水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<1>

2015年06月03日 00時00分00秒 | #小説

 何が因果か分からないが、子供のおままごとのような小次郎とみぃ~ちゃんの新婚生活がしばらく続いていたある日、小次郎の生まれた素性が判明する出来事が起きた。里山や小次郎、それに新妻のみぃ~ちゃんにすれば直接、生活に影響が出るような風聞(ふうぶん)ではなかったが、その話は例のみかん箱交番のぺチ巡査の退職送別会パーティの席で世間話として出たのだった。人間とは違い、猫達の寄り合いパーティだから、里山が出席したような帝都ホテルの鳳凰の間のような華やかさはなかった。小次郎が里山に頼んで買い求めてもらった市販の肉や魚のオードプルと猫缶などのなんともシンプルなパーティだった。会場も里山家横の公園である。ここは言わずと知れた誰も来ない廃墟(はいきょ)的な公園だったから、心おきなくニャゴニャゴとニャゴれる環境だった。ニャゴニャゴとニャゴれるとは、人間で言えば、ああやこうやと雑談が出来る・・となる。パーティは酒ならぬマタタビも出て、猫交番関係者と知人ならぬ知猫達で大いに盛り上がっていた。
『ははは…、いやいやいや、ごくろうさんでした、ぺチさん!』
 里山が住む街を取り仕切る猫内(びょうない)会の会長、人間で言えば町内会の会長が慰労の言葉をぺチ巡査にかけた。もちろん、猫だけに分かる猫語である。猫内会の会長はかなりの老猫だった。小次郎夫婦も招待され、その話を横で聞きながら同席していた。
『いやぁ~、これは会長さん。不束者(ふつつかもの)で申し訳ございませんでした。長らく有難うございます』
 ぺチ巡査は丁重に猫内会の会長に返礼した。


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