靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第三十八回
「幽霊話? なんかそんな映画でも封切りになんのかいな?」
思案顔は消え、勢一つぁんはもうニタニタと笑いだした。
「いや、そやないにゃ。今日寄せて貰(もろ)たのは、実は、そのこっちゃ」
「なんやいな、面白そうな話やないか」
勢一つぁんは身を乗り出した。
「ちっとも面白うないんや、それが…。信じて貰ええへんと思うけどな…」
直助としては、馬鹿げた怪談風の子供話を真顔で話すのも気が引けた。
「勿体ぶらんと言(ゆ)うてえなあ~」
開演を今か今かと待ちわびる客の心境なのだろう。勢一つぁんは、少し、じれていた。
「でたんや…」
「…なにが? よう分からん?」
「いやな…、コレが…」
直助は両手首を垂らす幽霊の格好を真似て、両手を胸元へ上げた。