国際的な生物学会の会場である。この中で世界各国の有識者を集めた、とある会合が開かれていた。その中に、招待された里山と小次郎がいた。小次郎は里山とともに登壇してはいたが、まだ里山のキャリーボックスの中にいた。
「そんな馬鹿な話はないでしょう! いくら突然変異だからといって、SFじゃあるまいし、あり得ないですっ!!」
突然立ち上がった研究者の一人が怒ったような声で言い放ち、座った。
「ははは…、そう興奮されずに、まあ落ちついて下さい。私が報告しましたのは、我が国の学会で報告された飽(あ)くまでも仮説です」
「それなら、話は分かります。あり得ないですが、あり得ることもありますから…」
怒って立ち上がった研究者は、今度は座ったまま、少し落ち着いた声で返した。
「ご議論は後でしていただき、ここで、研究対象となっております小次郎君と飼い主であられる里山氏を紹介いたします…」
総合司会者が壇上側面の解説席から立った姿勢で話し、片腕で片隅の椅子に座る里山を示した。スポットライトの光が里山の席へ移った。