靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第四十二回
「それより直さん、さっきの話を詳しう…」
束の間、四人の手の動きが滞った。
「…、おまはんらな、幽霊は信じるか?」
また蛸の足のように八本の腕が動きだし、牌をジャラジャラと掻き回し始めた。
「いや、信じんなあ、正直、言うて…」
すんなり言ってのけたのは熊田である。振り込んだ直後で多少、気落ち気味のローテンションだ。そう言われると、直助も返す言葉がない。肉屋の河北は黙っている。勢一つぁんは敏江さんが気になるのか、絶えず外を気にしている。やはり怒られるのは苦手のようだと直助は思ったが、そのことは言わなかった。
「枕元にそんな霊みたいのが立ってたと思てえな…」
「思えんけど、まあ、それで…」
熊田は一応、否定しておいて、話を促す。
「自分では知らなんだんやけど、フッと夜中に目が覚めたんや…。肩を撫でられた感じもするし、さらに、頭のうしろが、ちょっと明るうなったように思えたんで、布団を除(の)けて振り向いたんやわ…」