水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第五十七回)

2012年06月21日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第五十七回 
 直助は、コトが穏便に進みそうなのでホッとしていた。そして、もう一人の受付嬢に案内され、一階のロビーで待つことになった。
 五分ばかりして、直上直下するエレベータードアが開いて、中から一人の男性社員らしい男が降りてきた。そして、直助の前に立った。
「あっ、お初にお目にかかります。私、こういう者でして…」
 手渡された名刺には、総務部人事課、山本貢とあった。肩書きは、名の上に小さめの文字で、”係長”と印字されている。
「生憎、名刺は手元にはございませんが…、私、坪倉直助と申します」
 手元どころか、店にもどこにもないのだが、直助は咄嗟(とっさ)に、そう言った。
「はあ…。話の向きはお伺いしております」
 山本は少し離れ、ドッカと直助の対面にあるソファーへ腰を下ろした。そして、手にしたぶ厚い黒ファイルを繰って、中の名簿資料らしきものを指で追った。
「…、二十年も前になりますと、現在その者が当社で働いていたとしても、すぐに突き止められる、という訳には、いかないんですよ…」


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