水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第四十三回)

2012年06月07日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第四十三回 
「いたんやな、それが…」
 怪談を聞くような少し怖ろしげな声で勢一つぁんは小声を発した。あとの二人、熊田と河北は、無言である。
「そやねん…」とだけ直助が言うと、完全に麻雀は止まってしまった。各自が考え込む姿で数秒が過ぎていく。その冷めた雰囲気を拭い去らねばならない。
「ははは…まあ、そんな深刻な話でもないんやけどな。それにしても、筆が進まんのがキツイわ…」
 直助は、場を和らげるひと言を投げ入れた。
「あっ、そやったな。直さんはモノ書きもしててんな」
 勢一つぁんも元の表情に戻った。
「ただいま、あんた帰ったで」
 そこへ畑仕事を終えた敏江さんが入口(店と部屋の境)の暖簾を潜って戻ってきた。急に勢一つぁんの顔色が曇ったように直助には思えた。
「あんた、店番頼んだのに、またこんなことしてんのかいな」
「そう言(ゆ)うな。商店会の付き合いやないか。皆(みな)で今後のことを話してんにゃがな」
 勢一つぁんも負けてはいない、一応、反発して返す。


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