水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<19>

2015年06月21日 00時00分00秒 | #小説

「まあ、ある意味の立国宣言ですよ、ははは…」
「はあ? …」
 中宮は里山の言葉が理解できず、笑って流した。
「リハの時間が迫ってますので…」
「ああ、そうなの? それじゃ、私はこれで…」
 駒井が助け舟を出し、中宮は歩き去った。駒井も里山が言った立国の意味を理解できなかったのだが、リハサール開始の時間が迫っているのは事実だった。里山と小次郎はその後、無事に収録を終え、帰宅した。局の駐車場で運転手兼雑用係の狛犬(こまいぬ)が大鼾(おおいびき)で寝ていたのは言うまでもない。
 数日が過ぎ、里山の家近くに、ちょっとした変事が起きた。変事といっても里山と沙希代夫妻に直接、影響が出る悪い出来事ではない。話はかなり前に遡(さかのぼ)るのだが、放浪旅を続ける老俳猫の股旅(またたび)が立ち寄ったのだった。小次郎が住む街へ遠方からやってくる猫は、与太猫のドラやその手下のタコ、それに風来坊の海老熊といった概して悪猫だったが、股旅だけは小次郎が先生と呼べる高級猫だった。
 小次郎が家前を歩いていると、ひょっこり、その股旅に出くわした。
「いやぁ~先生、お久しぶりでございます。いかがされました?」
『いや、なに…。いい風景があったもんだから、つい長居してしまいました』
 股旅は俳句作家風に少し品(しな)を作って答えた。


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