靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第六十六回
「まあ、ボチボチ聞かしてもらおうかいなあ…」
直助が食べ終えて茶を啜っているところへ八田が現れた。タイミング的には間合いを計って的確である。直助とふたたび対峙して椅子へ腰を下ろすと、先程とまったく同じ姿勢で直助の様子を窺った。ある種、刑事の取り調べの感がしなくもない。
「え~と、どこまで話したんかいな?」
「んっ? ワシも忘れてもたがな」
二人はニンマリとしたが、話の糸口が分からない。
「まあ、ええわ。とにかく、今晩も危ないんやわ。繁さんとこで泊めてもらいたいぐらいで…」
「えぇ~、そない深刻なんかいな。強(あなが)ち冗談、言うてるとも思えんにゃけど…」
「そやねん。今晩も音がして枕元に立たれたら、もう家に住めんがな」
「順序立てて、もういっぺん言(ゆ)うてえな。さいぜんは悪いけど、ええ加減に聞いとったで…」
直助は事の顛末(てんまつ)の一部始終を詳しく語った。話が進むにつれ、八田の表情に険しさが増していった。店の壁掛け時計が七時を指していた。