水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第五十三回)

2012年06月17日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第五十三回 
 誰に言うともなしに、直助は話題を変えた。
「ほやなあ。この前の寄り合いのときは、なんとか考えるわって言(ゆ)うたはったけど、あれからもう、ひと月は経つでなあ」
 鍵熊が枝豆の繊維が挟まった歯茎を、楊枝でシーハーさせながら、ぼんやり言った。
「この界隈の町並みを飾り立てて…とか考えたはるみたいやで」
 肉屋の河北が脂肪太りした腹をボリボリと掻く。勢一つぁんは、一度消して半分残した煙草に、また火をつけて燻(くゆ)らせている。
「まあどっちにしても、結論を早う出してもらわんとな。わしらは小山はんが考えはった案なら、それで協力させてもらうにゃさかい」
「ほやな。いつまでもこのままでは、ジリ貧になるしなあ…」
 勢一つぁんの言葉に直助は賛同した。上手い具合に幽霊の一件は、もう忘れられているようだ。内心、直助はやれやれ、と思った。この話は自分で調べてから話題にすべきだった…と、直助は今になって後悔していた。


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