消耗品を除くおおよその機器、備品などには取り扱い説明書[取り説]がついている。使用方法や組み立て方法が複雑になればなるほど、取り説の重要性は増す。
「なになにっ! 部品AをCの穴に差し込んだあと、Bと繋(つな)ぎ合わせてDとし、そのDをFに接着するだとっ!!」
畑石(はたいし)は日曜の朝、昨日、勤め帰りに買った模型を組み立てていた。部品Aを探し始めた畑石だったが、なかなか部品Aが見つからない。畑石は、しばらくの間、箱の中をガサゴソと探し続けた。
「チェッ! これはGじゃないか。AだよA! 俺が探しているのはっ!」
腹立たしくて口にせずにはいられなくなり、畑石は手にした部品Gを見ながら恨(うら)めしげに思わず独(ひと)りごちた。
部品Aは、こともあろうに部品Mの裏側に隠れるように付いていた。畑石が発見できたのは、数十分後だった。やっと見つかった晴れやかな喜び・・そのような気分は畑石に浮かばず、それどころか組み立て続ける気力そのものが萎(な)えていた。
「ちょいと、休むか…」
気分をリフレッシュするため、畑石はコーヒータイムをとることにした。そうして、また作業を再開した畑石だったが、最後の詰めのところで、ふたたび難題に突き当たった。取り説には次のように書かれていた。
「ほどよく接着できた完成品は、太陽光で完全に乾かしてください・・だとっ!」
生憎(あいにく)、その日は曇(くも)り空で、日射(ひざ)しがなかった。
「どうするんだっ! えっ! どうするんだっ!」
畑石は窓から見える薄墨(うすずみ)色の空を見ながら、ふたたび恨めしげに独りごちた。作業を中断して二時間ばかりが過ぎ去ったとき、空に晴れ間が覗(のぞ)き始めた。
「おおっ!」
畑石は慌(あわ)てて模型を手にするとベランダへと走り、日の光に翳(かざ)した。どういう訳か、安らいだ気分に畑石は満たされた。あとは電池を装着し、スイッチをONにすれば模型は始動するはずだったこともある。
しばらくして模型が完全に乾ききったことを確認した畑石は、電池を模型に装着して散らばった作業場のあと片づけを始めた。そのときである。ふと、取り説の裏面が目に入った。そこには、次のように書かれていた。
※ {1}部品Aは部品Mの裏に付いています。
{2}完成品は必ず太陽光で乾かす必要はありません。
「表に書いておけっ!!」
畑石は取り説を手にしながら腹立たしさで三度(みたび)、独りごちた。
自分の判断も重要で、取り扱い説明書に頼り過ぎると畑石のようなことになる。
完