春の風景 水本爽涼
(第六話) ブロンズ・ウイーク
毎年のことながら、ゴールデン・ウイークが近づいた。云う迄もなく、四月下旬から五月上旬にかけての長期休みである。この場合のゴールデンは、僕達子供に対してではなく、サラリーマンの一部大人に限ってのみ有効な、云わば、贔屓(ひいき)言葉ではあるまいか。同じ大人でも、自営業や農林、水産、サービス業等の方々には余り関係がない。むしろ、迷惑千万! と怒る人々も多いように思える。ゴールデンなどと誰が名づけたのかは知らないが、ブロンズぐらいが妥当なようだ。僕もじいちゃんに似て、随分、愚痴っぽくなったように思うから、この辺りでやめたいが、やはり、云い始めた以上は、もう少し続けたい。僕達子供にしたって、夏休みのような連続ではなく、ただ半月ばかりの間に祝祭日と日曜の休みが多い…というだけで、金にはとても届かない銅ぐらいに思える。
「去年は渋滞で難儀したからなあ…。今年は遠出は控えるか…。ETCの値引きで、恐らく高速は滅茶、混むんじゃないか?」
「ええ…。私もそう思うわ」
そこへ、じいちゃんが離れからやってきた。
「なんだ? 偉く賑やかじゃないか。何か、いいことでもあったのか? 恭一」
「いえ、そうじゃないんです、お父さん。連休の遠出はやめようか…と、未知子と話してたんですよ」
「ほぉ…。儂(わし)とは関係ない世界の話か…」
じいちゃんは急に卑屈になった。僕は、何とかその場の雰囲気を和らげようと、健気(けなげ)にも画策した。
「僕は、どうだっていいよ…。じいちゃんと遊ぶから」
このひと言はクリーン・ヒットとなり、センター前へ転がった。
「そうだな、正也! じいちゃんと遊ぼう」
じいちゃんは俄かに元気を取り戻した。
その後、僕はじいちゃんの離れに連れていかれた。じいちゃんが、貰った菓子がある…と云うので、僕は釣られた格好だ。まあ、僕的には、釣られた風に見せて、じいちゃんの機嫌を保持しよう…という計算を働かせての行動なのだが、当のじいちゃんは、そうとも気づかず、素直に付いてきた僕を見て喜んでいた。
さて、その後のブロンズ・ウイークがどうなったかについては、次回、改めてお話しすることにしよう。
じいちゃんの離れには刀掛けがあり、本物の大小二刀が飾られている。勿論、美術刀ではないから、警察に登録済みの二振りである。僕が菓子を有難く頂戴している間、じいちゃんは微笑みながら刀に打ち粉をして紙で拭う。これこそ武士のゴールデン作法だ…と思いつつ僕は見ていた。じいちゃんの頭が蛍光灯の光を浴びて某メーカーの洗剤Xで磨いたように金色に輝く。じいちゃんとの休みは、正しくゴールデン・ウイークとなりそうで、決してブロンズではないだろう。
第六話 了