水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<17>

2015年06月19日 00時00分00秒 | #小説

 立国しなさい! と里山に言われた小次郎だったが、数日が経(た)ってもその方法が分からず、どうしようもないまま時が流れていた。里山に聞いたとしても、当の本人が分からないのだからお手上げだである。立国・・とはよく言ったものだ…と思いながら、その日も小次郎は里山が持つキャリーボックスの中で車に揺られていた。運転手は言わずと知れた雑用係も兼(か)ねる狛犬(こまいぬ)だ。陽気もかなり暖かさを増し、車内も頃合いの温度である。当然、小次郎はまたウトウトし出した。猫が一日の、ほぼ3分の2は眠る・・と過去にも言ったと思うが、猫族はよく眠るのだ。
 その日は久しぶりにテレ京の番組の収録日だった。
「そこを右へ入ったところで止めてくれ」
 珍しく、里山は寄り道の指示を狛犬に出した。
「えっ? …はい、分かりました」
 テレ京への道を走っていた狛犬は、突然のことに一瞬、躊躇(ちゅうちょ)したが、素直に里山の指示に従った。
 里山が狛犬に指示したのは新規開店した骨付きカルビ専門店だった。
「ここのは、実に美味いんだよ。駒井さんに土産(みやげ)なんだ」
「ああ! そうでしたか」
「ついでに小次郎にも買ってやろう。立国祝いだ!」
「はあ?」
 狛犬には里山が言った意味が理解できず、首を捻(ひね)った。
「ははは…、まあ、いいじゃないか」
『ご主人、ごちになります!』
 キャリーボックスの中の小次郎が大きめの人間語でニャゴった。


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