『いえ、決してそのような…』
触(さわ)らぬ神に祟(たた)りなし・・という言葉が小次郎の頭に瞬間、浮かんだ。このとき、小次郎は、もう駄目だっ! と半(なか)ば諦(あきら)めていた。一度、目につけた獲物は逃(のが)さない海老熊の悪(あく)どい風聞(ふうぶん)を耳に挟(はさ)んでいたからだ。みぃ~ちゃんと上手(うま)く所帯をもてたとしても、この海老熊に、『おう! 楽しそうに暮らしてるそうじゃねえかっ!』などと、ネチネチ付き纏(まと)われるに違いなかった。
だが、小次郎には天から授(さず)かった天運が備(そな)わっていた。そのとき警らで巡回するぺチ巡査とツボ巡査が通りかかったのである。
『こらっ! 海老熊! また、なにか悪さをしてるなっ?!』
若い交番猫のツボ巡査が海老熊を一喝(いっかつ)した。
『嫌ですよ、旦那。あっしゃ、偶然通りかかっただけですよ、へへへ、それじゃ…』
海老熊は疾風(はやて)のように駆け去った。
『あいつ、ドラより逃げ足が早かったな…』
ぺチ巡査はそう言うと、海老熊が駆け去った方向を見ながらヨイショ! と重そうに腰を下ろした。ドラ、タコ、そして海老熊と、小次郎は三度もみかん箱交番の猫巡査に助けられたのだった。
その後、どこへ消えたのか、風来坊猫の海老熊が現れることはなかった。
そして、小次郎とみぃ~ちゃんは尻尾を寄せ合い[人間だと手と手を取り合い]、ニャゴニャゴしい家族の第一歩を歩み始めた。めでたし、めでたし・・である。
第④部 <家族編> 完