「先生は今の我が国を、どうお思いでしょう?」
小次郎はすぐに通訳し、股旅(またたび)へ伝えた。
『ふ~む…そうですな。まあ、なんと言いますか、それ、アレです、ナンですな。つまり、ひと言で言えば、今の平和でなんとなく生きれる日本には覇気(はき)がないといいますか…』
股旅は猫語でニャニャァ~~と語った。小次郎はそれをすぐ里山に通訳した。
「なるほど…」
『平和でなんとなく生きることが出来ない国々、それらの国々に生きる人々は日々、必死なんですぞ。今の日本人は極楽でござる。そんな極楽の国で生きられることを皆、喜ばニャ~いけません。ポイ捨てて、このような素晴らしい国を自(みずか)らの手で汚(けが)しておる。私(わたくし)から言わせれば、アホ、バカ、チャンリンでござるよ。昔風に言えば、ウツケ、間抜け、タワケ! でござるかな、ホッホッホ…』
長々と流暢(りゅうちょう)にニャゴった挙句(あげく)、股旅は軽く口毛(くちげ)を動かして笑った。
「ははは…、それはまあ、正論でしょうが。人間には、いろんなのがいますから…」
小次郎は、すぐに里山の言葉を猫語で股旅へ通訳した。
『う~む、さようでござるな。いろいろのがいるようです。大の大人にポイ捨てられ、我々、動物達は弱っております。…そうかと思えば、大事にされるみぃ~ちゃんみたいなのもおりますからな。人間、様々でござるよ』
股旅は、ふたたび長々と流暢にニャゴり続け、喉(のど)が渇いたのか、里山が缶詰の横に置いた空き缶の水をぺロぺロとやった。