『先生、こののちはどうなされるんです?』
『そうですな…。これといって行き方を持たぬ身、しばらくこの用具入れ場で小次郎殿のその後を見守りますかな。ホッホッホッ…』
股旅はまたゆったりとした笑い声でニャゴった。
『はははっ! 僕も頑張らなくっちゃ!』
そう笑って言ったものの、小次郎に思案はなかった。
『先生、お食事は?』
『おお! そういえば、ちと腹が空(す)きましたかな…』
股旅は空腹には馴れているのか、落ちつきのある声で言った。
『しばらくお待ちください。ご主人が家にいますから、訳を言って今、お食事をお持ちします』
『そのようなお気づかいは無用でござ…』
言葉とは裏腹に、股旅の腹がグゥ~~と鳴った。
『先生、ご遠慮なく!』
『ははは…、腹は隠せませんな。では、お言葉に甘えてゴチになりますかな』
『ええ、どうぞどうぞ。では…』
言葉が終わるや、小次郎は家を目指して駆けだした。
小次郎と里山が急ぎ足で戻ったのは、それから僅(わず)か5分ばかりしてからだった。
「股旅先生! お初にお目にかかります。私が飼い主の里山です」
『ニャアァァ~~』
股旅は人間語を語れたのだが、語らぬことにした。だから、里山には当然、股旅の言葉は猫の鳴き声として聞こえた。