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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<8>

2015年06月10日 00時00分00秒 | #小説

「小次郎君からも、ひと言(こと)、お願いします。出来れば、人間の言葉で…」
 総合司会者が里山の言葉が途切れた瞬間、話を繋(つな)いだ。会場から笑い声が一斉(いっせい)に湧き起こった。
「静粛(せいしゅく)に!!」
『僕は猫ですが、話せます。それがなぜなのかは僕にも分かりません。難しいことは分かりませんが、人の場合によく言われる、物心がついた頃、話せるようになったみたいです、ちょうど、ご主人と公園で出会った頃のことでした』
 小次郎は言い終わると、最後に猫語でニャ~~とひと声鳴いた。会場の学者達は小次郎が人間語を話したことに衝撃を受けたようで、笑い声のあとは水を打ったように静かになった。総合司会者も精気を吸い取られたような表情で唖然(あぜん)として聞き入っていたが、やがて我に返り、話し始めた。
「…失礼しました。見事な挨拶でした、ねぇ、皆さん!」
 総合司会者は拍手した。司会者に促(うなが)され、観客も割れんばかりの拍手を送った。
 会場の外では里山と小次郎のお抱え運転手の狛犬(こまいぬ)が駐車場の車中で眠っていた。狛犬にとっては、一日の仕事がほとんど車中だった。里山と小次郎の移動には欠かせない狛犬である。今や、押しも押されぬ小次郎事務所のスタッフとして重要な地位を占めていた。運転だけではなく、里山と小次郎の食事の手配や雑用一切を任(まか)されていたから、ある意味、里山より大変だと言えた。そんな狛犬が車中で首を縦に振りながらウトウトと眠っていると突然、外の左横からウインドウガラスをコンコン! と叩く音がした。言っておくが、里山の車は羽振りがよくなり最近、小鳩(おばと)婦人の紹介で買い替えた外車である。


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