水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第五十六回)

2012年06月20日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第五十六回 
思いの丈を、ぶつけるのだ…。要は早智子の情報さえ得られれば、それでいい。問題はどう切り出すか…なのだが、取り敢えずは軽くいこうと決めた。
「あのう…実はですね。以前ここで働いておられた溝上早智子さんという方のですね…ことを御訊きしたいと思いまして…」
「溝上でございますか? その者は当社の社員なんでしょうか?」
「ええ…、その筈ですが…」
「で、その者にどのようなご用件で?

「はあ、実はですね。お話しすると長くなるんですが、…あのう私は坪倉直助と申しまして本屋でございます。もう随分と前、そう今から、かれこれ二十年も前になりましょうか。その溝上さんの注文で、書本をお売りしたのですが…。ここでは、ちょっと言い辛い事情がありまして、現在働いておられる所だけでも知りたいと思いまして…」
「…、二十年前ですと今、当社で働いているかどうか、分かりませんね…。なんでしたら人事の者に応対させますから、しばらくお待ち戴けますか?」
「ええ、是非とも、よろしくお願い致します」


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