『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は第12回目です。
◆骨髓骨膜炎
鮎川氏は、骨髓骨膜炎についても、漢方薬で簡単に治ると断言していますが、この病気はあまり聞いたことがないという人も多いと思いますので、まずは病気の説明から始めたいと思います。
最初に解剖学的な説明ですが、『日本鍼灸学教科書 前編』(山本新梧:著、関西鍼灸学院出版部:1937年刊)という本によると、骨髄(こつずい)は柔軟な物質で、その色により赤色骨髄と黄色骨髄の2種類に区別されるそうです。そして、大人の場合は、赤色骨髄は長骨(手や足などの長い骨)の骨端・肋骨および頭蓋骨の海綿様質中に存在し、黄色骨髄は長骨の髄腔内を満たし、血管・神経に富むそうです。
なお、海綿様質と髄腔については下の図を参考にしてください。
【骨の断面図】(山本新梧:著『日本鍼灸学教科書 前編』より)
一方、骨膜(こつまく)は、関節面以外の骨の表面を包む白色の強靭な繊維膜で、血管・神経に富み、骨の栄養・新生および再生に深く関係していて、骨が損傷を受けたり疾患にかかった際に治癒するのはすべてこの骨膜の作用によるそうです。
次に病気の説明ですが、『近世整形外科学』(桂秀三:著、金原商店:1927年刊)という本によると、急性骨髄炎は、主として小児並びに壮年者がかかる感染症で、通常高熱を出すことから始まり、患部の疼痛がはなはだしく、多くの場合1個もしくは数個の長骨の骨幹が侵され、患者は重篤な全身疾患の状態となるそうです。
また、慢性骨髄炎は、多くは急性骨髄炎より移行し、まれに慢性から始まることもあるそうです。そして、「兩者共ニ畸形ヲ残スヲ以テ著名ナリ」と書かれているので、急性・慢性にかかわらず、当時の西洋医学では不具者となることが避けられなかったようです。
さて、話を『漢方の味』に戻しますが、あるとき、小学生の頃から知り合いの農家の主人が、妹夫婦の娘が骨髓骨膜炎にかかったので往診してほしいと、妹婿(むこ)を同伴して鮎川氏の医院を訪ねてきたそうです。
そこで詳しい事情を尋ねたところ、実は、以前この少女の姉が骨髓骨膜炎にかかり、入院して外科専門医に手術をしてもらったのですが、治るには治ったものの、手術を繰り返して結局不具者になってしまったのだそうです。
そして、今度は次の娘が、数日前から足が痛み始めて、昨日は40度以上の発熱があり、姉の病気と同じだということで妹夫婦が手術の相談に来たので、鮎川氏の評判を知っていたこの主人が、とにかく鮎川氏の意見を聞きたくて来院したそうです。
そこで鮎川氏は、妹夫婦の家があいにく遠方で不便な場所にあったため、当日の往診は無理だと判断し、小柴胡湯と桃核承気湯の合方に石膏(せっこう)を加味して7日分を与え、2、3日たっても良くならないようだったら往診すると約束したそうです。
すると、主人は1週間後に来院して、2、3日で患者の疼痛も去り熱も下がって、もう苦痛はないが念のため薬をあと7日分飲ませたいと非常に喜んでいたので、それでは足らないからあと2、3か月は飲ませるように勧めたそうですが、結局1か月程度でやめ、それでも何の故障も起こらなかったそうです。
また、別なときに、17歳の少年が母親と来院し、この少年が毎年骨膜炎にかかるので困っていたが、鮎川氏のところなら必ず治してもらえるという話を聞いたことを伝えると、鮎川氏は「何でもありませんよ」と答え、小柴胡湯と桃核承気湯の合方に桔梗(ききょう)を加えて投薬したそうです。
この少年は、薬を2か月程度服用したそうですが、非常に結果が良く、その後この親子が紹介してくれる患者が絶えなかったそうです。
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今回登場した小柴胡湯は本ブログの「蓄膿症」で、また桃核承気湯は「風邪と脳膜炎」でそれぞれ解説していますので、よかったら参考にしてください。
また、『民間治療法全集 第二巻 和漢洋自療薬営養療法全集』(平田内蔵吉:著、春陽堂:1931年刊)という本によると、石膏は、胃を冷やし頭痛を消す清涼・解熱薬で、桔梗は、気血を開き肺に入って熱を瀉(しゃ)し膿を排し痰を去る薬だそうです。
インターネットの情報によると、急性骨髄炎は抗生物質のおかげで治療効果が上がっているものの、慢性骨髄炎は現在でも治療が難しいそうです。その難病を、漢方医は昔から漢方薬で簡単に治していたというのは驚きですね。
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