水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第五十四回)

2012年06月18日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第五十四回 
 昼前まで時間を潰して、皆帰っていった。誰も店の方は奥さん連中に任せているから、そんなに慌てた素振りでもない。おっとり刀、とはよく言ったものだが、急いで帰ったところで、客の応対に追われる心配? も、ないからだ。それほどの客足があれば、皆が困ることもない訳である。
 昼飯は適当に残りもので済ませて、直助は店を閉めて例の気がかりな早智子のことを調べてみようと思った。以前、といっても、もう二十年以上前のことだが、早智子の勤めていた和田倉商事を目指した。和田倉商事も今では別の敷地に豪壮なビルを建て、営業している。生活関連機器だけでなく、最新のIT関連にも手広く進出して大層、儲けているらしいと、風の便りに聞いていた。直助は早智子の知り合いということにして、出身地、出来れば現住所などを探ろうと思っていた。
 秋の心地よい風が流れるなか、自転車を繰ると、陽光と青空も味方して非常に気分がいい。和田倉ビルは直助の住む町としては突出して大きなビルである。他にも二、三の近代的なビルがここ数年前に次々と建てられたのだが、和田倉ピルはその中でも最も大きいビルといえた。
 駐車場は大きく、厳然として存在したが、果して駐輪場はあるのか、ないのか…その辺りのところが分からない直助である。取り敢えずはビルの隅の空きスペースへ自転車を止めた。


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