水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第五十八回)

2012年06月22日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第五十八回 
 恐らく、社員の人事簿か何かだろう…と、直助は山本のファイルの内容を推察した。
「…ああ、これですね。溝上早智子…確かに二十年少し前、この地へ異動してます。え~と…怪(おか)しいなあ…。そんな馬鹿なことはないだろ。…いや、確かに、怪しい」
 山本は自問自答している。
「どうか、されましたか?」
「いえね…、この社員、まだここで働いてることになってるんですが…、この支社には今現在、こんな社員はいませんしねえ…」
 妙な出来事の全貌が少しずつその姿を現そうとしていた。
「何かのお間違いじゃ?」
「ええ。とは、私も思うのですが…」
 精悍な顔つきの山本は、鬘(かつら)のように脂ぎったポマードべったりの黒髪を軽く撫でつけながら、そう丁重に言った。
━ そんな馬鹿な話はないだろう… ━
 直助は早智子と音信が途絶えた二十年以上前に想いを馳せた。


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