靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第四十六回
直助は勢一つぁんの問いかけを否定した。
「いやな、ことの始まりは電話と物音なんやけどな」
「電話と物音?! なんや、それは?」
鍵熊の熊田が身を乗りだす。
「妙なことが起こりだしたのは、天井裏の雑音からなんやわ。初めは鼠でもおんのかいなて思おとったんやけどな、強(あなが)ち、そうでもないようでな。それにな、その雑音のあとには、必ず無言電話が、かかりよるねん」
「ほお~」
今度は肉屋の河北が相槌を入れた。
「でると、切れてる風でもないんやが、応答がない」
「イタズラか?」
勢一つぁんの顔が真剣味を帯びだした。もちろん、他の三人も同じである。部屋内は直助の次のひと言を待つかのように静穏になった。