ふぶきの部屋

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韓国史劇風小説「天皇の母」146(春のフィクション)

2014-03-14 09:00:00 | 小説「天皇の母」141ー

アイコは一人で何かに夢中になっているようだった。

声をかけてみたが、返事がない。

反応も示さない。

まるで関心がないかのようだ・・・・そう、彼女は関心がない。

「親」に。親である自分に。

体をつついてみる。

アイコはびくっと震え、それから片手でぱしっと手を払いのけ

奇声を発し始めた。

どうかなさいましたか」

育児担当の女官が駆けつける。

マサコは思わずアイコに手を上げようとした。

妃殿下

呼ばれてはっとする。

向こうへやって」

アイコはそそくさと女官に連れて行かれた。

大きくため息をつく。もう捨ててしまいたい。こんな子は。

捨てて・・・・」

そのつぶやいた時、自分の中に嫌な思い出が蘇り、マサコはへたへたと

座り込んだ。

生まれた時から「捨てられるのではないか」と思っていたのは自分の方だった。

男子を望んでいた父にとって「女」である自分は期待外れもいい所だった。

三歳下の双子の妹達にかまけて母はマサコをまともにみようとしなかった。

父は「成績がよければ愛してやろう」と言った。

だから、何が何でもと思って頑張ったつもり。

でもそれは砂上の楼閣のようで、嘘に嘘を塗り固めたようなもの。

元々才能がないのに、あれもこれも「出来る」と吹聴しなくてはならないつらさ。

何も出来ない自分を誰も認めてくれない現実。

幾度もそんな事で苦しんだ夜があった。

見捨てられる・・・・・そう思うと体中の血が逆流して吹き出して大量の血が

流れそうになるのだ。

 

皇太子妃に決まった時の父の喜びようといったら。

私は将来の皇后の父、将来の天皇の祖父。オワダは私が再興した」と。

だけど、そんな笑顔も結婚式までだったかも。

結果的にはなかなか子供が出来なくて失望させた。

女なら結婚して子供を産むのは当たり前の事だ。

学歴も成績も才能も必要がない。誰にだって出来る事。

その誰にでも出来る事が出来ないーーこれは一体何の罰ゲームだろう。

けれど、「皇太子妃」という立場だからこその特権もある。

それは「誰にも責められない事」だった筈。

天皇や皇后ですら、自分を腫れ物のように扱うのだ。

自分がどんな無茶をやってもいいから「子供を産んでくれ」と。

だから嫌でも仕方なく不妊治療を受けたのに。

 

生まれたのは女の子だった。

父の絶望したような顔が思い出される。

金屏風の前で、まるで「何かを失ったかように暗い顔」で記者会見をした父。

あれを見た時、自分が生まれた時も、あんな風な顔をされたんだろうなと思った。

アイコが不憫だった。可哀想だった。

この子は何も知らない。知らずにただこの世に生み出されて来たのだ。

自分の意思と関係なく。

天皇も皇后も失望を顔に出さないよう頑張っていたけれど、自分にはわかる。

あれもまた「失望」だった。

そう思うと、「おうぶめし」と呼ばれる皇后が作った小石丸で出来た産着ですら

着せるのが嫌になり、もっともっと可愛らしくて高級なベビー服にしてあげた。

 

娘でも「女帝」になる確率はゼロではない。

だって他に誰もいないのだから。

父もそのつもりだ。

アイコが生まれた時から始まった女帝キャンペーンはその為だったのだ。

 

なのに。その娘が「自閉症」

結婚して10年。娘を生み、それが「盾」となって自分を助けてくれるはず。

それなのに自閉症。

この子は一生、自分に笑いかけたりしないのだろうか。

目を合わすことなく、自分の世界に閉じこもって・・・・

ダメだ。見捨てられない。

あの子の後姿は小さい頃の自分。

誰に顧みられることなく、一人の世界に生きる。

 

マサコの体から急激に力が抜けていくのがわかった。

何だか笑える。

10年も皇室で頑張って来たのに結果がこれとは。

自由を失い、学歴もないくせに偉そうな態度の人達にあれこれ言われながら

嫌いな事ばかりしてきた。

祭祀も公務も・・人と会う事すら嫌いななのに。

しかも結婚した相手があんな・・・・つまらない男。

この10年はなんだったろう。

無駄で無機質で無理だった。

もうやめよう。ここまで頑張ったんだからもういい筈。

 

春の那須御用邸は静かだった。

あまりに静かすぎた。

誰も一歩も付属邸から出ない。春の花が咲きみだれても

誰も気にしない。

ただただ、マサコは部屋に閉じこもって何もしなかった。

せいぜい寝てるか、だらだらと食事をしているか。

東宮家ではすでに時間がきちんと定まらなくなった。

その場その場でスケジュールが変わり、マサコの気まぐれに皇太子も

側近も振り回されている。

しかし、皇太子は何も言わなかった。ただただじっと耐えて、マサコが部屋から

出てくるのを待っていた。

まるでそれが仕事であるかのように。

なぜなら「黙って待つ」事だけは誰にも真似できない彼の特技だったからだ。

何かを解決しようとは思っていなかった。

そもそも問題意識すらないのだ。

マサコの深い憂欝が、何かの予兆になるなどとはその時は誰も考えていなかった。

 

ツツミ医師が「研究費流用」で告発され、やがて医学界から消えた。

真偽のほどはあからない。

けれど、これは報復ではなかったか・・・・と、巷では噂になっていく。

誰の報復?

「嫉妬よーー」と巷の井戸端会議では軽く言われるけれど

それがまさか日本最高の格式をもつ家の中での陰謀であった事を

知る人はいない。

 

マサコはまだあきらめたわけではなかった。

 

コメント (11)
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