水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<49>

2015年06月01日 00時00分00秒 | #小説

 年が改まり、小次郎は、イソイソとみぃ~ちゃんの別邸から帰ろうとしていた。辺りには、どことなく新年を祝う佇(たたず)まいが見られる。誰が揚げているのかは分からないが、最近では見られなくなった凧(たこ)が珍しく木立(こだち)の上に垣間見えた。もちろん、ゲ-ラーカイトと呼ばれる洋式凧だったが、小次郎には正月を思わせた。里山家近くまで来たとき、公園から風来坊猫の海老熊が出てきた。
『おお! これは若い衆じゃねえか、めでてぇ~な』
 なんという挨拶だ…とは思えたが、小次郎としてはコトを荒げたくない。晴れて、みぃ~ちゃんと所帯を持てる運びになっているからだった。
『いや、これは海老熊の親分さん。今年はこちらでお迎えでしたか…』
『ああ、まあな。ここは居心地がいいからな。結構、美味いものもあったからよぉ~』
 どこの家かは分からないが、食べ残した生ゴミを無造作に捨てる家があるようで、海老熊はそれに味を占めたのだ。
『それじゃ、僕はこれで…。ちょっと、用ありで急ぎますので』
 小次郎の言葉は、その場の言い逃(のが)れではなかった。里山が今日はみぃ~ちゃんとの結婚衣装を誂(あつら)え、その衣装が届く日だったのだ。
『えれぇ~攣(つ)れねぇ~じゃねえか、若いの。おおっ!』
 海老熊は小次郎の前を遮(さえぎ)って、居丈高(いたけだか)にニャゴった。人間なら凄(すご)んだ・・となる。いい塩梅(あんばい)の浮かれ気分で漫(そぞ)ろ歩いていた小次郎としては、思いもよらぬ難儀(なんぎ)だった。


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