水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第四十二回)

2012年06月06日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第四十二回 
「それより直さん、さっきの話を詳しう…」
 束の間、四人の手の動きが滞った。
「…、おまはんらな、幽霊は信じるか?」
 また蛸の足のように八本の腕が動きだし、牌をジャラジャラと掻き回し始めた。
「いや、信じんなあ、正直、言うて…」
 すんなり言ってのけたのは熊田である。振り込んだ直後で多少、気落ち気味のローテンションだ。そう言われると、直助も返す言葉がない。肉屋の河北は黙っている。勢一つぁんは敏江さんが気になるのか、絶えず外を気にしている。やはり怒られるのは苦手のようだと直助は思ったが、そのことは言わなかった。
「枕元にそんな霊みたいのが立ってたと思てえな…」
「思えんけど、まあ、それで…」
 熊田は一応、否定しておいて、話を促す。
「自分では知らなんだんやけど、フッと夜中に目が覚めたんや…。肩を撫でられた感じもするし、さらに、頭のうしろが、ちょっと明るうなったように思えたんで、布団を除(の)けて振り向いたんやわ…」


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