水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第四十六回)

2012年06月10日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第四十六回 
 直助は勢一つぁんの問いかけを否定した。
「いやな、ことの始まりは電話と物音なんやけどな」
「電話と物音?! なんや、それは?」
 鍵熊の熊田が身を乗りだす。
「妙なことが起こりだしたのは、天井裏の雑音からなんやわ。初めは鼠でもおんのかいなて思おとったんやけどな、強(あなが)ち、そうでもないようでな。それにな、その雑音のあとには、必ず無言電話が、かかりよるねん」
「ほお~」
 今度は肉屋の河北が相槌を入れた。
「でると、切れてる風でもないんやが、応答がない」
「イタズラか?」
 勢一つぁんの顔が真剣味を帯びだした。もちろん、他の三人も同じである。部屋内は直助の次のひと言を待つかのように静穏になった。


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