小次郎が股旅(またたび)の話を伝えたとき、里山は腕を見た。
「おっ! いけない、忘れてた。小次郎、戻るぞ! あと10分ほどで、家(うち)へ取材が来るっ! 先生! いずれまた小次郎の立国話でも…」
言葉と同時に里山の足は公園の出口へ向かっていた。出口とはいえ、荒れ放題となった今は、どこからでも出入りできたのだが…。
『ニャァ~~!』
股旅は猫語で、どうも有難うござった・・と里山へ返した。だが、その時すでに里山の姿は用具入れ場にはなかった。
『立国話と言ってござったのう…』
『そうですね…。じゃあ、先生! 僕もこれで。結構、忙しいでしょ?』
『そのようじゃのう…。また、いずれ』
小次郎は股旅の言葉を聞いたあと、疾風のように里山家をめざし駆け去った。
里山家に詰めかけた週間誌の取材陣は夜分(やぶん)のこともあり2名だった。女性記者とカメラマン1名である。取材内容は、小次郎がふたたび学会でもて囃(はや)されている種の起源に関するものだった。学会説は二分(にぶん)したまま時が流れていた。その説とは、いつやらも登場した突然変異説と進化説である。進化説を唱える学者達は、ガラパゴス諸島にみられるような独自の進化を辿(たど)った・・というものだった。しかし、里山が住む近郊は他の地域と隔離されているとも言い難(がた)く、最近では突然変異説が有望視され、学者達の間に定着しつつあった。