笑)
ま、そうじゃないと物語は動かないとはいえ。
それにしても実にタイミングよく、お亮さんはこのカップルに遭遇しますよね。
で、劣等感がびんびん刺激されてしまう。。
ピアノがあれば土俵が違うし感じることもなかったのに、それをなくして今、改めて感じてしまう。
お亮さんと雪ちゃんがくっつかなくても、お亮さんには再生の道があってほしいですねえ。
日本版の更新が待ちきれずこのブログを発見し、休日をフルに使って読み漁っておりました。笑
本家の内容が面白いのはもちろんのことですが、筆者さんの解釈や小ネタも合わせてより楽しく読むことができました!本当に感謝です。
これからも更新楽しみにしております!
亮さんは本当に愛されキャラですよね。
地方で働いていた時の男の人(名前分からず)といい、塾講師の時に住んでいた下宿での仲間達(やはり名前分からず)といい‥。
幸せになってもらいたいです。
ぽこ田さん
道端でゴミ箱を蹴っ飛ばすという行動‥欧米はどうなんでしょうね。気になる所です。
そして亮さんの取り乱しっぷり‥。これは実は亮さん本人も予想外だったのではないですかねぇ。雪の笑顔が見られればそれでいい、と思っていたのに、二人の仲の良い姿を見て思いの外動揺してしまった‥と。。
これから雪を奪いに行くスタンスになるのか、引き続き見守り隊のままで行くのか‥気になる木です!
>CitTさん
亮さんのあの台詞は、子供の歌だったのですね~!
日本語では訳せなかったので、せめての「♪」付けにしました^^;
確かにあれは亮さん自分が恥ずかしくなりますよね‥。
>みこたさん
すごくスッキリとしたエンディングですな‥!
最後皆が別れてそれぞれの道を進むという感じのエンディングを想像していた私には、衝撃的な眩しさです‥!
一体いつ頃最終回なんですかねぇ。。気になる木!
>さくらさん
サインボールは、きっと同級生にあげたものの他にもいっぱいあったんじゃないですかねぇ。その中で、一番お気に入りの物を選んでとっておいた(そして雪ちゃんがそれを目にした)という感じかな、と思ってます。
静香は「全てを返して欲しい」と言ってますから、それこそ家も生活費も今まで通りの援助をまた期待しているんだと思いますよ~。自堕落生活アゲイン‥。
佐藤先輩は‥どうなったんでしょうね(笑)
>むくげさん
主人公がイケメン二人から‥という構図は少女漫画にはありがちですが、それだけでは無い複雑さがチートラにはありますよねぇ。。
>ゴリラさん
はじめまして~^^コメありがとうございます!
このブログに三連休を使い果たして下さって‥ありがとうございます^^
また遊びに来てくださいね~♪
淳は淳で、唯一の理解者が自分とは違うと知っても離したくないと思い、雪と心が通じたようでも本当は、自分は孤独であると知った。
雪と関わる中で淳も亮も、自分が無意識に抱えていた感情に気付く!
ずしんと来ました。すごいです師匠!
今までは二人とも、自分の置かれた状況を“自分は悪くない”“誰かのせいだ”“自分を守るためだ”と理由を付けて逃げられたけれど、今二人が気づいた孤独や劣等感は、もう誰のせいにも出来ない、自分で乗り越えなければならないことですよね。雪ちゃんが傍にいて慰めてくれたとしても、それでは一時の解決であって、孤独や劣等感や価値観やピアノへの想いは淳と亮それぞれのもの。静香の荒れた生活や精神状態にしても同様だと思います。
何というか、無意識にしていた悩みや辛さや呪縛みたいなものを、淳も亮も自分のことであると意識してしまったわけですよね??? いまさらそれらから“意識的に”逃げられないですよね!?
そして多分、静香も今の荒れた生活や精神状態を自覚したら、それらも結局は(100%ではないにしても)自分のせいだと気付きますよね!?
何が言いたいのか分からなくなってきました・・・。もうおいとまします。
これから静香も絡んで、雪ちゃんがどんな関わりを持っていくのか、どんなふうに乗り越えていくのか、雪ちゃん達に(佐藤先輩・秀紀兄さんも含めて!)どんな未来が待っているのか、早く先が知りたいです。(でもチートラは終わらないで欲しいな・・・) 考えたくせに全然まとまらなくてすみませんでした。
本当そうですね。それを彼らに気づかせる為のここまでの200話かと思うと、その繊細な心情の動きを描き続けたスンキさんすごいな‥と思わずにはいられません。
静香もどうにか今のままじゃダメだということを自覚して欲しいですよね‥。それに佐藤先輩がキーにならないかな‥と期待している私です。
ラスト、気になりますね~!