水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第四十七回)

2012年06月11日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第四十七回 
「そんなことされる憶えもないしな。二度、三度と同(おんな)じことが起こると、これはもう幾らなんでも気色悪いがな…。ほんでもまあ、別に暮らし向きに困るようなことも起こらんよって、そのままにしといたんや。そのあとは、しばらく忘れとったんやけど、さいぜん話した幽霊らしいのが昨日の夜中にでたと…まあ、そうゆうこっちゃ」
「なるほどなあ~」
 同じように得心した声が、異口同音に三人の口から洩れた。
「ちょっとは信じてもらえたかいな」
「んっ? ちょいとは、な…。そやけど、やっぱしなあ~…」
 勢一つぁんは煙草を燻(くゆ)らす。鍵熊は煙草をやめたから食い気の方がもっぱらで、茶菓子の煎餅をバリバリと齧る。肉屋の河北は借り物の猫で、控えめに茶を啜るのみである。商店会長の小川文具店は、眠いのか大欠伸をしている。この瞬間は各自の性分が現出した。
 突然、ガラッ! と表戸が開く音がした。
「珍しいなぁ、お客はんかいなあ」
 敏江さんが暖簾を潜(くぐ)って店へ行こうとしたとき、反対に入ってきた男がいる。米屋の村川である。


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