関取の○○と#%親方の車を見送ったあと里山は車へ乗り込み、キャリーボックスを閉じて抱えながら座った。それを見届けた狛犬(こまいぬ)は助手席の自動ドアを閉め、エンジンキーを捻(ひね)った。そして、手馴れた手つきで車を始動した。当然、小次郎はキャリーボックスの中へ入っていた。
『変わった方々でしたね。僕達のサインを欲しがるとは…』
「それだけ有名になったということだよ、小次郎…」
『そうですね』
「所長、すまんことです。私がうっかり引き受けたもんで…」
狛犬がサイドプレーキのロックを解除しながら言った。
「いいよ、いいよ。有り難いことだ、なあ! 小次郎」
小次郎は返事を猫語でニャ~~! とニャゴって返した。
「そう言ってもらうと…」
車は滑(なめ)らかに走行を始め、加速した。
相変わらず有り難くも忙(いそが)しい日々が続く春三月、桜の開花予想も出始めた頃、みぃ~ちゃんが身籠った。子供を持つとなれば小次郎も一家を構える世帯主だ。
「そうか! してやったり! だな、小次郎。お前もこれで一国一城の主(あるじ)だっ!」
歴史好きの里山に言わせれば、こうなる。
『一国一城の主なんて、大げさですよ、ご主人』
「いやいや、そういうものでもない。人間の世界では家が栄えるお目出度(めでた)い祝いごとなんだからなっ!」
里山は力強く小次郎に言った。